小さな殺戮者
ツェーレと対峙したまま、ハロルドは分身体を量産している。
ハロルド中尉の分身体達は、全員がにやけた笑みを浮かべ、それぞれが違う武器を構えてツェーレへと歩み寄る。
周囲を囲みながら、小銃を手に持つハロルド達が射撃を開始する。
自分達が傷つくのもお構いなしの、挺身的な攻撃にも怯まず、ツェーレはハロルド中尉達に躍りかかる。
ツェーレは銃弾を躱し、振動ナイフを胴体に突き入れ、脇腹を抉り、分身体達の臓物をぶち撒けている。
首を穿ち、脳漿をかち割り、斬殺したハロルド達を静かにカウントする。
「1人、2人、3人、…4人。これで5人と、有象無象の屑め。私が全員叩き斬ってやる、あの医者もこいつも同類だ!」
ハロルド中尉だった者が辺りに転がるが、彼らも後から後から群がり、ツェーレへと迫る。
何百人ものハロルド達が、たった一人の兵士と対峙するのもおかしな話だが、全力を出せる存在に、ハロルドはいつになく上機嫌であった。
「僕はあの頃の不自由な身体を脱ぎ捨て、超越した身体を手に入れたんだ。あの頃の、何も出来ない僕じゃない、なんでもできるし、なんにでもなれる!僕は絶対的な存在なんだ、わかるかい?」
「33人、34人…。」
「そう、それは素敵ね。屑の身の上話なんて、つくづくどーでもいいわ」
独り語りのように喋るハロルドに、カウントを続けるツェーレが、吐き棄てるように言葉を紡ぐ。
ハロルドは話ながらに、数人の分身体に手榴弾を巻きつけ、ツェーレへと特攻を仕掛けている。
「「これはどう躱す?」」
にやけた笑みのハロルド達が、一瞬白く発光した刹那、辺りに衝撃が轟く。
数人のハロルド達の自爆は、ツェーレが普通の兵士ならば、必殺の一撃であっただろう。混戦の最中、自爆する個体を潜ませ、相手の至近距離で爆散させる。
生きた爆弾。
数々の敵兵や、ギフト持ち達を屠ってきた、ハロルドのお気に入りの手口。
のはずなのだが…。
目の前にいるツェーレは、どうゆう訳だかピンピンしている。
五体満足で欠損箇所もない、血反吐を吐きながら、地べたを這いずり廻るのを想像していたハロルドだが、これはこれで楽しい。すこぶる楽しい。
「君は面白いね、とても興味深いよ。君は僕らと同じギフト持ちなのかい?それとも別の存在なのかい?」
「さぁね、なんだろうね…。それに古典的な手口だわ、話を引き延ばして、必殺の一撃なんてあんたも随分と業が深いわ。ほんと、救えない」
ツェーレが行った事は簡単だ。
ハロルドの分身体から、爆発物の反応がある個体をマークし、起爆した瞬間に、爆発の影響下にある地域から全力で離脱し、噴煙が晴れた頃に何食わぬ顔で再び舞い戻っただけにすぎない。
しかし、100人程ハロルド達を処断したあたりから、脚部の駆動系になにかしらの違和感を覚えるツェーレ。
全力機動を続けた影響か、それとも爆発の際に破片でも混入したのか、脚が重い、鉛の様に重い。
身体に異常があるのはツェーレだけではない、ハロルドもまた、分身体を短時間に消耗した関係で、分身体を創造する力が弱まっているようだ。
僅かな静寂の後、お互いが動き出したその時、なんの前触れもなく、ツェーレの側で白い煙幕がはじけた。
誰かに抱きかかえられている感覚を覚えるも、不思議と嫌な気はしない。
いつも黙って私の側にいてくれる、一緒にいるのが当たり前になったあいつ。
憮然とした態度の大柄な機械人形は、ツェーレを抱えながらに離脱する。
煙幕が晴れる前に。
「そんな脚では無理だ!一度離れるぞツェーレ、駆動系の修理をしないと」
「余計な真似を…」
「俺は君の相方なんだ、それに少しくらい頼ってくれよ、ツェーレ」
「…わかったわロペス。私もあいつに熱中し過ぎた。反省はしてるわ」
「だから、その…」
嬉しいのか、怒っているのか複雑な表情で、身体をもじもじさせるツェーレに、ロペスは疑問を口にする。
「ん?なんだツェーレ?」
「このお姫様だっこみたいな格好、…とても恥ずかしい、のだけれど…。」
「偶にはいい格好させろ!」
「…バカ、勝手に、…すればいいわ!」
普段気丈な彼女の意外な弱点を見つけたと、ロペスは内心ほくそ笑むが、表には出さないで仏頂面のままだ。
一方のツェーレは、照れ隠しなのか、ロペスの腕の中に顔を沈めている。
唐突な幕引きに、ハロルドも驚いているが、あれだけ離されたらもうどうにもならないと諦める。
顔の汗を拭うと、ハロルド中尉もまた戦場を後にする。




