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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
狭まりゆく包囲網
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問う者と問われる者

『ランドールは負けるべくして、敗北する。これは自明の理であり、我が軍は国土を蛮族から奪還せねばならない!大公の悪しき狂信者達を駆逐し、セレス国民を守護する事こそ、我らが勤め!戦友諸君、狂信者の屍の上に、我らが栄光の旗を翻すのだ!奴等に死を、我らに勝利を!セレスの加護があらん事を!』


『前進せよ、旗を掲げよ!』


方面軍司令官の演説が、通信機を通じて繰り返し流される中、南区の河川より、ライナレス攻略軍団の揚陸艇が雲海の如く攻め寄せる。


ピーッ、ピーーッ


揚陸艇が接岸し、扉がけたたましい音を上げながら開きゆく。

切羽詰まり、逃げ腰のランドールの後背を撃つ仕事だと、たかをくくっていた兵士達は、実際に南区のライナレス最前線に到着し、認識を改める。


幾つもの揚陸艇が大破して座礁し、乗組員ごと黒いオブジェになっている。

空軍の戦闘機の残骸や、陸軍の戦車が穴だらけになり、友軍の兵士が転がる。


「ランドール守備部隊とエンゲージ、エンゲージ!敵の総数は不明、敵の全容が見えない!本部、聞こえるか本部!火力支援要請を請う!」


「そのまま待たれし、現在友軍が前進中なり。現状は維持できるか?」


「維持もなにも、敵が湧いてくるんだよ!敵は大規模な地下拠点を有している、我々は翻弄されっぱなしだ!」


「第17分隊、第18分隊を支援にあてる。敵の位置情報を探れ。こちらとしても情報がほしい、善処するよう期待する」


本部側のおざなりの対応に、現場の分隊長が荒々しく通信を切る。

叩き上げと新兵の混合部隊である自分らに、たかだか一部隊支援につけただけではどうにもならない。


ランドール守備部隊はおそらく精鋭だ。

姿を見せず、的確にこちらを屠り続けるなんて真似、そうでないと説明がつかない。本部は暗に、俺達に特攻しろと言っている様なものだ。


「馬鹿野郎がっ!俺達を駒かなにかと勘違いしてやがる!糞っ!おい、接近中の第18分隊と連絡はつくか?」


「分隊長…、それが、奇妙な通信が先程から聞こえるのですが…。私には判断できかねる事態でして」


「奇妙な通信?友軍だろ?」


「いえ、女性の声の様に聞こえますが、我が軍宛てでないのは確かです!連中のプロパガンダでしょうか?」


新兵の通信兵が、おっかなびっくりに報告してくるのを、部隊長は眉を顰めながらに通信機に通信を試みる。


「こちらライナレス攻略軍団第17分隊である、第18分隊聞こえるか?応答せよ、こちらは第17分隊である」


「ザザ…、ザザザ…」


分隊長の問い掛けに激しいノイズが返答した後、こちらを見ているかの様に、問い掛けを行う女性の声が聞こえる。

しっかりとした口調だ。


「…貴方達は神という存在を信じているのでしょう?万物の創造主である神に祈りを捧げ、食前にも祈りを捧げる信心深い信者。それなのに人同士で殺し合い、憎み合う。これって不思議だと思わない?まぁ貴方達が黄泉の国に行ったら、神様とやらに言ってくれる?」


「何を言うのだ、ランドールの蛮族?」


「相変わらず、私達の世界は争いが絶えません。汝隣人を愛せよではなく、汝隣人を殺めよの間違いではありませんかって、神様に伝言しといてね」


「面白い事を言う!お前は一体何処の誰なのか教えてくれないか?」


「私?私は、そーね…」


分隊長はハンドサインで、部下達全員に全周囲防御の指示を出す、隊伍を組み、お互いの死角を埋め合う。

途端に緊張感が増す部隊、そもそも、こちらの通信機の周波数を知る存在など、まともな奴な訳がない。

こいつは異質だ。


「私は、『亡霊』と貴方達に呼ばれる存在かな。最初はベロニカで、今はこのライナレスに身を寄せているの。今神様の元に案内してあげるわ…」


「ぶ、分隊長っ!こいつは!」


「騒ぐな、噂のランドール側のギフト持ちだ!こいつを殺れば俺達は英雄だ、まさか女性とはな。殺ってやる亡霊!」



トアは対物ライフルで目標を覗く。

しっかりとした方陣を組み、遭遇戦に対応する構えに見える。

悪戯心で、ついつい彼らを刺激してしまったのは私のミスかな?


「これじゃあティルに叱られちゃうわね、これで名誉挽回するとしようかな。貴方達の神様に宜しくね」


弾丸をスライドさせ、空薬莢が飛び跳ねる。指で弾丸をなぞりながら、さらに次の弾を装填するトア。

対物ライフルから射出した弾丸が、兵士達の身体に大穴を開けていく。


先程のガラの悪い分隊長も、ベテランの兵士達も、編入されて間もない新兵達の区別なく、敵を殺す。




みんないない…。

分隊長は突然首から上が吹き飛び、同僚も身体に大穴が開けて倒れている。


隠れてよく士官用の嗜好品を分けてくれた先輩も、カードゲームがめっぽう強い副官も、もう誰もいない。


僕は死にたくない…。

こんな縁も所縁もない、憎しみだけが支配する場所で野たれ死ぬなんて。

作りかけの模型が実家にあるし、家の雑貨屋をいつか大きくする夢がある。

通信兵は知らず知らずに、戦場から逃げだしていた。


ここは嫌だ。

こんなとこで、僕は生きる…。


「ザザ、ザザザザ…」


「貴方で最後…、貴方の名前はなんて言うのかしら?教えてくれる?」


亡霊と呼ばれる、ランドールのギフト持ちの声が通信機から聞こえる。

逃げ道なんて、初めからなかったのかもしれない。こんなイカれた奴に捕捉されたのが、運の尽きだ…。


「…、お前達を殺す者だ!亡霊!」


「そう、勇ましい名前ね」


足を止め、スコープを覗くトアに向かって啖呵をきった通信兵は、そのまま二度と起き上がる事はなかった。

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