執念と、憎悪と
街道を埋め尽くすセレスの大軍を、ギフトで黄色く光瞳で見つめるティル。
目標との差は数キロ先だが、彼のギフトには距離など関係ない。
ただ狙撃銃を構え、銃身を固定し、弾丸をスライドさせ、標的を殺傷する。
そしてまた次の標的を求める。
「准尉!敵が有効射程に近づいたら容赦するな、盛大に出迎えろ!各自固まるな、距離を保て!接近してきたらその分後退して対応しろ!」
「了解です中尉!お前ら、機動力をいかせ!奴らを引っ掻き回すぞ!各員行動開始しろ、敵を通すな!」
「「はっ!」」
ティルは反復練習の様に動作を繰り返し、空薬莢が舞い散っている。
准尉達が射撃準備を手速く済まし、街道沿いのセレス兵に標準をあわす。
ティルは機械人形達にも指示を飛ばす。
「レベッカは上空からの援護を、ロペスにはツェーレの分隊も一緒に動かしてほしい!頼んだっ!」
「おーけーティルちゃん、やっと指揮官の自覚がでてきたね」
「わかった、やってみよう!」
レベッカは優雅に上空へと飛翔し、ロペス達分隊も街道沿いへと姿を消す。
そして、髭面の准尉達も接近を続けるセレス兵達を射程におさめると、一斉に銃声を轟かせる。
他の殿の部隊も、タイミングを合わせたのか、狙撃銃に小銃、拳銃に機関銃、野砲と手榴弾が織り成す音は、交響曲のように戦場へと響きわたる。
両軍の兵士達の悲鳴をのせて…。
セレス側も、突然の銃撃に驚きながらも、侵攻速度を緩め対応する。
物影に隠れ、匍匐姿勢で進む兵士達を、容赦なく狙撃し続ける敵。
額や胸、首筋など人体の急所を撃ち抜かれるセレス兵達。
「ひぎゃあ…」
「…がっ」
「クソ、シーザー達がやられた!おい、遮蔽物に身を隠せ!見られてるぞ!」
ただの噂話だと思われていた敵、ベロニカの亡霊が出たと、前線に近い兵達は尻込みしだし前進を躊躇う。
敵の姿が見えないが、誰かに見られているような奇妙な感覚。
複数人の視線を感じる。
「嫌な敵だ、ベロニカ平原で我が部隊の侵攻を一時的に止めた奴等なら、こっちも覚悟が必要か…」
動きの止まった部隊を、付近に潜伏していたロペス達が攻撃し、敵の反撃が激しくなると、また潜伏する。
「よぉ兄さん達、やってるね?俺達も混ぜてくれよ、前回を思い出すね」
「ジェイコブ大尉、助かります!」
ジェイコブ大尉達の情報部隊も、ロペス達の動きに呼応し、セレス側を乱しに乱している。
何処から敵が来るか?
セレス側を精神的な緊張感に包みこむ役目を、ロペスとジェイコブ大尉達が率先してこなしているようだ。
そして極めつけはレベッカだ。
彼女の存在は、セレス側にとって恐怖の対象となりつつある。
流線的なフォルムの黒い小型の戦闘機は、身軽な旋回能力を有して、惨殺劇を繰り広げている。
ランドールの新型機。
空中に滞空しながらに、クラスター爆弾の様な大型爆弾を投下し、内包した小型爆弾が無数に降り注いでいる。
断続的な爆発が、地上に赤い華を点々と咲かせているかのようだ。
「なかなか綺麗な眺めね。眠らずの都に攻め寄せた阿呆達みたい、灰になりたきゃおいでよセレスちゃん達」
流星群の様な爆弾の煌めき。
破壊の雨が、容赦なくウェルダ街道を蹂躙し、ジリジリとレベッカから距離を置くセレスの部隊。
「また、奴か⁉︎」
「…黒い魔女め!またかっ」
「致し方ない、各隊撤収せよ!負傷者回収を優先し、速やかに離脱だ!」
引き潮の様に退くセレスの軍勢。
ランドール側も、守りきったという実感が湧かず、暫く阻止線から離れようとしない殿軍の面々。
マリーベル線から続いたセレス側の攻勢は、ライナレス線の間近まで迫って終了したようだ。
予断を許さぬ状況のままに…。




