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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
果てなき消耗戦の渦中へ
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ベロニカの亡霊

陣地の中の戦死者へ黙祷を捧げる。


トアは激戦となった陣地のある場所から、小さな林のある場所へとティルと他数名の兵士を一人ずつ運び、怪我からの回復を待っていた。

避難した場所を入念に隠蔽し、一見しただけでは発見できないようにカモフラージュを施し、トア達のいる場所は林の一部となる。


数時間毎に現れるセレスの偵察部隊には、どこから出したかわからない対物ライフルで、トア自らが率先して殺戮し、敵を寄せ付けない。

弾丸の予備を山の様に積み、遮蔽物をいかして姿を見せず、敵の姿を毒づきながらに応戦しているトア。


「まったく、後から後からキリがない。まぁ私とあんた達の根比べだ、好きなだけ付きあってあげるよ…。精々私の暇潰しにつきあってよ、まだまだ寝起きで身体の具合をみたいから」


「君の生きる意思、私にみせて…」


ふと視線をおとし、ティルの顔を覗き込み、ティルの髪を優しくひと撫でしてから、再びトアはライフルのスコープを見つめ、銃の引き金をひく。


辺りに硝煙の香りが匂う…。



ランドール側からの圧倒的な遠距離からの攻撃、自分達の武器の有効範囲外からではなす術がない。

普通ではない事象。


ここに至り、セレスの前線指揮官は確信することとなる。

敵のギフト持ちがいる。


それもとびきりに厄介な奴が、一人か二人かわからないが、絶対に。

ただ疑問点もある、あの焼け落ちた駅の近くを根城にする敵の考えだ。


味方は後退して、すでにここは我々の勢力範囲、寸断した大陸鉄道の補修にしては辻褄があまりにも合わない。

だとすれば時間稼ぎ?

しかし、マリーベル線に目だった動きはなく、攻勢の準備ではないはずだ。


「隊長!偵察部隊が戻りました、やはり数時間前と同様に、焼け落ちた列車の駅周辺にある程度近づくと、ランドール側からの攻撃が激しくなると!」


「…損害は?無傷ではあるまい?」


任務に忠実な部下の報告を受けつつ、先を促す前線指揮官、犠牲がでている。

あの場所は不吉だ…。


「…はい30名中、16名は戦死、8名が負傷1人は重体です。軍医殿の診立てでは今夜が峠だと、身体の半分が千切れています…。他の戦死した者達と同じ状態です。隊長、ここは不気味です」


「そうか、生き残った者達にはよく休めと言ってくれ。もちろん君もだ、よく任務を遂行してくれた。身体を休めるのも仕事のうちだ、下がってよい」


「はっ!隊長、失礼します」


隊長は窓に目を向け、夜空を見上げる。

ギフト持ちとの戦いは犠牲が増す、ギフト持ちは必ず殺せといわれてきたが、これではラチがあかない。


敵の異能の正体がわかり、そこではじめて有効な対策を講じ、打倒する。

しかし…


「現状は不明、相手の素性も性別も、新手のギフト持ちの介入か…。もしくは会戦でも活躍した化け物のお仲間か、頭の痛い話だな」

「姿なき敵か…」


昼間の威力偵察も、夜間偵察もいなされ、攻勢をくじかれている。

有効な手立てがないまま、時間だけが過ぎてゆく。


快進撃を続けていたセレス人民主義連邦の大部隊の足が止まる。

会戦以後はじめての出来事に頭を抱える隊長、疲労をしいり、力攻めの通用しない敵の出現。


「我慢比べか、忍耐力の強い指揮官な事だ。敵なのが惜しいな…」


現場では今日もまたトア達が潜んでいる地域に向け部隊が進む。





翌朝、よく晴れた日にティルだけが目を覚まし辺りを見回す、腹部からの鈍痛が続いており、体勢は起こせない。

傍には髭面の曹長と、他数人の兵士達がいることに安堵しつつ、見慣れぬテントに困惑するティル。


「ここはいったい、何処だ?」


「おはよう、怪我は平気?あなた程度が軽いといっても重症なんだから、まだ安静にしてて。いい?」


直ぐ傍らには、意識を失う直前でみた黒髪の女性がにっこりと微笑んでいる。

おもわず頬を染めるティルは照れ隠しに、女性へと質問をする。


「救援には感謝します!僕だけでなく、曹長達まで手当てしてもらい、本当に助かりました!」


「いいえ当然の事をしたまでです。それに助かったのは貴方達の運が良かったの、手当した時は五分五分といったところでした…。悪運かもしれませんね?」


クスクスと悪戯っぽく笑う女性。

ティルは苦笑しながらにさらに質問を続けていく。


「ここはどこなんですか?」

「まだベロニカの辺りかな、貴方達がいた陣地近くの林の中ね」


「セレスの奴らは?」

「私が追い払い続けてるよ、けど奴らもしつこく攻勢にでてくるの。いい加減諦めてほしいところ」


世間話のように軽くいいながら、気丈に振る舞う女性。

彼女もきっと自分と同じ軍隊にいるギフト持ちに違いない。


「重ねてお礼を言います…。えぇと、貴方の名前を窺っても?」


「私?私はトアよ!…トア・ナノローグと言うのよ、改めて宜しく熱血士官殿!貴方の名前は?」


意味ありげなウィンクを飛ばし、ティルに自己紹介を促す。


「僕はティル!ランドール公国陸軍准尉、千里眼のギフト持ちです。トア、貴方のギフトはなんですか?」

「機械人形よ!」


「キカイニンギョー?聞きなれない言葉ですね、異国の言葉ですか?」

「まぁおいおい話すわティル!」


両者はかたい握手を交わし、この戦場から生き残ると誓い合う。

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