幕間 過去からの刺客
始まりの個体は考える…。
トア達が介入している国家が、盛り返して祖国を奪還した。時代はいつだって流動的だ、明確な答えはない。
全ては時の運ともいえる。
栄華を誇った大帝国も、身内の骨肉の争いで分断し、国力が回復せぬままに、台頭してきた国家に打倒される。
一代で築いた国が、後継である二代目になった途端、家臣の離反や謀叛が相次ぐなんてよくある話だ。
国が興亡し、栄華と衰退を繰り返し、時代の節目節目に戦争が顔をだす。
増え過ぎた人口を間引く神の意思とも、人に備わる原始的欲求とも云われるが、同族同士で殺しあうのは生物の中でヒトくらいだ。愚かしくも儚い存在。
そんな人に創造された私達は、一体何者なのだろうか?ナノローグ様の至上命題の答えは、保留にしたままだ…。
だけど、私も私怨に取り憑かれた化物。
ナノローグ様は、時折怨みを忘れて世界を廻りなさいと仰ってくださるが、私の時間はあの都で止まったままだから…。
業火に燃える都。
泣き叫ぶ声、高笑いする双子。
仄暗い顔になりつつある始まりの個体に、培養液のカプセルから微弱な電気信号が届く。あまりにも短い信号。
それを誠実に受け、丁寧に答える始まりの個体。彼らにとっては、それだけで通じる何かがあるかの様に…。
「¥¥¥¥¥?」
「はい、ナノローグ様私の意思は変わりません。明朝、都の全戦力を持って双子の首を刈って参ります。陣頭指揮は私が行いますので、どうかご安心を」
「€€€€€、…€€€€€€€€」
「お優しい方ですねナノローグ様、私は貴方の為にあるのですよ?だから、貴方が望むのであるのなら、私は奴等を殺します。所在が判明した今、躊躇する必要なぞ微塵もありません…」
「…#####、…#####、…###」
「お休みなさいませナノローグ様。悠久の時の果てに、いずれ私もお側に参ります。その時はまた、私の名前を呼んで下さいませ。******は、いつだって貴方様の機械人形なんですから…」
「……」
「では行ってきます…。私の創造主様」
微弱な電気信号を発しなくなった、培養液のカプセルに浮かぶ、ナノローグであった残骸を、始まりの個体は抱きしめる。その行為は愛撫そのものだ。
やがて配下の機械人形達に指示を出す。
「エル?いいですか、以後は貴方がこの都を、塔の管理保全を担いなさい。この都の、機械人形の管理人の任頼みましたよ?私は暫し此処を離れますから…」
「承りました始まりの個体、御帰還の予定を教えて下さいませんか?」
「それはわかりません…、ですが、必ず戻ると誓いましょう」
「曖昧な表現ですね******様?私はその様な時の思考方法を存じません、どの様な思考が最適ですか?」
「頑張って、でいいですよエル。難しく考える必要はありません、貴方が笑顔ならそれだけで私は充分です」
「よく、…わかりません」
始まりの個体が、バックアップ用素体として創造した機械人形に、頭をポンポンして別れを惜しんでいる。
眠らずの都の地下からは、格納庫より大型ヘリが幾つも離陸し、戦闘用機械人形が満載されている。
整備が完了した機械人形が、怨敵を斃す為に死地へと出発してゆく。
空を埋め尽くさんばかりの黒いヘリの群れは、カラスの群れの様だ…。
始まりの個体達は一路、セレス首都サナーテを目指していく。