こちら、新世界より
すると、工場の至る所から蒸気が噴き出し、視界を塞がれる。
混乱する工場の女達。
そのスキに、軍服の女は手を離れ逃げる。
「あ!? 待てビッチ!」
『乱暴はいけないよ? 子豚ちゃん?』
一台の昇降機が床からせり上がり、その上に長身の男が立っていた。
まるで、ジャ〇ーズ、アイドルのライブさながらの演出。
蒸気が晴れると、そこにいたのは、ゆるふわヘアーに日本人離れした顔の男。
目元は鋭くも、どこか暖かみのある目。
正面から見る顔は、ディーン・フ〇〇カのようで、見る角度によっては向〇・理か〇栗・旬。
とかく、イケメンの男に工場の女達は目も心も奪われる。
ラメの入ったスーツを着る男は、まるで、世界の全てから汚れを払うように、美声を発った。
「ラメじゃないか? 子豚ちゃん。女の子が乱暴なことをするのはいけないことだよ?」
それまで、汚い工場に相応しく、荒い声で叫ぶ肥えた女が声音を変え、恋人に甘えるように返す。
「で、でもぉ~。ずっ……と働いていたから、我慢出来なくてぇ~」
他の女達も、油臭い髪をいじったり、足をくねらせるなどして、ドギマギし始める。
三次元離れしたイケメンの男は、ここで一気に押す。
「しょうがないなぁ。言うこと聞いて作業を終わらせてくれたら、僕が子守歌を……歌って、あ・げ・る」
イケメンのウインクに、半数の小汚い女達は倒れた――――。
何となく、胸を射抜く、銃声が工場内に響いた気がする。
イケメンは、チョロい女達に聞いた。
「どう? 出来るかい? 子豚ちゃん?」
女達はハニカミながら頷いた。
それでも――――。
「もう無理です! 限界なんです……手の皮がはがれて痛いんです!」
一人のか細い女が叫ぶ。
イケメンは彼女に近寄り、潤んだ瞳を真っ直ぐ見つめて聞いた。
「どうしても、ラメなのかい?」
彼女は力強く見つめ返し答える。
「……はい」
それを聞いたイケメンは溜め息を付く。
「ふぅ……仕方ない」
イケメンは突然、両手を天に向かって仰いだ。
か細い女は、暴力を振るわれると思い、目を強く閉じた――――。
「マジカル・ラビリンス・ラブリー・リフレッシュ・ハグ!!!」
そう叫ぶとイケメンは、か細い彼女を優しく抱きしめた。
それを見た工場内の女達は、黄色い悲鳴を上げ、次々と失神していく。
「「「ラメェェェエエエえええ江江江ええヱヱヱ!!!」」」
ハグにより、感無量となった、か細い女の目から、止めどなく涙が溢れた。
作業服は機械油で汚れ 黒ずみが目立ち、汗と薬品が混じって、身体からは異臭がする。
そんな自分をラメの入った高級そうなスーツで抱きしめてくれた。
彼女には、嬉しかった。
ただただ嬉しかった……
ハグを解いたイケメンの男は、照れくさそうに彼女へ言う。
「君の口から、”無理”何て言葉……聞きたくないよ。どう? 今度こそ、出来るね?」
「で、でも……疲れて、身体が限界で……」
「限界なんて聞きたくないよ。僕が君から聞きたいのは、"死ぬまで働きたい"だ! でないと労基にうるさく言われるからね? ほら? 自分の"意思"で言ってごらん?」
か細女は涙をぬぐい頷いた。
「し、死ぬまで……働きたいです」
「偉い偉い、よく出来ました」
暴動が治まると、今度は別の暴動が起きる。
その光景をうらやましそうに見ていた、女性労働者達は
「あ、あたしも! マジカル~、何とかハグされたい!」
「私も!」「私にもして~」「あだぢにも~」
愛が混沌する中で、イケメンはある提案をした。
「解った、解った。それじゃ、これから1ヶ月。不眠不休で働いた子豚ちゃんにだけ、マジカル――――……~ハグをしてあ・げ・る」
自分で考えた名称なのに、再度言えないのか? という疑問すら忘れるくらい、工場のメス豚達は悲鳴を上げる。
「私! 倒れても働くわ!」「あたし! 死んでも働くー!」「あだぢ、もう死んでもいい!」
イケメンはプラチナのような白い歯を見せ、笑顔を作ると、トドメの一言を放つ。
「子豚ちゃん達。愛してるよ!」
^m^ ^m^ ^m^^m^ ^m^ ^m^ ^m^ ^m^ ^m^
こうして――――僕達は家畜人となった。
古代より、人類は奴隷という労働力を使い、文明を発展させてきた。
エジプトのピラミッド。
神聖ローマ帝国。
アメリカ大陸の植民地化。
奴隷が広く使われいた時代は、有に1万年はあっただろう。
人類の長い歴史において、奴隷が解放されたのは、ここ数百年足らず。
そう考えれば、また、いつ奴隷制度だ適応されるか解らない――――。
でも、それでもいいと、最近思えて来た。
なんやかんやで、女王様に罵られる環境は、悪くない。
ここでは、人権運動やストライキも起こす気になれない。
数万年の歳月をえて、ついに人間は、ある境地に達したのだ。
”尽くすのが好き”
この一言に尽きる。
”ここで働く僕達、私達は幸せです”
「ほら――――もう一度言ってごらん?」
僕達私達は、女王様の前に整列して、教え込まれことを、声を揃えて復唱した。
「「「僕達、私達は、尽くすのが好き」」」
「それって、つまり?」
「「「ここで働く僕達、私達は幸せです」」」
「もう一回!」
「「「僕達、私達は、尽くすのが好き」」」
「気分が乗ってきたから、あと、1万回イクよ! ほら!」
「「「ここで働く僕達、私達は幸せです」」」
fin
――――僕達、私達は、働き方改革を見守っています――――。