え、誰?
袴田さんのエンカウントから数日が過ぎた。
コイン集めはあれから進んでいない。進展そのものがなかったわけじゃないが、結局男も下っ端で大した情報はなかったらしいし。
しかし俺には大きな変化が訪れていた。
それは突然届いた二つのメッセージだった。
差出人は陽向と月子。陽向に関しては海の一件からあからさまに避けられていたし、月子は言わずもがな。
そんな二人から、文化祭で時間を取ってほしいと連絡が来たのだ。
うむ、さっぱり意図が分からん。
ピチャン、とどこかで水滴が落ちる音がした。風呂の中でボーっと考える。
今の我が家は一人になれる空間というのがほぼない。プライバシーが保証されているのはこの風呂くらいのものだ。
たぶん陽向は海での話だろうな。連絡をもらった直後はネガティブな考えばっかり浮かんだけど、陽向はそんなことしない。
これからも今までみたいに話しましょう、とかそんな感じかな。うん、ありそう。
じゃあ月子は?
彼女は俺を大切な存在だと言ってくれた。それ自体はすごい嬉しい。しかし、だからこそ月子は俺から離れていった。
誰が悪かったって、そりゃ俺だろう。
俺が月子に自分の正体を隠していなければ、こんなことにはなっていなかった。ただあの時の俺は、とにかく過去を知られるのが怖かった。拒絶され、軽蔑される未来に耐えられなかった。
結局のところ、俺は月子を信じ切れていなかったわけだ。
「馬鹿だよなあ‥‥」
今なら分かる。過去と向き合う覚悟がなかったから、彼女を悩ませ、傷つけた。
もしも次に機会があれば、きちんと伝えないと。俺が白銀で、アステリスで勇者をやってたって。
自分の変化に自分で驚く。
こうして勇気が持てたのは、間違いなくリーシャとカナミのおかげだ。
『ユースケさんが過去に多くの命を奪ってきたというのなら、その罪を私も背負いましょう。貴方が彼を憎むなら、私も共に憎んでください。私はたとえ何があろうと、ユースケさんを信じます』
獣の腹の中で聞こえた声。
リーシャは俺の今も過去も全て知ったうえで、共に居ると言ってくれた。
カナミは最初から俺の過去を知っていて、騙されていたのに、未だに変わらないでいてくれる。
本当、感謝しても感謝しきれない。
お湯を顔にかけ、思考をすっきりさせる。
とりあえずの方向性は決まった。陽向とは今まで通り。月子には隠していたことを誠心誠意謝ろう。そのあとはどうなっても知らん。
何とか頑張れ、未来の俺。
「ふぅ‥‥」
悩みに一応の決着がつくと、身体が軽くなった気がした。
もう少し浸かったら出ようかね。
そんなことを思っていたら、扉の外に人の気配を感じた。
誰かが脱衣所に入ってきたらしい。
え、誰?