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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
果てなき消耗戦の渦中へ
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閑話 監視日誌

ジェイコブ大尉率いる情報部隊に、今日もまた便箋が届く。

その便箋には、送り主も宛名も無く、ただ指示だけ入っていた。


彼らの上役である、ランドール遠征軍担当の情報部隊将校からなのは、容易に想像がつくのだが。


マリーベル線の鼠を日夜取り締まる彼らにとって、宛名無しの便箋は日常的なものであるのだが、そこに奇妙な指示が淡々と書き連ねていた。


『ティル中隊に合流したトア准尉、並びにツェーレ伍長、ロペス伍長の上記3名の内偵調査、及び動向を監視せよ。セレスとの繋がりが確認された場合、即座に処断するように。なおこの便箋は読了後、例の如く焼却処分されたし』


ジェイコブ大尉は便箋を一瞥した後、ライターで焼却し、便箋を灰にする。

直下の部下に指示を出す。


「また難儀な依頼だな、諸君ご依頼だティル中隊に新たに配属した3名を徹底的にマークする。3名の過去の洗い出しと、動向を探れ!昼夜二交代制で常に行動を記録し、記録をファイリングしろ」


「あいさー大尉!」

「味方の内偵調査ですか、嫌な役柄ですね我々の存在は。時々分からなくなりますよ、自分達の役職がね」


「ぼやくなよ、仕事として割り切れ。何もなければそれで終わりだ、だがセレスの尻尾が確認できたら、その時は普段通り俺達の仕事となる。質問は?」


馴染みの部下達を見回す大尉。

戯けた態度の部下達だが、この時ばかりは真剣な顔つきで質問する。

不明点をなくす、それがジェイコブ隊の共通認識であり、ルールの一つ。


「監視と内偵調査の期間は?」

「彼らが前線に召集される前、1〜2ヶ月程を期間とする。セレスとの繋がりがあるのなら、ボロがでるはすだ」


「監視は四人体制で?」

「その人数が妥当だろ、残りの鼠の炙り出しもある、あまり大人数の人員は割けないのが現状だ」


「他は何かあるか?」

「「いいえ、ありません」」


「では予定通りに、今晩から各員行動を開始せよ!鼠もいぶりだせ!」




某月某日

ティル中隊の訓練に、時間をおかずに練兵場に姿を現す3名。

トア准尉は相変わらず新人指導に熱が入っており、こちらも新兵時代を想い起こされる苛烈なものであった。


ツェーレ伍長は数人の兵卒に、近接格闘のイロハを伝授している。

自身の経験を、そのまま伝えているかのように、懇切丁寧なものだった。


ロペス伍長は黙々と、新兵達の射撃訓練の指導を行い、構えや撃ち方について講義している様子である。


3名とも軍務内容は概ね良好であり、勤務態度は勤勉そのもの、朝と夜ともに逸脱した行動は認められず。

またセレスとの接触は確認されず。


関連事項としては、流れの傭兵集団にいた可能性があるとの事だけ。

ツェーレとロペス両伍長は、モロゾイ村での生活の痕跡を発見。


ただしトア准尉の足跡は依然不明。

追加調査の必要性があり。



○月△日

トア准尉とティル少尉が度々隊舎を抜け出し、まるで人目を偲ぶかのように逢いびきを行っている。

自分としては、両者の恋を応援したい気持ちもあるが、奥手の少尉にとって、歳上である准尉を攻略するには、時間がかかるであろうと愚考する。


戦略の転換が必要である。



□月◇日

今日は待ちに待ったロペス伍長の炊事当番日である。一週間ぶりだ。

前回、得意料理であると言っていた魚の香草焼きは絶品であった。


だが、今回の川魚の煮付けもまた舌鼓をうつべき品であると断言したい。

彼の食事に魅了された者は数多い、私もまたその魅了された一人である。


彼の魔法の手から生み出される魚料理に、肉料理は人々を幸せにする。

また一週間後が待ち遠しい…。



甲月乙日

ツェーレ伍長は勝気な性格だ。

ただ誤解されやすいだろうその性格に、私が少々補足説明を加えたい。


彼女は相手に自分の感情を伝えるのが下手なだけで、根はとても素直だ。

明るい雰囲気がそれを補って余りあるが、前者の部分がそれを邪魔していると言わざるをえない点がある。


そもそもツェーレ伍長は…





そこまで読み、大尉は報告書から目を離して遠くをみつめる。


結論では3名は白である。

ジェイコブ大尉は居並ぶ部下達と、報告書を交互に見やりながら、顰めっ面をしたままに机から離れない。


白だと確信した後、どうにも3名の内情や私生活まで調査され、知りたがりの部下達によって膨大な報告書となって、ジェイコブ大尉の机にのせられていた。


「現時点で3名の監視体制と、内偵調査の終了を告げる。各員元の任務に戻るようにお願いするよ…」



ジェイコブ大尉は椅子に深く座り直し、報告書とにらめっこを繰り返す。

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