2話 気付き
放課後、私は日直の仕事を終えると同時にションに声をかけた。
『菊池くんのところ、行くんでしょ?』
『あぁ、休み時間に会ってさ、放課後にラウンジ来てくれって言った。』
『じゃあ、早く行こ!本当にションの能力知ってる人かも。』
『そうだな。それに、休み時間に会った時の顔がマジで深刻そうだった。』
ションが心配している。顔を見ただけでそう思うってことは本当に悩んでるんだな、菊池くん
『おい、早く行くぞ!』
気づいたらションは教室を出るところだった。
『う、うん!今行く』
そう言い、今日配られたプリントを半ば強引にバッグに詰め込み教室を出た。
早足で一階のラウンジに行くと、そこには下を向いていかにも落ち込んでそうな菊池くんが一番奥に座っていた。
『待たせて悪りい。ちょっと日直の仕事長引いてさ。』
『あ、ああ、そんな待ってないよ。それより、話を聞いてくれ。』
菊池くんは無理矢理笑顔を作って話を切り出そうとする。
『その前にさ、なんで俺なんだ?その、初めてだよな?俺らが話すのって』
『え、滝田から聞いてないの?あいつがそういう悩み解決にうってつけの奴いるって勧めてくれたんだけど。』
『…なるほど。あのやろう。』
『なんだ、能力知ってるからじゃないんだ。』
私は思わず声に出してしまった。
『能力?なんの話?』
『え!?あ、あぁ。こいつさ、そういうアニメとか好きで、ちょっと変わってるんだ。』
ちょ、変なイメージつけないでよ。
『そうなんだ。趣味があるっていいな。』
納得しちゃったよ。
『はじめまして、白石亜沙美です。一応こいつの付き添いで。』
『はじめまして、菊池です。一応野球部。』
『前置きはここら辺で。せっかくだからな、
お前の悩み聞くよ。教えてくれ』
『あぁ。』
菊池くんはそう言って話しはじめた。
彼はそこからノンストップで、話し続けたが、とにかく動揺とか悲しみとか混じって、途中でごちゃごちゃになっていたので、私が分かりやすくまとめてみた。
彼の悩みは、野球部のことだった。その悩みの中心にいたのは浅野雪斗という人物。私も名前だけ聞いたことのある彼は、一年前まで野球部のエースだったという。彼の腕前はプロも絶賛するほどで、将来を約束されていた。
でも、その裏で部員たちは不満を抱いていた。
『あいつはチームのこと考えてない。』
『プレーが傲慢で一緒にやりたくない』
浅野くんが活躍すればするほど、部員の不満は膨らんでいった。
そして、それを利用した人物が、菊池くん。
菊池くんはそのとき、『自分がエースになるチャンスだ』と考えてしまった。浅野くんを突き放し、ついに最低な言葉をぶつけてしまった。『お前なんか辞めちまえばいい。』と。
そして、部員たちには、
『俺がエースになればみんなと足を揃えて戦う』と言い放ったらしい。
その翌日から、浅野くんは姿を消した。野球部を辞め、学校さえも辞めていた。その後の菊地くんがエースになったチームは公式戦どころか、練習試合も勝てず、チームはバラバラ。そうしてようやく、菊池くんは『浅野はチームに必要だった。実力だけではなく、あいつそのものがエースだったんだ。』と気付かされた。
そして、相談に来たらしい。
私のまとめ、終了。
『俺がしたことは、許されることじゃない。分かってる。最低だ。でも、もう遅いかもしれないけど、あいつに謝って、また野球を、、一緒にやりたい…。』
菊池くんは、唇を噛み締めこぶしを握りながら下を向く。
こんなに真正面から悔しがっている人を私は初めて見た。本当に後悔してるんだ…。
『なるほどな。でももう後悔するな。』
『いや、でも、、』
『後悔しても何も戻ってこないし、お前の罪は一生消えない。どうしようもないクズだ。ぶん殴りたくなる。』
…ションはこういう人。最低なことをした人は絶対励まさない。むしろ、厳しい言葉を浴びせて、事の重大さを真正面から突きつける。
『でも…。』
そう言いかけながらションは菊池くんの肩に手を置く。
『気づけて、良かったな。』
その瞬間、菊池くんは拳を緩め、その場に泣き崩れた。夕日が差し込むラウンジに男の情けない泣き声が響き渡った。
『…亜沙美』
ションが呟く。
『何?』
『あれ…やるからさ。諸々頼むわ。』
ついに、使う。ションが、あの能力を。
『うん。分かった。』
菊池くんに真実を伝えるために、そして、浅野くんの居場所をつかむために。
過去への扉が、開かれる。




