空飛ぶ魔女
オルミドール達機械人形が、ウェルダ街道を進みゆく。
セレス側のギフト持ちであるクロエにハロルド、ヘンリー司令が招集したセレスの大部隊も後に続いていく。
クロエは自分の好敵手である、ランドールのミラー少佐を発見すると、途端に色めき立ち、オルミドールに一声掛け、その場を後にする。
ガスマスク姿の助手達を引き連れ、カムロ・レーゼン会戦の続きを楽しみたい。
今度はこの新作の毒を。
その毒物を、どう彼女が攻略するか。
探究心をくすぐる、愛しい検体さん。
「オルミドール卿、私に用事がある患者が問診に来たみたいだわ。少し席を外させてもらうわ、後で貴方の仮面の下の顔よく観察させてね?」
「理解した、過去の因縁にケリをつけるといいエバンズ軍医。自分の顔など面白くもないものだよ、故に蓋をしている。これは戒めだよ、私のね…」
「話が早くて助かるよ貴族さん。ふーん、謎があると解き明かしたいのが人の本質なんだけどね。まぁ次の機会に聞くとするわ、オルミドール卿」
「そうしてくれると助かる…」
セレス本国からきた、正体不明の貴族。
ヘンリー司令とその側近達は、必死になって彼の出自を探っているようだが、私は別に気にしない。
彼女の判断基準は有用か、そうでないかの二択。自分本意な考えだ。
「ハロルド!そっちは頼むわね」
「あぁクロエ、楽しんできてくれ!」
ハロルド中尉もクロエとの付き合いが長いので、こういうことは日常茶飯事だ。
自分もクロエも、本能的に動く猪突猛進型の人間だ。
このオルミドールとやらも、自分達と同類だろう。仲良くして損はない。
「オルミドール卿、まぁ僕らは僕らで楽しくしようじゃないか。お目当の獲物はいるのかい?」
「もちろん中尉、丁度目星をつけたところだよ。すまないが、自由に動く…」
「ご勝手に、僕も指図するのもされるのも、とても苦手だからね」
先程からランドール側からの機械人形の視線を感じる。
一体だけではない、複数の存在。
彼の闘争本能に火が付き、欲望に忠実なツリメとイトメが駆け出す。
迫るセレスの部隊の先鋒に、機械人形達が姿をみせる。
ランドール側の塹壕陣地帯を飛び越え、ティル達と一緒にいる、同じ機械人形を求めて跳躍を続ける。
銃火を物ともせず、命中弾にも怯まずにツリメとイトメが攻撃を加える。
彼らの身体や外套からは、様々な武器を取り出しては、ランドール側を損耗させている。
「飛び跳ねるばかりの兎なぞ、さっさと撃ち殺せ!銃兵、射線を集めろ!」
「撃ち落とせ!敵は2人だ!」
そんなランドール側の抵抗を嘲笑うかのように、ツリメ達は簡単に躱しながらに、逆襲している。
「あぁ、ああぁぁ…」
「ひぎゃ!腕が、俺の腕がっ!」
ポカンとした顔のまま、数十発の弾丸を浴びて肉塊とかす兵士達。
「外れ、外れ、外れ!」
「私は何度も助けてと言ったわ、けど貴方達は私を見捨てたの!だから私は復讐するの、お前達を根絶やすの!それが私の使命、私の喜び!」
イトメは悦に浸り、ツリメは人の時の記憶と機械人形の記憶が混濁し、支離滅裂な言動を繰り返している。
その勢いにつられ、セレスの部隊も塹壕陣地帯に数の暴力で、ランドール側の守備部隊を圧倒しつつあった。
上空にある存在が現れるまでは…
黒光りする光沢をしたバックパックから、機関砲の発砲音が響き、低空飛行をしながらセレスの部隊へとナパーム弾を投下する、ランドール側の機械人形。
ナパーム弾からは人工油脂がばら撒かれ、その油脂を浴びたセレスの兵士達が、篝火のように燃え上がる。
何百人もの兵士が纏まって焼却され、煤けた灰が降る黒々とした光景を前に、ランドール側もセレス側も動きが止まる。
バックパックを背負った兵士が戦場を見回し、更にセレスへナパーム弾を投下する。何十発、何百発も。
見晴らしのよい街道は、火の海となり、セレス側の兵士達の死骸を量産する。
この惨劇を引き起こした本人を見ようと、ランドール側の兵士の1人が双眼鏡を上空の鉄の怪鳥へと向ける。
その兵士は特に感慨もなく、セレス側を空虚な瞳で見ているだけだ。
怨敵を見つけた。
ツリメは上空の者に向かい吠えに吠え、怒りをぶつけているようだ。
「機械人形っ!機械人形、機械人形、キカイニンギョウ、キカイニンギョウ、ニンギョウ、ニンギョウハ嫌イ…!」
「あんたも同じ機械人形でしょう?おかしな奴だ、あんたは鉄屑になりなさい。壊れた機械人形なんて、害悪よ。」
ツリメの怒りを、涼し気な顔で受け流している風なレベッカ。
機械人形同士の戦いが始まる。




