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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
果てなき消耗戦の渦中へ
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姿なき狩人達

大陸鉄道の元アウフベン駅周辺で、鬱蒼とした林が群生する場所にトア達は狙撃銃を片手に、匍匐姿勢のままにセレスの部隊を待ち伏せる。


トアとティルは部隊を二班に分け、遺棄されていた通信機により連絡を密に取り合い、目標である部隊を監視する。


トアは三人組、ティルは四人組になり、反対側の林に陣取りながらに、分散して射撃体勢を維持する。

それぞれの班に一人ずつ歩哨を任命することも忘れない。


眼前にはセレスの部隊である兵士達が散開しながらに、ゆっくりとティルとトアのいる林に向け接近していた。

狙撃に注意している、そんな動きをしていると感じたティル。


「付け焼き刃の訓練でどこまでやれるかな曹長?トアの期待には応えたいもんだ、頑張るとしようか!」


「おっしゃる通りですね准尉!セレスの部隊に教育してやりましょうか」


同意を示す曹長に、気分を良くするティルはギフトの能力を発現し、彼の瞳は黄色に染まり、ほのかに光が灯る。


遺棄された通信機からはトアの声がくぐもって聞こえてくる。


「…まずは私とティルとで牽制するわ、曹長達は射程距離に敵が足を踏み入れたら、容赦するな!」

「了解だ、トアさん!」


「あぁ任せてくれトア!僕のギフト、存分に発揮してやるさ!」


数キロメートル先にいるセレスの大部隊を指揮する一人、軍馬に跨る小太りな上級士官に狙いを定め、ゆっくりと弾丸を装填し、銃の角度と位置を調整し、引き金をひく。


タァァンッ…


渇いた発砲音が戦場に響き渡り、小太りな士官の胸に弾丸は吸い込まれ、大穴をあけると血のあぶくを吐きながら、軍馬から緩慢な動きで崩れ落ちた。


「お見事!スコープなしでも使いこなせそうねティル?私も張り合っちゃうからね〜、駆除しないとね…」


士官が戦死したことで、歩兵達が瞬時に遮蔽物に身を隠すも、トアの対物ライフルが、その行為を嘲笑うかのように遮蔽物ごと兵士達を撃ち抜いてゆく。


「あれが銃の威力か?大砲が直撃したみたいに兵が弾け飛んだぞ!」

「すごいな、ただただすごい…」


双眼鏡で戦況を見守るティル隊の兵士達は、冗談みたいな光景に唖然として、動きが止まっている。


一拍遅れながらに曹長達も射撃に加わり、セレスの部隊を鏖殺してゆく。


トアは通信機でティル達に注意を促す、移動しながらに戦うようにと。


「ティル!十発撃つごとに場所を移動して、敵に気取られては狙撃の意味がない。常に動き回って!」

「わかった、トア!」


動き回りながらに戦うトアとティル達、そんな動きに業を煮やしたセレスの大隊長は、最大のアドバンテージとなっている林を砲撃で焼き払う事を決断し、マリーベル線攻略へ向かう戦車隊の分隊を、一部出撃させ、歩兵達の援護とした。


ティルは砲兵の群れと戦車隊の分隊を発見し、トアは大量の火薬の匂いから、敵側が飽和攻撃を仕掛けてくると察知し、即座にアウフベン駅一帯からの後退を決断。

事前に決めた集合場所へと急ぎ、辛くも難から逃れた。


「…曹長!今すぐこの林を抜けるぞ!敵の大規模面攻撃がくるぞっ!トア、そちらも後退してくれ!」

「はい准尉、お供しますよ」


「わかってるよティル、君の部下さん達と逃走中よ!林の陣地は諦めるしかないね、ここらへんが潮時かな?みんな撤収、撤収〜」


ティル達が全力で駈け出すとともに、けたたましい爆音が響き渡り、林を爆風の余波で吹き飛ばして、群生していた林は何も無い景色へと様変わりしていた。


後退しながらも時折隙をみては、前方に展開するセレスの部隊を狙撃し、後退中と悟られないように動くティル隊。


煙のように逃げ出したと、敵が気づくのは暫く後になってからである。






前へ前へと兵達が進む


セレスの部隊の攻勢が続く。

ベロニカ地方の大部分を制圧したにも関わらず、この元アウフベン駅周辺一帯は敵の手に渡っているのに歯痒い思いの大隊長。


歩兵達を散らしながら、敵の攻撃にも十分注意し、慎重に歩みを進める。

アウフベン駅が目視できる位置までくると、徐々に味方の死骸が転がる。


敵側の仮設陣地に掲揚した筈の我が国の軍旗が、何時の間にかランドールの軍旗になっているのも、敵の挑発だろう。


「糞、足踏みをされてしまったか…」

「大隊長!一斉射撃完了しました。林に敵はいるでしょうか?」


「わからん!奴らの死体でもでれば何百人もの同胞達の死が無駄ではないものになるのだが…」


撤退して生存している、大隊長の嫌な予感が的中したかのように、散発的に響き渡る敵の銃撃の音が聞こえる。

兵士達に死を振りまく姿の見えない敵。


大隊長が檄を飛ばす。


「戦車隊を押し出せ、歩兵達の援護をせよと厳命するのだ!」


敵は明らかに逃げ出したはずだが、逃げ足があまりにも早過ぎる。

計画的な退却…。


それの意味するところは、無傷の前線部隊と合流し、マリーベル線への戦力増強案なのかもしれない。


「やれやれ相変わらず嫌な敵だ…。砲弾もタダではないのにな。国民の血税そのものなのに、湯水のように湧き上がるものではない…」


「あの敵を追うぞ!」

「はい、了解いたしました!」


セレスの部隊の執念の追撃が開始され、戦場はマリーベル線へと移行することとなってゆく。


ティルとトアはこの時より、『ベロニカの亡霊』と呼称され、セレスの国の上層部でも認知されることとなる。

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