企み事
サナーテ近郊空軍基地。
ヘンリー司令達を乗せた輸送機が、ゆっくりと着陸し、タラップを降りた先には、軍のジープの出迎えがある。
即座に人民議会のある、サナーテの本会議場に向かうのかと思えば、一行を乗せたジープは、軍部省本部へと向かっているようにみえる。
そしてそこで一行を迎えたのが、軍部省の役人達であった。
「遠路はるばるご苦労だな、ヘンリー司令にお連れさん方。君達もそうだが、我々も休みが欲しいほどの繁忙具合だ、上に馬車馬のようにこき使われて、散々な待遇だよ。まったく…、ストレスでどうにかなりそうだ」
「ランドールの野蛮人が、こっちにきてからずっとお祭り続きさ。まぁ同情するよスーツ組さん。それで、議会の様子はどうなんだ?議員達は結論の出ない議題に、延々と時間を費やしているようじょうないか。我々が議会に召集されたのは、軍部省の差し金だろ?」
「温かい言葉痛み入るよ司令。いやぁ参ったね、御見通しか。」
ヘンリー司令と、頭部がやや後退した役人が冗談混じりに挨拶を交わす中、今日は青年の恰好をした、ハロルド中尉が両者の話に割ってはいる。
意地の悪そうな笑みで。
「そりゃあわかるさ役人さん。情熱的なスピーチでもして、議員達の心情に訴える訳だろ?けどさ、そんなに切羽詰まる状況かい?抗戦派が優勢なんだろ?」
なにか含みのある視線をハロルド中尉に飛ばし、やれやれ顔の役人。
見透かされている、役人は直感で判断し、代表者のヘンリーに全てを話す。
「いいや、最近は講和派が抗戦派を盛り返している現状だ、このままでは過半数を割り、我々の聖戦が強制的に終わる。そこで君達には表向きにはスピーチをしてもらうが、裏で講話派の中心議員を、抹殺してほしいのだ。やり方は任せる、後の始末は我々が工作するのでどうだろう?」
こいつら、こんな事を話すという事は、断わったら我々でも無事では済まんな。暗殺の片棒を担がせる気か。
やはり軍部省の人間は好かん、どう答えるのがベストか?
遠巻きに朱色の憲兵達が徒党を組み、こちらを見ている。拒否したら、偽の罪で我々が逮捕されるのだろう…。
国家叛逆罪やら、人民扇動罪やら、軍の私的流用などの、謂れのないもろもろの罪に問われる可能性がある。
「もちろん、受けてくれるだろう?」
やや髪型が後退した役人は、司令達を観察し、なにやら付近に合図している。
ていのいい脅しだ。
側近達も頭を悩ます中、ハロルド中尉の同僚であるクロエ軍医が、一行の気持ちを代弁するように呟く。
「ねぇ、それ私達に百害あって一利無しよね?それに暗殺者は、闇から闇に消されるのが世の常じゃない。私達が上手く成功しても、今度は私達を消す奴を仕向けるんでしょ?はぁ…疲れるわ」
「まぁ簡単には死なないよ、私のギフト貴方達、直に味わってみる?」
大袈裟な身振り手振りで、役人に訴えるクロエの姿は、舞台俳優のようである。
彼女が言いたいのはこうだ、つまり。
【使い潰す気なら、覚悟しろ…】
クロエの気持ちを察したのか、ハロルドも自分の分身達を増殖させ、役人を取り囲みながらに、武器を構える。
付近を遠巻きに囲んでいた憲兵達も、事態が深刻化したのに、実力行使に訴えようとするが、役人が手で制する。
慌てた役人達は、態度を軟化させ、言葉を選ぶように会話する。
「いやいやそれには及びませんクロエさん。噂は聞き及んでおります。ハロルドさんも武器を収めて下さい、我々は敵対する気はありません。詳しい話は別室にて致します。先ずはこちらへ、簡単に省内を案内しますよ」
「ふーん、ならいいけど…」
「憲兵達の教育がなってないよ、いや軍部省の私的な部隊かもしれないね?」
クスクス嗤い合う二人のギフト持ち、怪物を自ら招き入れた軍部省。
人民議会に、不穏な影がちらつく。
ヘンリー司令の懸念は、遠からず当たっていた事に小さく嘆息する。
省内の中を簡単な説明を受けながら、巡る一行は、日当たりのよい部屋へと通され、革張りの椅子に着席してゆく。
長机には書類の束が人数分用意してあり、今回の標的の人民議会議員のリスト一覧に、詳細な地図、家族構成に、毎日の議員達の行動パターンが記されている。
そこに記されているのは、ハワド議員を中心とした5名の名前が記されている。
「この5名の議員と、近親縁者達をどうにかするということなのかな?新しい検体が手に入るのは、私は嬉しいわ。もちろん、遺体もこちらで頂いていくよ」
自分の世界に入り込み、研究の事を考えるクロエ、彼女の瞳にはさらなる研究の研鑽をするとゆう、確固たる信念がある。
それにストップをかける司令。
「待て待てエバンズ軍医、こんな大っぴらに抹殺などしたら、一番に疑いの目を向けられるのは軍部だぞ。自殺行為ではないか」
「なにか、方策があると?」
「えぇ、ご明察です。国内に蠢めく不穏勢力の犯行に仕向けます。いまだ君主制時代を忘れられない、年代物の奴らを一掃するたの、布石みたいなものですよ…」
にやけた笑みを漏らす役人をヘンリー司令は一瞥し、側近達も辟易している。
首都サナーテに、血の匂いが漂う。




