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memories dive〜メモリーズダイブ〜  作者: しょーごーる
呪いの救済
12/17

5話 謎

沈む。沈んでいく。

いつもこの感覚だ。

水の中に沈んでいく感覚に似ているが、息はできる。途中で意識が途切れ、気づいたら過去に来ている。

今でこそ慣れたが、初めてこの能力を使用した時は訳が分からなかったし、普通に死ぬんだなって思った。割と怖いんだよ、これ。

そうしてまた、目がさめる。


『こ、ここは…』


辺りを見回す。住宅街、時計を気にしながら小走りするサラリーマン、とてつもない香水の匂いをさせながら歩くOL、異常にデカイ声で話す女子高生。なんでもない風景の中に俺は戻って来ていた。

まず状況を把握するため、植え込みから身体を出して、何気なく左右を確認する。


『あ、この家…』


俺が見た先に、あの家があった。老夫婦のあの家。廃墟の時も薄っすら感じてはいたが、なかなかの大きさだ。2人で住むにはもったいないくらい。前見た時は、ボロボロだったが、今俺の目の前にある家は、人が住む温もりみたいなものを感じ取ることができた。


老夫婦に、色々と話を聞かないとな…


そう思った俺は、身体中に付いた葉っぱやら枝やらを払いながら、玄関に向かい、昔ながらのインターホンを押す。


『…はい。』


『あ、突然すいません。俺、高校生の笠原詩音と言います。今、お話ししてもいいですか?』


『えぇ、どうぞ。』


『今、高校の課題で「家の造りを考える」っていうのが出てて、身近にある気になる家を調査しろって言われてるんです。それで、実は俺、割と前からこの家のデザインが好きだったんです。良かったら色々と聞かせていただきたいんですけど、お願いできませんか?』


少しの沈黙の後、


『分かりました。どうぞ?あまりおもてなし

できないけど、大丈夫かい?』


『全然大丈夫です!すいません、ありがとうございます!』


こんな適当な理由でも通してくれるんだから、優しい人に違いない。

俺は心の中で、謝罪を繰り返しながら家の中に入っていった。


中は、とても綺麗に保たれていて、畳独特のいい香りがした。造りは、和風って感じの凄く雰囲気がある家。なんだか居心地はすごく良かった。


『今、お茶淹れますから、そこに座っててもらえますか?』


『はい、ありがとうございます』


俺は、和室の座布団の上に腰を下ろした。

マジで落ち着く。耳を澄ますと、お茶を入れる音が聞こえてくる。


『はい、どうぞ』


綺麗な緑色をした緑茶が運ばれてきた。茶柱は…立っていない。


『宿題、大変だねぇ…。家について聞きたいんでしょ。わたしで答えられることはなんでも答えますよ』


『あ、じゃあ早速…』


俺は、怪しまれないよう、最初は家の造りのことや工夫について聞いてみた。おばあちゃんは、とても親切に答えてくれた。話も面白く、自然とこっちも笑っていた。


一通り「課題」についての話を聞き終えた後、家族構成や最近の話についても教えてくれた。


夫と二人暮らしだということ。うちの高校出身で、演劇部として活躍してたこと。今は8歳の孫がいて、よく遊びに来ること。それらを嬉しそうに話してくれた。


『あれ、そういえば旦那さんはどこにいるんですか?』


『お爺さんは、二階で寝ているよ。昨日2人で山に登って来てね。疲れちまったんだろうね』


『元気っすねえ、俺なんか絶対無理』


『若いのに何言ってんの。身体動かさないと、早く逝っちまうよ』


そんな何気ない会話?を陽が傾くまで楽しんだ。



『うちの孫もね、ほんとに可愛くてね、この前なんか…あら、もうこんな時間ね。わるいねぇ、あなたと話してるの楽しくてつい…』


『いえ。こちらも凄く楽しかったです。ありがとうございました』


そう言って立ち上がり、地味に痺れた足を引きずりながら帰ろうとすると、1つの箱が目についた。


『あ、これって…』


『あー、孫がね、遊びに来るたびに家からおもちゃを持って来てね、そのまま置いていくんだよ。今では溜まりに溜まって箱一杯になっちゃったねぇ』


そんな話を聞きながら、何気なくおもちゃを1つ持ってみる。


『うわ!懐かし!これって「ベアートーク」じゃないですか!クマのおもちゃと話せるんですよね!子供の頃、よく遊んだなぁ…』


『おや、おかしいねぇ?それは確か去年発売したって聞いたけど』


やばい、ミスった!


『あ、いや、えーと。これって実は4代目なんですよ!俺が遊んでた奴は初代でね、ほら、この裏に書い……え?』


俺は、突然目に入ってきたものに言葉を失った。途端に心臓がバクバクする。鼓動が抑えられない。なんでこんなところに?どうして?


『ん?どうかしたの?』


おばあちゃんの声で我にかえる。


『あ…いや…』


『あ、あのすいません。1つだけ聞いてもいいですか?』


混乱する俺は、頭に浮かぶ唯一の質問をぶつけてみた。


『あぁ、そうだよ。失くさないようにね、書いてあるんだよ』


当たってしまった。俺の予感が的中した。

予定ではこの後すぐ、現実世界に戻ろうと思っていた。

でも、このままじゃ戻れない。戻っちゃいけない理由ができた。


『あの、ありがとうございました。色々と聞けて楽しかったし、お茶も美味しかったです』


『いいんだよ。私もこんなに他人と長く話したの久々で楽しかったよ。また、暇な時にでもおいで』


『………』


『ん?どうかしたかい?』


『あ、いや…すいません。そうですね、

また今度…』


そう言って俺は静かにドアを閉める。


ーまた今度ー


そんな何気ない言葉が今は重く心に残る。

過去に戻れば、こんな風に死んでしまった人に会うこともできる。話すこともできる。

だが、これから彼らに訪れる残酷な未来を変えることはできない。伝えることもできない。

だから、結局死ぬほど辛い。

そして、無理やり過去を変えようとすると、必ず最悪の結果が待っている。


ーもう、あんな思いはしたくない…ー


『ごめんなさい。ありがとう…』


俺は辛い気持ちを押し殺し、次の目的地に向かって歩みを進めた。

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