幼馴染はURって知ってた?
総司はうろたえることもなく答えた。
「吉原が、お前が新しい恋を始めてしまうんじゃないかって心配してたから、様子を見に来たんだよ」
「心配してくれたのか‥‥いや待て、心配の方向性おかしくないか?」
お洒落髭は俺たちを詰めさせると、無理くり席に座ってきた。非常に暑苦しいからチャイルドシートにでも座っててほしい。
「それで、何の話してたんだ?」
「大した話じゃない。あいつは俺の幼馴染なんだが――」
「幼馴染だと⁉」
言葉の途中で角刈りが血涙を流さん勢いでお洒落髭に掴みかからんとした。ドリンクが倒れるのは嫌なので、それだけは避難させる。見れば、総司も同じように自分のドリンクだけ持ち上げていた。松田は飛んだフォークが額に刺さっていた。
「いったぁあああああ!」
「なんだなんだ突然!」
「貴様、大学に幼馴染なんて、そんなことが許されると思っているのか?」
「意味不明すぎるだろその理屈は。昔近所に住んでいたってだけだ。大学に入ってきたのも偶々だぞ」
おい、誰か松田に触れてやれよ。額に赤い点が三つできてクリリンみたいになってるから。角刈りはその横で、今にも怒りに怒髪天突きそうな勢いでお洒落髭の胸倉をつかんでいた。
「その言葉を聞いて余計に許しがたい。殺す」
「おい待て、三段階くらい発想が飛んだぞ」
角刈りの気持ちも分からんでもない。
お前、そんな幼馴染がいていろんな女性ナンパしてたんかい。いいなあ、幼馴染。どれだけ勇者やってても、幼馴染はできない。伝説の武具よりもそのレア度は高い。
しかし話が先に進まないので、角刈りを腕力にもの言わせて引っぺがす。
おでこをおしぼりで冷やしながら、松田が言った。
「その子がメルティ―マーケットに所属しちゃったんだ?」
「昔はそんなタイプじゃなかったんだがな」
そりゃ小学生だったら、ブランド物には興味持たないだろうなあ。
「どうやら今年のメルティ―マーケットは大規模にやるみたいでな、実行委員の巡回ルートを聞かれた」
「それは僕も興味あるね」
「やめておけ。裏天祭も楽しく遊ぶ程度なら、実行委員も何も言わん。いかんせん、それを隠れ蓑におかしなことをする輩がいるから、巡回が厳しくなるんだ」
お洒落髭は髭を手でなぞりながら言った。そこには体験した人間だけの苦労がにじみ出ていた。
どちらにせよ、俺には関係のない話だ。ソファに体重を預け、今はここにいない二人の顔を思い出した。
夜は神魔大戦に備えなければいけない。リーシャたちと昼間に文化祭を回るのが限界だろう。
興味はあるけどさ。また前みたいに俺の都合でリーシャやカナミが危険に陥るなんて、二度とごめんだ。
それから暫くうだうだと雑談を続け、総司が「そういや」と切り出した。
「結局、最近学校に来てなかったのは何が原因なんだ?」
「たいした理由はないんだが‥‥」
お洒落髭は髭を撫でながら言った。
「夏休み明けだからな、面倒くさくて行く気にならんかった」
「そうか」
「なるほど」
「そういうことなら仕方ないな」
大学の夏休みは非常に長い。しかも中高生に比べれば小金を持った大学生、遊びの幅は非常に広く、堕落するなという方が無理な話。更に言えば講義の取り方は人によって違う。本来であれば最終防衛ラインとして働くはずの『親』さえも、「今日講義ないから」は容易く黙らせる。
大学生が戦わなければならない最初の敵とは、怠学という魔物だ。
すいません、ちょっと本業が忙しすぎて、今週の更新はこれだけです。来週は頑張りますので、よろしければブックマーク登録、評価、感想など頂けると励みになります。




