視線の先
ウェルダ街道沿いが、真っ赤に燃える。
舗装路は砕け、焼け爛れた兵士の死骸からは、残り火がパチパチと音を立て、セレス側の戦意を挫いている。
上空の魔女は、空中を漂っているのか、次の獲物を探しているのか、一時的にピタリと静止しているようだ。
自分達の側に、あのオレンジ色の閃光が炸裂しませんようにと、神に祈るような生きた心地がしない時間を過ごすセレスの兵士達。
ふと黒く焦げた死体を見やると、自分達を手招きして呼んでいるかのような錯覚を覚える一部の兵士。
それが同僚なのか、上官なのか、部下なのかはわからない。
全員等しく黒焦げで、判別がつかない。
「糞、なんなんだよ!出鱈目だ!」
「ランドールの奴ら、悪魔と契約したんだ。俺達を供物に捧げたんだ!」
「そ、そんなまさか…⁉︎」
しかし…。
こんな一方的な暴力の説明がつかない。悪い夢でも見ているようだ…!
ツリメを観察しながらレベッカはゆっくりと降下し、姿勢制御しつつ着陸する。
鈍重そうなバックパックを背中から取り外し、外骨格から抜け出すレベッカ。
「んしょー」
妙な掛け声とともに、バックパックからは短機関銃を取り出し、ツリメに対してゆらりと構えている。
「キカイニンギョウ…!キカイニンギョウ、私ノ身体ヲ返セッ!コンナ血ノ通ワナイ身体ナンテ嫌ダ!ウゥゥ、ウゥ」
「まったくさー、毎度毎度双子の悪い趣味には反吐がでる。まだこんか不安定な個体を創造し続けているのか。あんたも被害者なんだろうけど、これも運命と思って諦めてくれ…」
「ウゥゥアァァッ!」
「人形にも成れず、人にも戻れず、境目にいる存在か。私に泣ける機能があるんなら、あんたの為に泣いてあげたかもね」
最早自身の制御すら不能となりつつあるツリメに、レベッカは銃撃する。
その銃弾を曲芸のような動きで躱すイトメに、不快感を募らせるレベッカ。
ツリメも躱しながらに、手首を突き出し、身体に仕込んだ銃口をレベッカに向けて応じている。
辺りに流れ弾が飛び散るも、互いに致命傷を与えられないもどかしい時間。
自然と互いに距離を詰め、肉弾戦を展開する二体の機械人形。
滅茶苦茶な軌道で、手足を振り回すツリメに、それに合わせるように組み合うレベッカ。やがてツリメを羽交い締めにすると、空高く飛翔していく。
「離セ、離セヨ!」
「まだ離してあげない、空の果てまで遊覧飛行を愉しんで…」
バックパックを装備していなくても、短時間なら単体で飛行が可能なレベッカは、みるみるうちに垂直上昇を続け、雲を超えた遥かな上空まで高度をとると、ツリメを拘束していた腕を解く。
「じゃあね、さよなら…」
「…ッア!」
地面へと自由落下を始め、その速度のままに地面へと激突し、その身体ばバラバラとなり、ツリメだった物体が地上に転がっている。
どうして私ばかり…!
どうして私が辛い目にあうの…!
私は、ただ、私は…。
「助ケテヨ、オルミ、ドール…」
小さな呟きだけを残し、ツリメという個体は、この世から抹消された。
オルミドールと供に、ランドールの防御陣地を荒らすハロルド中尉の前に、彼が待ち望んでいた相手が現れる。
最初に会ったのはブルトブルクだったか、それより前だったか。
華奢な外見に似合わず、彼女の身体は常に血塗れである。
青い髪を三つ編みにした小柄な乙女が、自分の分身達を切り刻みながらに、真っ直ぐにこちらに迫ってきている。
武器を変えたのか、金属音をさせる小振りなナイフを握りしめ、信じられない切れ味なのが驚きだ。
髑髏の紋様の入った制帽をかぶり、こちらを一瞥する鋭い視線。
増悪ではない、純粋な敵意。
気持ちが昂る、とても愉快だ。
彼女を刺し貫いたらどんな気分か?
彼女を撃ち殺したらどんな気分か?
獰猛な笑みを浮かべ、分身を続けるハロルドにツェーレが近づく。
「やぁ、久しぶり小さな兵士さん。消化不良は身体に悪いから、今日は存分に堪能しようじゃないか!」
「減らず口を…、直ぐにその下卑た笑みごと両断してやるから覚悟して」
「あぁそれは愉しみだよ、僕が今どんな気分か君に伝えたいよ。君は、僕の手で分解してあげる!」
「遺言はそれだけかな?」
怪人ハロルドに、血塗れツェーレ。
再戦の続きを焦がれていた両者の戦いは偶然か必然か、誰にもわからない。
あるのは明確な殺意だけ…。




