表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠らずの都の住人  作者: 同田貫
ブルトブルク攻勢
34/160

誰が為に

コーウェン師団の最後尾の殿軍が、マリーベル線へと到着した。

マリーベル線では既に、負傷者や遺体の整理がなされており、開け放たれた練兵場は悲しみが支配している。


この場に居ない者を必死に探す者や、軍医に怪我の具合を診てもらう者など、様々な思いで行動する者達がいる。


「アントン師団の者だが、同じ部隊のクリストファーを見た奴はいないか?あいつとは同郷なんだ、誰かいないか?」


「さぁ、わからないな…」

「そんな、あんたなら知ってるはずだ!」


「おい、マリーベル線に着いたぞ!おい、目を開けろ!動けよ、お前がこんなとこで死ぬもんか、お袋さんに手紙書くんだろ!頑張れ、今先生が診てくれるから…」


「…もうよさないか、彼はとっくに息絶えている。あちらの火葬場に連れていってやりなさい、治療は無駄だ…」


「先生、どうか!どうかっ!」

「我々医者も万能ではない、生きてる人間ではなければ、それはもう遺体だ…。気持ちはわかるが諦めてくれ、死者を蘇らせる事が出来る医者などいない、諦めてくれ…」

「次の者、診察する…」


「…うぐ、こいつはまだ!」


意気揚々と出撃した軍勢は、今や見る影もなく、誰もが傷つき、同僚や戦友の死に嘆きの声が聞こえる。

アントン・ジョシュアの両師団の生き残りは、僅かに3個大隊程であり、残りは全て戦死ないしは戦時行方不明として処理され、合流できずにブルトブルクに取り残された者は大勢いるはずだ…、意図せずに仲間を見殺しにした。


やりきれない思いが、兵士達の中で伝染していき、今回の攻勢は徒労ではなかったのかという思いに駆られる。



『セレスの大陸を蹂躙せし勇者達に捧ぐ。これは終わりではなく、始まりにすぎないのだ!諸君等の、真にランドールを想う者達がいる限り、我々は決して敗けない!我々の版図は増す増す拡大し、経済圏は広がりゆき、やがて世界はランドールの元で統一される!願わくば、諸君等の行く末に光があらんことを…』


3代目ランドール大公のラジオ放送が、虚しく広場にスピーカーを通し拡散されるも、兵士達の心には響かない。

それどころか、口々に日々の鬱憤を晴らすように、不満をぶちまける。


「拡大するどころか、今やこっちの国が存亡の危機なのを、お偉いさんはどの程度わかってるんだ?」


「そりゃあ全然だろ!頭の中がお花畑だから、こんな呑気な事が言えるんだ!だいたいだな、大公はだな…」


「おい、馬鹿!声を下げろ。俺達まで不敬罪で連帯責任になる!」


「なんでもいいから、ここから抜け出ししたいよ俺は、気が狂いそうだ…」

「そうだな…」


配給された薄味の豆の缶詰と、硬い黒パンを無理矢理に咀嚼しながらに、現在の気持ちを素直に吐き出す。


そして、味は悪いが腹持ちがいい配給食を食べきり、満腹になると、練兵場の芝生の上で、毛布に包まりながら倒れ込むように眠りにつく兵士達。

生き残った事に感謝しながらに…。



自分達の背後では、戦死者達の遺体が集団で火葬されている。

死骸を満載したトラックが列をなし、身元確認ができるものは個別に、そうでない者は集団でといった具合だ。


死骸を放置すれば感染症の元になるのもあるが、此の世に未練が残るという風習が根強いランドールでは、死者は火葬にてあの世に送るというのが慣例だ。


そんな火葬場では、友人達との最期の別れに泣き崩れている者もいれば、遺骨を御守り袋にいれる者もいる。

火葬場の側には牧師が立ち、送り出す魂に向けて聖句を唱えている。


「我々を創造せし神よ、今志半ばで斃れた敬虔なる信者が、貴方様の元へ参ります。どうかその広き懐にて、彼等に一度の安息を与えて下さる事を切に願います…。」


ティル少尉と、髭面の曹長も黙祷を捧げ、死者達の冥福を祈っている。

ツェーレとロペスも当然の如く祈りを捧げ、それをトアは不思議そうに眺めながらも、見様見真似で黙祷を捧げている。


【人の死生観って色々よね。家族や身内が死去すれば、墓や塚を立て、周忌毎に故人を偲び、また繰り返す。我々機械人形にはない、独自なものね…】


【我々は動かなくなれば廃棄して、それで終わりだが、彼ら人は違うんだよトア。輪廻の輪に魂を送ることは、肉体が滅びようとも、その魂は永遠に生き続ける。故人を想う者がいる限り脈々と続き、次代へ繋ぐ。それが人間の哲学であると、ロペスと一緒に人を観察し続けた私の見解よ】


【国や民族、地域性によって、死者の送り方は多種多様だが、火葬や土葬が一般的であるといわれているよトアさん】


【想う心、ね…】

【そうよ人を理解したいのなら、先ずは人の文化を理解しないと駄目なのよ、彼らの文化に触れる事は、創造主様方のお考えにより近づくきっかけにもなる!】


【焦ることはないさ、段々と理解する事が大事さトアさん。ひいてはナノローグ様の至上命題にも繋がると、俺とツェーレは常々考えているのだがね…】


【ロペス、あんたトアに甘いのよっ!】

【妬かない、妬かないツェーレ。嫉妬なんてらしくないじゃない?】


【や、妬いてないわ!バカっ!】


互いの意見を、通信で取り合う機械人形達。彼らの真意はわからない…。

ただ無表情に佇んでいるようにもみえ、それが髑髏の部隊章と相まって、不気味さに拍車をかけている。

周りにいるランドールの部隊は、そんな彼らを遠巻きに眺めている。


墓守犬の黒犬紋章、アザミの花の刻印、そして、新参である退廃的な髑髏の部隊章を掲げる部隊。

これらの部隊章は、敵に認知されてもいるが、当然味方にも知れ渡っている。


ギフト持ち達のシンボルマーク。



中でもこの攻勢の期間中に、認知度を最も上げた部隊は、髑髏の部隊章を掲げるティル少尉の中隊であり、名声ではなく畏怖という形でだが…。



千里を見通す瞳を持つ指揮官。

ベロニカの亡霊。

そして首切り。


麾下の部下共に活躍するティル中隊。

そんな活躍を、手放しに賞賛する者こそが、マリーベル線の最高指導者であるニミッツ中将その人であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ