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法術省 特務公安課  作者: 秋山 武々
第1章 火の複眼
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火の複眼 #5

いつか聞いた優しい声。


細身とは思いきや触れた瞬間に筋肉質な肉体であることはそういう乙女な部分が欠如しかかっている赤館にもすぐに分かった。


ありがとうございます。と伝えて男性の顔を見上げると男性は二コッと笑った。


私はこの人を知っている。


急に恥ずかしくなってごめなさい、ごめんなさい。と何度も繰り返した。


今日からはこの人と肩を並べることになるんだ、しっかりしなきゃ。


入庁初日に顔面に擦り傷を作ってしまうところだったが、手を取って支えてくれたのは大学時代の恩師、そして、入庁試験の面接官だった。


彼は磐城和文。


大学講師時には最年少で「法術概論」と「法術思念体学」で教鞭を振るい、法術省設立時には特務公安課の初期メンバーとして入庁している。


正にテキスト通りのエリートといったところだが、誰とでも分け隔てなく接する人柄が磐城さんの元に人が集まってくる要因だろうと思う。


私も磐城さんのことは好きだ。人として。


「入庁試験ぶりだね。面接の時は驚いたよ。今日からよろしくね。」


磐城さんは私のバッグについたゴミを落とすような手振りをして声をかけてくれた。


「あの時は私もびっくりしました。あっ、磐城さん、急に大学辞めちゃうし道場にも来なくなって勝手すぎですからね。この借りは返してもらわないと・・・。」


私は当時のことを思い出し少し怒りと寂しかった想いをぶつけた。


「いや、あははは、あの時は僕もバタバタしてまして。」


と磐城さんは気まずそうに苦笑いしながら赤のエレベーターの方に私を誘導した。


エレベーターが到着して乗り込んでからは磐城さんに今週のオリエンテーションの内容を説明して、局長から突然質問を投げかけられるから当てられたら罰ゲームだと思えとか経理課の課長の話が長くて眠くなるとか先輩のありがたいお話を聞くことができた。


エレベーターが目的の階に到着し、磐城さんはすっと手を出し、これこそがレディーファースト!のような振る舞いで私をエレベーターの外に誘導した。


「ようこそ、特務公安課へ。」


私は大きく1階深呼吸してエレベーターから一歩踏み出した。


今日から法術士としての公務が始まるのだ。

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