論考褒賞にて
3ヶ月と長きに渡りドミニク大佐が起こした叛乱は、ドミニク大佐を中心とした指導者達が処刑された事により、反乱軍自体が瓦解してゆく。
武装解除され、捕虜となる兵士達。
その反乱軍に参加した兵士達の末路もまた悲惨であった。
彼らは強制労働で炭鉱に放り込まれたり、死傷率の高いセレスとの最前線へと投入され、家族の為に立ち上がった彼らは、二度と家族の顔を見れずに遠い異郷の地でその生涯を終えた。
反乱軍の兵士達の怨みは、その遺族達へと継承され、新たな叛乱の芽を育むことになっている事に、ランドール本国は気づかないでいる。
過ちを再び繰り返すかの如く…。
ランドール公国首都リュティス。
そこでは統合軍に参加した兵士達を労う、クリフ大公主催の論考褒賞が盛大に催され、兵士達が気勢を上げ、開催場所となっている大公居住の城は、異様な熱気に包まれている。
第1功には、各軍団の主だった部隊長や軍団長が表彰され、領地の加増や部隊規模の拡大など、大公からの大盤振る舞いの采配が取られているのに、兵士達の興奮はピークに達している。
厳かにランドール記念蒼印勲章を受け取る表彰者達を横目に、兵士達は次にくる第2功の表彰者達の予想をしている。
第2功とは、活躍目覚ましい部隊、または個人の功を祝うものであり、その価値は計り知れないものである。
「静粛に!次に第2功の表彰者達を読み上げる、呼ばれた者達は壇上へ!大公様直々のお褒めの言葉と、褒賞を賜る名誉が約束される謹んで受けるように!」
壇上には第3代ランドール公国大公、クリフ・ランドールがどっかりと背もたれに腰掛け、大公の丸みの体型で椅子が悲鳴をあげているかのように、危険な音を上げながら軋んでいる。
横には薄着の側室達が佇み、それがまた兵士達には娯楽のように刺激的で、あの側室を1人くれればいいのにと、根も蓋もないことを言う者もいる始末だ。
【クリフ大公って、なんだか縄をつけて燻製にしたらいいベーコンになりそうねロペス?脂が多いかな?】
【どうだろうなぁツェーレ、脂身を落とさないと癖のある匂いと味になるかもしれない。雑味が強そうだ…】
【権力者って女性を侍らせるものなのかな?自己顕示欲が強いのかな?それとも指導者連中は一夫多妻制なの?】
機械人形達は、短文通信で散々に大公の印象を皮肉るツェーレにロペス、ただトアだけは真剣な表情で大公を観察しているかのようである。
冗談なのか本気なのかわからない、トアの呟きにツェーレが噛みつく。
【トア、そんな真剣に悩まないでよ…。あんなの色ボケ大公でいいわ!】
【大公の命題はなんだろね、ツェーレは何だと思うかな?】
【知らないよ、そんな事は!】
けらけらと笑うトアに、ツェーレは軽く苛立ちを募らせ、ロペスは嵐が過ぎ去るのを待っているようだ。
そんな中でも論考褒賞は粛々と続く。
文官がつらつらと名を呼びあげる。
「ランドール遠征軍所属ティル中隊長、並びに北方方面軍所属、ペンスとイブリン両少尉!西方方面軍所属…」
ティル少尉は緊張でうまく口が回らない中で、髭面の曹長は両手を挙げて万歳と連呼し、トアは何故か得意げで、ツェーレとロペスに至っては当然であると言わんばかりの表情だ。
呼ばれた者達は壇上へと上り、ランドール記念蒼印勲章が文官達から授与され、それぞれが1階級特進が確約される。
更に大公自ら受賞者達に歩み寄り、握手をしながらに健闘を讃えている。
「諸君らは精鋭の中の精鋭、私の近衛達にも匹敵する強者達であると記憶する。さらなる飛躍を願い、ささやかながら祝いの品を贈る。励んでほしい!」
大公は言い終わると、受賞者全員を熱っぽい視線で見渡してから、ゆっくりと壇上から退席してゆく。
ティル中隊は名称をティル遊撃隊と改め、グレゴリウス撃破の功で主だった士官達も昇進となり、二個中隊規模へと拡大増強されてゆくこととなる。
隊長のティルは少尉から中尉へ。
副隊長のトアは准尉から少尉へ。
そしてツェーレにロペス、髭面の曹長は揃って尉官である准尉として、分隊長としての役割を期待されていた。
いいニュースを持って凱旋できると、遊撃隊のメンバーは笑っているが、ティルはどこかぎこちない笑顔だ。
懐かしのマリーベル線には…。
少佐が…。
「うぅ、お腹が痛い…!」
ティルは腹部を抑え、医務室へ問診し、薬を処方されるほどに参っていた…。




