猟犬の群れ
マリーベル線より、ニミッツ中将の命を受けた3個師団が進発する。
東部ブルトブルク方面に向けて、コーウェン師団、アントン師団、ジョシュア師団を中核とした地上戦力。
さらに百機を超える空軍の大編隊による航空支援を軸とした、ランドールの大部隊が列をなし、街道を埋め尽くすかのように侵攻してゆく。
部隊の先頭には機甲部隊の戦車が周囲を警戒しながら進み、その後ろを兵士を満載した輸送トラックが続く。
日中は目だった交戦もなく、セレス側の警戒線を越えていくが、ブルトブルク近郊に近づくにつれ、敵の部隊の防衛網にかち合い、猛烈な射撃戦へと移行し、はやくも長期戦の様相をみせる。
遮蔽物を利用しながらに、ジグザグに歩兵を展開し、ランドール側の戦車が塹壕を押し潰しながらに進む。
「進め、進めー!」
「セレスの土地に、我らがランドールの旗を掲げよ!敵を殺せ!」
この時代の戦車には、回転砲塔などはなく、分厚い装甲板の横に機関銃を搭載したものがほとんどである。
鉄の箱の様な外観。
それでもその存在感は圧倒的であり、陸地の王者のように、銃弾を弾き、砲弾の直撃弾でさえも歩みを止められない。
「戦車だー!対戦車砲を持ってこい!機関銃は、戦車の影にいる歩兵を駆除しろ!奴らの足を止めろ!」
「斉射始め!キャタピラ狙え!」
「撃て!蛮族共を仕留めろ!」
前進する戦車隊に、セレスの部隊からの砲撃が集中し、その濃密な火線の前に、次々に鉄屑と化す戦車隊。
だがランドール側も、その戦車の残骸を盾にし、歩兵達や砲兵達が即席の陣地を構築し、射撃の応酬を繰り返す。
その鉄の嵐の中を、ランドールの工兵達が進み、有刺鉄線や地雷などの侵攻の障害物を除去してゆく。
近郊より開始されたブルトブルク攻略戦は、まだ幕が上がったばかりにも関わらず、両軍の死傷者達の血で大地は赤黒く染まり、血溜まりが広がっている。
「戦車隊をさらに繰り出せ、セレス側の戦車隊が出てきたらそちらの対応を優先せよ!歩兵との連携が肝だ、決して孤立させるな!友軍の連携を徹底せよ!」
「了解しました!」
「なかなかしぶといな、航空支援の爆撃を凌いだ陣地帯か、敵は相変わらず塹壕陣地づくりの名人のようで」
「急ぐことはない、敵さんと我々の体力勝負といこうじゃないか。前衛を厚くしろ、後方部隊もいれて増強し、敵の脆弱な部分を探すのだ。必ずみえてくるはずさ、堅固な陣にも急所はあるさ…」
前線近い天幕の中、居並ぶ士官達に混じり、ニミッツ中将の子飼いの猛将であるコーウェン少将、アントン少将、それにジョシュア大佐三名の指揮官達が、戦況報告を行いながらに談笑する。
多少の犠牲を物ともせず、堅実な戦い方を得意とし、会戦の汚名を濯ごうと、三名共並々ならぬ戦意を持っている。
「第二波攻撃準備!先行隊と入れ替わりながら、戦線をこじ開けよ!」
「砲兵!砲撃の音が聞こえんぞ、弾薬を惜しむな!無くなったら敵から鹵獲するぐらいの気概で撃ち込め!」
三名の指揮官の側近達が、殺気だった指示を現場に向けて発している。
士気旺盛を超えた、どこか病的な表情を浮かべている側近に、指揮官達が各々の部署に戻り命令を下す。
「くそ、味方は無事か?今何人残ってる?大体でいい、報告してくれ!」
「三分の一程ですよ隊長!近づけないですな、ブルトブルク近郊だけでこれだけの防御施設なら、都市の中はさぞかし大歓迎の宴状態でしょうね!」
戦車隊の残骸で粘る歩兵大隊、セレスの塹壕陣地攻略に手間取り、味方と分断され、逆包囲をかけられている。
包囲しているセレスの部隊は卑しい笑みを浮かべながらに、ランドールの兵士を射殺しながらに距離をつめる。
ガチャ、ガチャ、ガチャン…
「狙撃小隊構え、トア隊は右、僕らは左側を受け持つ。曹長達の隊は外周にいる者達だ。各自落ち着いて狙え、敵の数を減らし、友軍を救うぞ」
「了解ティル、討ち漏らさないでよ?」
「お任せを少尉!」
ボルトアクション式の狙撃銃に、弾丸をスライドしながらに装填される。
匍匐姿勢のまま、観測手と二人一組となった狙撃手の群れが、朱色のセレスの兵士達をスコープの枠に捉える。
パパパパパパン…
ある者は頭に、ある者は胸を、ある者は手足を、それぞれが得意とする部位に照準し、連続した渇いた発砲音が響く。
さらにもう一射、もう二射間断なく射撃を繰り返し、正確無比な攻撃がセレスの部隊を屠っていく。
「うぅ、うう…」
「血が止まらない、寒いよ…」
「衛生兵…、痛み止めを、衛生兵…」
血溜まりに沈むセレスの部隊にトドメを刺すべく、駄目押しの指示をだす。
通信機を持つ兵士により、命令が迅速に伝達され、ティルの意思が通る。
「ツェーレ伍長、ロペス伍長、遊撃隊を率いて引導を渡せ!残さず討ち取れ、生き残りの兵士はいらない」
「過激ね、中隊長!」
「捕虜はとらないか、非情な判断は時には必要だ。その判断は正しい…」
ツェーレは背中の大振りなククリを抜き放ち、ロペスはコンバットナイフを逆手に握り、歩兵小隊が小銃を構えて生き残りに突貫してゆく。
セレス側へのトドメの時間は、あまりにも僅かな時間であった。
「状況終了。次にむかう…」
ティルはギフトを発現させながら、ほんのりと黄色に発光する瞳で戦場を見回しながらに、獲物を求める。
髑髏の腕章に、隊章をつけた部隊が規則正しく行動する中、救援を受けた部隊は、短時間で敵を壊滅させた味方の部隊に、感謝と共に畏怖の念を覚える。
「あの部隊、どこの奴らだ?」
「髑髏の隊章、お前見た事あるか?」
「いやわからない。新設された部隊か、もしくはニミッツ中将の虎の子なのかもしれないな…。しかしあの者達は…」
どこか不気味だ…。
人を人とは思わないようなあの表情、味方だけども、どこか薄気味悪い。
奴等が以前噂になったベロニカの亡霊なのかもしれないが、今はなんでもいい。
「助かったことに感謝だな…」
「あぁ、まったくだ」
ブルトブルク近郊の戦場は混沌としている。塹壕陣地には敵味方が入り乱れ、激しい白兵戦が続いている。
塹壕は死骸であふれ、セレスの朱の軍服と、ランドールの紺の軍服がコントラストな色合いをみせている。
戦闘はまだ続いている…。




