9話 オワラナイ
『老夫婦が殺害されたあの日、あなたはいつものようにこの家にいた。』
『そして、その日に、老夫婦は家に入った凶悪強盗犯に殺害されてしまった。』
『でも、その時あなたはまだ9歳。正直何が起こったか分からなかったでしょう。』
『そうだね。殺されたなんて、一言で言われても、分からないかも…』
亜沙美が俯きながら、言った。
『あぁ。ただ、もう二度と2人に会えない悲しみと辛さだけは感じていたはずだ。なんで?どうして急にいなくなったの。って。』
『そして、大人になるにつれて、事実を再確認し、知ってしまったのでしょう。この事件に関する新たな真実を』
『真実?どういうこと?』
『2人を殺害した強盗犯の正体だよ。』
『強盗犯の…正体。』
『そう。その強盗犯は、ある人物の父親だったんだ』
空気が冷たい。香織さんは何も言わない。
一言一言を踏みしめながら言わないと、どうにかなってしまいそうだ。
でも、進めないといけない。この事件は終わらせないと。
『強盗犯の名前は…川島浩二』
香織さんの顔が曇る。
『か、川島?それって…』
『そう。川島夏実。彼女の父親だ。
そうですね?香織さん』
『…そうよ。夏実の父親は、私のお爺ちゃん達を殺した張本人。最初に知った時は、本当に驚いたわ。まさか、そんなことある?って何度も調べた。けど、調べた全ての資料が事実を物語っていた』
『それで、あなたは…あの夜。事件を起こしたんですね』
『たしかに、、、動機はあるかもしれない。
けど、私が夏実たちを襲った証拠はある?
ないでしょ?憶測だけで、言わないで!』
『香織さん…俺も辛いんすよ。こんなことまだ続ける気ですか?あなたは…』
『うるさい!証拠を出せって言ってんのよ!』
静かな空間に急な怒号が響き渡る。
優しげな表情を浮かべていた彼女は、もういない。
『…分かりました。証拠、ありますよ?
いや、証拠というか、証人が』
『証人?誰よ!』
『ここには来れません。ただ、その人は涙ながらに語ってくれました。全てを。
そう、あなたと協力して、夏実さんを襲ったということを…』
『まさか…』
『そう。金澤涼子さんですよ。彼女は8年前の事件に関係のない人物だ。なのに何故、彼女と夏実さんがあの資料室にいたか…』
『それは、涼子さんが、あなたの指示を受けて、夏実さんを資料室におびき出したんです』
『あ…あ…』
『そして、計画通り後ろから、あなたがスタンガンで気絶させた。さらに、協力者である涼子さんのことさえも、襲った!』
『あ…アァアアァアあ…なん…で…』
『苦しんでたんです、あの人も。
苦しみながら、考えに考えた。でも、止めることもできず、協力してしまった…って言ってました』
『あんたのやったことは…本当に最低だ。復讐なんてくだらない事に友達を巻き込んで、挙げ句の果てに、その友達までも…。普通なら、もう二度と会うことなんかできやしない』
『でも、あの人…涼子さんは言ってたよ』
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『あの…笠原さん。お願いがあります…』
『はい。なんですか?』
『彼女を…香織を救ってあげてください。
苦しんでるんです、1人で。でも、私は救えなかった。何もできなかった。でも、笠原さんなら、彼女にかかってる呪いを解くことができると思うんです。お願いします』
『なんで?共犯して、更には襲われたんですよ?なのに、なんであなたはあんな酷い人のことを…』
『彼女は…香織は、ひとりぼっちの私を救ってくれたから。彼女は…私のヒーローなんです』
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『…り、涼子…。そんな、ことを…』
『本当はあなたも止めてもらいたかったんですよね?だから、俺に依頼をしてきたんだろ?本当にバレたくなかったら、誰にも相談なんてしないしな』
『私も…こんなことしたくなかった!でも、なんかよく分かんないの…事実を知った途端、怒りが沸々と湧いてきて…。
そして、あの人にスタンガンを」
『え…。あの人?』
『そう。フードかぶった人に突然言われたの』
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『あなた、このままでいいの?』
『だれ?あなた』
『このまま、復讐しなくていいの?怒りを解放することは、罪じゃない。家族といっても、同じ血が通ってるの。分かる?凶悪殺人者の血が、あの子にも』
『…憎い。何か、してやりたい…。でも、何も思い浮かばない…』
『私が、手を貸してあげる。計画も、凶器も全て。私に任せなさい。私たちの手で、復讐を成し遂げましょう』
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『復讐を…促された?』
『そう…。そこから、言われた通りに動いて、怒りのままに彼女を…。そこからの記憶は正直曖昧で…』
第三者がいた?彼女に復讐を促した人物が?
たしかに、普通の女子高生が考えたトリックにしては、計画が巧妙過ぎる。
涼子さんが、話してくれなければ、証拠さえ殆ど見つけられなかった。
誰だ?
『香織さん。その人物に心当たりは?』
『いや…顔も見えなかったし、声も機械音みたいな声だったから』
クソ!振り出しか…
『でも…』
『でも…?』
『私の事情に凄く詳しくて、犯罪知識なんかも凄くて…正直、怖かったわ…』
犯罪に詳しくて、香織さんの事情にも…?
まさか…
『…香織さん。事件を起こした後のこと1つ聞かせてください』
『…事前にその人から言われてたの。後処理は私がやるから、貴方はすぐに逃げなさいって。だから、私はすぐに逃げてしまったの…ごめんなさい…』
『そう…なんですね』
『亜沙美。おじさんを呼んで、ここで待っててくれ。香織さんのことも頼む』
『え…?ションは?どうするの?』
『この事件の真犯人に会いに行く…まだ、終わってないからな』
『え?分かったの?香織さんに全てを仕組んだ人が』
『あぁ。信じたくないけどな。それと、香織さん』
『…』
『促されたとはいえ、あなたのやったことは犯罪です。ちゃんと、償ってください』
『…はい。本当にごめんなさい』
『それで、また会えたら…あなたの祖父母の話聞かせてください。俺も、あの人達のこともっと知りたいから…』
『…笠原くん…ごめんなさい。ありがとう』
そう言って、俺は歩き出した。全てに、この呪いに決着をつけるために…』




