死中に活路を求めて
ライナレス線での軍議は数日にも及び、セレスとの決戦か講和かで揉めに揉め、結論が出ずにいた。
その間にも、ランドール遠征軍内部からは、逃亡兵や脱走兵が後を絶たない。
いくら警備を増やそうが、歩哨を立たせようがお構いなしに、セレス側へ投降する者や、徒党を組み野盗へと成り果てる
者達が大勢いる。
戦況が完全にあちらに傾いた影響で、戦意はドン底に近い状況だ。
精神と体力をすり減らす日々に疲れ、兵士達が平穏を求めるのは仕方ないのかもしれない。
逆にセレス側にしてみれば、敵が徐々に自壊する状況など、願っても無い好機であると、諸手を挙げて喜んでいた。
投降する者達に対しては、寛大な態度で応じている。戦わずにして、ランドールの戦力が縮小してゆく。
だがそれも末端の兵士達の行動であり、遠征軍本隊からしてみれば些細な事だろう。まだ心まで折れてはいない。
そして軍議では1つの方針が決定し、全軍がその戦略を持ってセレス側と対応する事に落ち着いていく。
「議論は出尽くした感がありますな、皆の意見を統計すると、抗戦派が、講和派をやや上回る結果となった。だが会戦にて決戦を臨む案には、私は反対だ」
「何故ですか参謀殿?」
「先の見えない中そんな事をすれば、運良く勝利しても次が続かない、それは敗北した場合でも同じた。我々に求められるのは継続した闘争、常にセレス側にとって脅威であらねばならない」
軍議中に書き留めた議事録を眺めながら、参謀は持論を展開してゆく。
淡々と、事務的な報告の様に。
「ライナレスだけではなく、小規模な拠点を何箇所も設営する。そして主力が何処にいるかセレスを撹乱する以外に、活路は開けない。常に動き回り、対峙し続けて居場所を把握させない事が肝要かと存じますが?」
ニミッツ中将へと視線を向ける参謀に、会戦派である士官達は、面白くない顏をしている。自分達の主張を否定され、拠点を増やせとは…。
内心は腸が煮え滾る思いだが、中将の言葉を素直に待つ面々。
「ふむふむ、理解した。我が軍が取るべき道筋は見えたな、早速準備に取り掛かるとしようか参謀。候補地はあるか?」
「はい閣下十数箇所程ですが、廃村や炭鉱跡地、集積所跡地など、人影のない場所をピックアップ致しました」
「よろしい、では作業開始だ諸君。忘れるなよ我々は高潔であらねばならない、故に離反者は許さない!たとえそれが見知った人物であっても処断する、これは絶対だ!大公殿下に勝利を、ランドールに勝利を!」
「「はっ!ランドールに勝利を!」」
会議室に集まった士官達に、割り振りを行い、各々が任地の場所へと向かう。
ティル遊撃隊も当然指名され、同じ場所へジェイコブ大尉に、ミラー少佐達の隊も指名されていた。
「またよろしくお願い致します大尉!それにミラー少佐も!元気な姿を見られて、僕も嬉しいです!」
「少し寝坊したわティル中尉、貴方もしっかりね。本国にとって、我々の存在はより重要さが増している。お互いに頑張りましょう、また後でね」
「よろしく中尉!なにかと縁があるな俺達は、これはもう運命だな!」
「はいっ!」
戯けた態度のジェイコブ大尉に、真面目な態度のティル中尉に面食らっている。2人共部隊の指揮を執るべく、自分の隊へと戻ってゆく。ティルのはにかんだ笑顔に、ミラー少佐の顔が綻んでいる。
それをにやけ面で見るジェイコブに気づくと、慌てて気を取り直す。
「ジェイコブ大尉」
「なんですか少佐?」
「これから鼠が敵にも味方にも大量に湧くと思うから、貴方達の情報部隊には、これまで以上に働いてもらうわ。それこそマリーベルの時の比ではない、必ず内部工作や煽動者が現れる。それを根刮ぎ刈り取りなさい、手段は任せるわ」
「ますます嫌われそうだ、了解ですよ少佐。精々職務に邁進するとします。少佐も気張りすぎには注意して下さい。病み上がりなんだから、無理は禁物です」
途端に真顔となるジェイコブ。
ミラー少佐が無理矢理に軍議に参加したのを、薄々勘付いている。
皆を安心させたい気持ちもわかるが、体調は万全ではないなら療養に専念すべきと思うが、正義感の塊である少佐には難しい事柄だろう。
「無理もするさ、祖国の為なら…」
「不器用ですね、相変わらず」
翌日未明、主力を残しつつライナレス線より、各所に散らばる遠征軍。
数を絞り、敵に捕捉されない程度に留めた戦力が蠢く。不屈の精神で。




