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法術省 特務公安課  作者: 秋山 武々
第1章 火の複眼
11/15

火の複眼 #1

AM6:04。


リニア電車の走行音で目が覚める。


以前の電車と比べてではだいぶ抑えられているらしいが独特の駆動音はマニアの間では「鉄道たるなんちゃら」がないとか言われている。


そんなマニアたちの論争は別としてさすがにそのなんちゃらは駅徒歩2分の賃貸マンションでは気になるものだ。


目覚ましのアラームが鳴るにはまだ30分程早いが、思ったより頭が冴えているのですっと状態を起こし立ち上がった。


カーテンの隙間から気持ちの良い秋の薄黄色めいた朝日が部屋の中を指し照らす。


大型量販店で何気なく買ったカーテンだが、色と柄共に我ながらセンスが光っている。


両の手でカーテンを思いっきり開けば少し遠くに法術省の庁舎が見える。


私、赤館亜希は今日から念願の「法術省 特務公安課」の職員となるのだ。


2年間研修期間ははじめこそおぼつかなかったが、あっという間の時間だった。


一緒に苦楽を共にした仲間達が恋しい。


人と距離を縮めるのが苦手な私が変化した貴重な期間だったし、フルゥにもいい体験だったみたいだ。


歯を見せてニヤけそうになるのをこらえ、スタスタと洗面所に直行しぬるま湯で顔を洗った。






「フルゥ。7時には出るからね。」


まだおやすみ中の風の精霊に一撃目の目覚ましの為に声を掛ける。


「フルゥ。今日は”ユウキュウ”を使う。」


まーた、変な言葉を覚えたな。


研修中から人前に出ることが多くなったフルゥは私以外の士官候補生との交流も増え、人間味を帯びてきた。


「まだ、私たちはユウキュウは使えないの。家を出る時にはちゃんとマナ化してね。」


「フルゥ。分かってる。”ユウトウセイ”。」


横目でフルゥに目をやりながらパンとコーヒーを口に含んで、タブレットで今日の法術関連のニュースに目を通す。


法術を取り入れた新型家電の発売決定で企業の株価が高騰、無人旅客輸送機の事故や過去の法術事件の裁判など私にはまだ理解し得ない情勢変化や知っておかなければいけない事件事故がつらつらと書かれていた。


一通り、目を通して私は身支度を整える為にベッドルームに向かう。


「フルゥさん、フルゥさん、あと、15分後には家を出ますよ。」


二撃目の目覚ましをお見舞いする。


フルゥは伸びをするとゆっくりを羽を広げて部屋の中を旋回し始めた。


「亜希が”オケショウ”してる。祭典じゃないのに”オケショウ”してる。」


「初日だからね、第一印象が大切だからナチュラルな感じで。」


学生時代のセミロングをばっさりと切ってショートボブにした。


特に失恋はしていない。


髪が長かろうが短ろうが私の恋愛事情に関与することはないと有意差は出ている。


ふっと壁掛け時計を見るともうそろそろいい時間だ。


「フルゥ。出かけるよ。」


フルゥは体を粒子状にして赤館のネックレスに自ら吸い込まれるように入っていった。


最後にもう一度チェックしなきゃ。とバッグの中身を見て持ち物を確認する。


白いブラウスに黒のパンツスーツのジャケットの胸元には昨日、箱から出したばかりの法術省のバッジが輝いている。


玄関の姿見で身嗜みを整え、母との写真を見つめた私は「いってきます。」と伝えドアを開けた。

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