国門攻防(1)
ランドール公国所属、エルンスト陸軍少将は断腸の思いでセレスの無血開城の要求を受け入れた。
クリフ大公より、この地の防衛を任じられた時から、このフランクリン国門を枕に討ち死にする覚悟はできていた。
「敵の甘言だ!何故優勢な相手から、そんな申し出がでる?我々は舐められていると気づかんのか?」
「いいや、これはセレス側からの最後の慈悲と考える。我々がこれを拒絶する事は、講和への道を閉ざすのと同義だ。受諾こそが我々に残された道だ!」
「この敗北主義者共め!」
「対話こそこの荒んだ戦争を終結する近道だ、口を噤む者に未来はない!」
だが、無血開城派と徹底抗戦派とで真っ二つに割れ、流血騒ぎにまで発展した事で、その態度を軟化させた。
友軍同士で戦い合う事態は避けたいエルンスト少将は、抗戦派の主だった士官達を営倉にぶち込み、国門内の意思の統一を強引に図った。
そしてセレス側と同じ人数で軍使を派遣し、対談場所へと赴き、連名で紙面に署名をすれば終わるはずだった。
無策な拡大政策を続ける暗君に、国の舵取りは期待できない。大公の夢や野望に付き合った代償がこの結果だ。
誰も彼もが傷付き、大事な人、想い人、肉親が亡くなり、その果てに何が残るのか。
国や自国民、生活に必要なありとあらゆる物質を戦争に総動員し、民が飢えようが、国土が痩せ細ろうが関係ない。
全ては外地獲得の為の歯車。
国を裏切る行為を肯定する事は、本来なら指揮官にあるまじき行為だが、エルンスト少将はそれを断行した。
歴史に悪名として名が残ろうが、全てはランドール公国という国を存続させる為。
そう自分に言い聞かせるエルンスト。
「後はセレス側との交渉が成功するのを祈るばかりだな。あちらに粗相がないよう、細心の注意を払って…」
銃声が鳴り響く。
「少将⁉︎セレス側の軍使がっ…」
「見えているさ、どうあっても我々に滅んでもらいたい一派の差し金か。この場合、真っ先に疑惑を向けられるのはランドールだ。ならば当初の予定通りだ!」
「し、しかし⁉︎我が軍はその様な指示は、一切出していないと弁明せねば!」
「もう何も言うな、セレス側に詭弁だと一蹴されるだけだ!後は軍人としての仕事の時間だ、祖国を守る誉れある仕事のな」
「そんな、そんな事が…」
対面場所が騒がしい、自分達だけ助かろうとした、これは天罰なのだろうか。
全てはご破算、後は転がり落ちるだけ。
どれだけの命がこの国門に注ぎこまれるのか?結局は何も変わらない。
ランドール側かセレス側か、それとも第三国の意思かは定かではないが、もうセレス側の慈悲の姿勢は今後ないだろう。
エルンスト少将の願いは叶わない。
ならば一人でも多くの国民を守る為、この国門にて時間を稼ぐ可能性に賭けた。
『エルンストより、フランクリン国門に籠る全てのランドール公国軍へ告げる。対話の道は閉ざされた、ならば武力で持って相手に語りかける他なし!防衛戦闘を続行せよ!繰り返す、防衛戦闘を続行せよ!』
国門の内外に銃火の嵐が吹き荒ぶ。
セレスの国旗で軍使の遺体を包み、それを丁寧に指揮所へ運ぶアンリエッサ。
私の提案に一番最初に賛同してくれた彼は、もう動かない、何も語らない。
フランクリン国門へ集結したセレスの軍勢は、上の判断を待たずに国門攻撃を再開し、砲兵陣地からは絶え間なく砲撃が続き、先鋒集団がランドール側の陣地帯へ迫る。
「結局、いつも通り。信じれば通じるなんて淡い期待を抱いたのが、愚かだったのか。私達は戦いしか残っていないなんてね…」
アンリエッサの落胆に、周囲の兵士達もどう言葉を投げていいか分からない。
戦闘は再開し猛烈な攻勢が続くが、一部のマネキン達も参加している。
アンリエッサは動けないでいた。
「アンリエッサさん…」
「メイ…、ごめんなさい。色々考えたんだけど、私の力不足で変わらなかったわ。後は私の仕事を為すだけよ」
「無理しないで、貴方は精一杯頑張ったわ。だからちゃんと戻ってきてね、貴方は私の希望なの。だから、…ね?」
軍服姿のアンリエッサを、抱き締めるメイの身体がほんのりと温かい。
自分の血の通わない機械の身体に、メイの気持ちが染み渡るかの様だ。
これまで事務的なアンリエッサの、戦う理由ができた瞬間であった。
双子の主人の為でなく、平和を願う為でもない、ただ目の前にいる女性の為に。




