トリアハン海峡海戦
「東南海上にてランドール艦隊捕捉、当艦敵を発見せり!」
「よろしい、各艦艦隊戦用意!特殊弾頭の使用はまだ控えろ、先ずはお手合わせだ諸君!敵の出方を探る!」
旗艦エルトダインにて指示を出す艦隊司令の横では、アンリエッサが腕を後ろに組み、海上に群がるランドール艦船を値踏みする様な視線を向けている。
「これでいいのですかな?」
「問題ありませんわ艦隊司令、刻がきたら特殊弾頭を使用して下さいませ。まぁ私が我が方不利と判断したら、その限りではありませんが、ご認識を」
「留意しましょう」
セレス側は旗艦エルトダインを中心に、輪形陣にてランドール側と対峙する。
ランドール側は、高速戦艦を筆頭に、梯形陣で相対している。
「司令、どう彼らと戦うのか一つ私にご教授願えませんか?彼方のご自慢の高速艦隊をどう破るのかを」
「わかりました。我が方はランドール側に比べたら鈍重な艦船が多いので、アウトレンジにて艦砲射撃をします。ランドールはその間隙を縫いながら接近し、得意の乱打戦を狙うでしょう。我が艦隊は外周沿いに展開し、内側に潜りこんだランドール側に対して、例の弾頭を使用致します。だいたいこの様な筋書きです」
「概ね理解致しました。司令や皆様の活躍に期待してますね」
艦橋内で、司令とアンリエッサに温度差がある様に思える。
艦隊司令は悲壮感を滲ませ、アンリエッサは楽観的な姿勢を崩さない。
ニヤニヤした表情で、艦橋の窓より戦況を見守るアンリエッサ。
薄気味悪い奴だと、侮蔑な視線を送る艦隊司令と海軍士官達。
隠そうとすればする程アンリエッサの口角が上がり、口元に手を当て強引に冷静さを装うにも、笑みが溢れる。
【アンリエッサ、何が可笑しいの?】
マネキンの問い掛けに、喜色を浮かべるアンリエッサ。普段感情の起伏の乏しい彼女にしては稀である。
【だってさ、だってね。自分達から自ら進んで標的になるなんて、まともな神経じゃない。君達の訓練相手になってくれる存在よ、彼らの献身に感謝ね!】
そこへ艦橋内の管制官の一人が、司令に対して報告を上げる。
「まもなく第一戦列が敵艦隊を射程圏内におさめます、更に引きつけますか艦隊司令?指示を願います」
「予定に変更はない、第一戦列は射撃を開始せよ!敵を内側へ誘い、外周に陣取る様に厳命せよ!」
「はっ!」
ランドール側の艦隊も、セレス側の艦隊数とほぼ同数。通常ならば技量の差と、時の運が左右する海戦。
通常であるならば…。
迫る艦砲射撃を、蛇行しながらに回避するランドール側。セレスとランドールの熾烈な殴り合いが行われ、中破炎上する艦や、機関部が大破し漂流する艦船、弾薬庫に誘爆し船体が真っ二つになる艦が続出している。
艦の破片や水兵達が、水面に浮かぶ。
やがて、ランドール艦隊を内側に誘い出し、外周沿いに展開を終えたセレス艦隊は、特殊弾頭の使用を決断。
艦砲を最大仰角にし、弧を描く様に砲弾がランドール側を襲う。
弾頭に括りつけられたマネキンが空中で分離し、続々とランドール艦船へと降下し、各艦の機関部や弾薬庫、艦橋へと動き始める。
水兵達は驚きながらも、マネキンの排除に動き出す。
「敵だ…、敵だー!」
「応戦しろ、機関銃座、直接照準せよ!弾薬は惜しむな、殺せ!」
降下してくるマネキン達を、空中で撃破し続けるランドール側。
だが粉雪が舞う様に、パラパラとマネキン達が艦船へと纏わりつく。
外壁に、甲板に、砲座に、艦船のありとあらゆる箇所から侵入してくるマネキン。蜂の巣になりながらも、艦船の脆い部分へと殺到する。
彼らに武器らしい物はない、素手で水兵達を切り裂き、尋常ではない膂力で圧倒している。艦船の狭い通路にマネキンがひしめきあっている。
「遊ぼう、遊ぼう!」
「もっともっと遊ぼう!壊れるまで遊ぼう、まだできるでしょ!」
湧き出る様にマネキンが後から後から続く、ランドール側の艦船から断続的な爆発音が続く。
「こいつら一体何だ⁉︎」
「知るかよ…、ブッ殺せ!」
水兵達が粘るもまた軍艦の一つが、マネキン達にのまれていく。




