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真相里見八犬伝  作者: 下上次郎
第一楫  奥村仁右衛門、里見一族に出会うこと
1/6


○ 序


 フッと風が吹き――


 頬を打つ雨粒に、奥村仁右衛門は目を覚ました。

 大粒の雨が、体を打っている。

 身を横たえたまま、目玉をわずかに動かす。

 総身が痛み、呼吸するのも億劫だ。

(一体、自分はどこにいるのか――)

 

 眩暈がおさまると、樹幹がくっきりと浮かび上がる。

 茫漠とした仁右衛門の意識が、わずかに立ち直る。

 上野のお山か、と思ったときには、慌てて身を起こしていた。

 赤子の激しい泣き声が、いくさ場を引き裂くように、轟き渡っていたからだ。


 仁右衛門は戸惑った。

 具足の下で羽織がグッショリと濡れている。

 よほど長い間気絶していたらしい。

 疲労と相俟って、全身がおもだるい。

 薩長腹の新式銃ときたら――

 仁右衛門の烈々たる戦意を、易々と奪ってしまった。

 胸には数層の裂傷がひらき、とまれやっかいなのは胴体に食い込んだ、三発ばかりの弾丸だ。 

 痛みを堪えて身を返す。

 どうにか、肘をついた。

 地面は、敵味方が踏み荒らして、泥沼と化している。

 仁右衛門は、刀を探して這いまわった。

 ――と、仲間の遺体が、あちこちに転がっている。

「いくさは終わったのか……?」

(彰義隊は負けたのか――)

 そのわりに、銃声だけが散発的に聞こえる。

 にもまして、赤子の悲鳴は激しくなる一方だ。

「どうなってる?」

 ようやく愛刀を探し当てたが、激しい闘争のために、根本から折れ曲がっている。

 仁右衛門は舌打ちをして、死体の刀を奪いとった。

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