援軍
オルミドール達の蹂躙が続く。
ベロニカ平原へと侵攻してきたランドールの数個大隊は、既に虫の息となり、半壊状態となりつつある。
快進撃は留まることを知らず、前線の先にある、マリーベル線を構成する都市区画コロンへと逆侵攻を開始しつつある機械人形の一派。
これを好機と捉えたヘンリー司令は、ギフト持ちであるクロエとハロルドを先発させ、付近に展開する師団を結集し、コロンへと雪崩れ込ませた。
ランドールの絶対防衛線の打破。
それはセレス側の悲願であり、共通認識であり、渇望でもある。
コロンの防衛部隊はよく敢闘した。
大軍に囲まれ、補給もままならない中で、彼らは1週間もコロンを死守し、遠征軍の一翼を担おうとしていた。
コロンの周囲に無数にあるトンネルからのゲリラ戦術に、敵の兵站破壊工作。
闇夜に紛れた奇襲攻撃など、考えられるありとあらゆる手を打った。
だが、セレス側の圧倒的な物量の前に、儚く散りゆき、不抜といわれたマリーベル線の一角が崩れさり、ランドールの支配領域に楔がうたれた。
マリーベル線遠征軍団司令部。
ランドール側の対応は素早かった、コロンが抜かれた段階で、その周囲に厚みをもたせ、セレス側によるそれ以上の侵攻を堰き止めていた。
司令部に打電されるより早く、独自判断でコーウェン師団と他の師団が連携し、マリーベル線の内側に、即席の防衛ラインを築き上げることに成功する。
「コーウェンの現場判断に救われたか、参謀、ここが分水嶺だ。我々の真価が試されている。予備線の構築状況の進捗はどうなっているか?」
「はっ、今はまだ半分にも満たない進捗状況であると報告します。現在コロン周辺に、定期便の派兵師団を総動員し、なんとか拮抗させておりますが、危うい状態であるのは否めません閣下」
「ギフト持ち達は?」
「はい、ティル遊撃隊にミラー隊、ジェイコブ隊が現地に急行させております。敵のギフト持ちの動向が気になるところですが、一蹴したいですな」
執務室では、ニミッツ中将を中心に、副官たる参謀と高官達が知恵を出し合い、戦況の確認をしている最中だ。
「コロンの守備隊は勲章者の働きだ、彼らの時間稼ぎがなければ、内陸部と沿岸部を分断され、遠征軍は各個撃破されているところであった!」
「沿岸部の状況は?」
「海兵隊を派遣したとの連絡を受けました!いざとなったら軍艦を固定砲台にして、立て籠もると言っています」
「ははは、頼もしいな!諸君、まだまだこれからだ!カムロ・レーゼンの復讐戦と肝に銘じよ!よいなっ」
「「はっ!!」」
居並ぶ士官達が敬礼し、それに応じるニミッツ中将。足の古傷を摩りながらに、ランドールの国旗を感慨深げに、ただただ眺めていた。本国を離れて、もう随分となる。
本国にいる妻や息子、もしかしたら孫ができているもしれないが、自分は帰れない。
軍服の胸ポケットより取り出した家族の写真は、色褪せているが、ニミッツの気持ちを穏やかにする重要なものであった。
「戦火を本国に飛び火させないのが我らの務めだ、わかってくれるか?」
写真の家族と一緒に微笑むように、窓からはニミッツが笑う姿が見えていた。
眠らずの都。
心臓部にある塔と呼ばれる施設では、始まりの個体が指示を出し続けている。
ナノローグの意思ではなく自らの信念に従い、過去より目醒めた怪物を抹殺する為に、配下の機械人形に命じる。
【敵性個体裏切りの個体の微弱な信号を関知、セレスとの因果関係があります、可及的速やかに脅威を排除せよ!並びに、ナノローグ様の至上命題を探求!個体名レベッカ、用意はいいですか?貴方の役目は重要です、ランドール側へ加担なさい!】
【準備おーけーよ、始まりの個体。あんたが討ち漏らした過去の怪物討伐と、それに与する勢力の撃滅か。まったく骨が折れそうね!私だけでできるかしら?】
塔の格納庫より、大型のバックパックを装備し、外骨格でその身を覆う一体の機械人形。ボーイッシュな見た目だが、紫色の髪に健康的な肉体を持ち、出るとこがしっかりとでている。設計者の趣味嗜好だろうか
【随伴機は?】
【戦闘型を4体付けます。さらに追加が必要なら私に申請して下さい!】
【たったの4体かよ⁉︎貧乏性だなぁ、普通『あるだけ持っていきなさい、私は貴方を信用していますので…』とか言う場面でしょーに!どういう事よ、まったくー】
始まりの個体の声色を真似るレベッカに、やや不機嫌な始まりの個体だが、彼女に信頼を寄せているのも確かだ。
【型番は貴方の好きなタイプで…】
【りょーかーい、個体名レベッカ、これよりマリーベル線への武力介入を開始します!到着以後、個体名トアに協力、これでいいのよね始まりの個体さん?】
【えぇ、では健闘を祈ります】
【『えぇ、健闘を祈られました…』】
【…レベッカ?悪ふざけも大概に…】
【戦略的撤退っ!】
【まったく、頼みますよ…】
塔の格納庫より飛翔するレベッカ。
バックパックからは勢いよく液体燃料が燃焼し、凄まじい重力加速がレベッカに降りかかるが、動じる素振りはない。
垂直上昇を続け、やがて横向きへと軌道を変化させレベッカは飛翔を続ける。
戦闘機のフォルムとは違い、流線的な外観を持つバックパックはどこか美しい。
無骨な外骨格に、機械人形の入った黒い棺を4つ括り付け、レベッカ一行は一路トア達の待つマリーベル線へと赴く。
【個体名トア?緊急の案件につき、こちら側から助っ人を派遣しました…】




