裁きの光
レベッカは機体をホバリングさせながら、アンリエッサの鉄巨人へと標準を合わせる。衛星砲と自分自身をリンクさせる為、膨大な情報量の海に溺れかけるレベッカ。キャパオーバーで全身が熱を帯び、オーバーヒート状態ではあるが、発射シークエンスを強引に省略してどうにか耐えている状態だ。
【緊急照射の為、通常の発射シークエンスa101〜j505まで簡略化。当該地域における目標の設定、個体名アンリエッサのアイアン・ヒュージ。熱量と光量を下方修正、仰角のピント合わせ…】
ジジ、…ザザザ、ジジジジ…
【警告、個体名レベッカにエラーを検知。当作業の続行後には、致命的な障害が残る可能性あり。警告、警告!】
衛星砲からの事務的なアナウンスが、レベッカの頭中に響く。
当然だ、本来なら始まるの個体が使う様な代物だ。私が無理矢理揺り起こして、使用しているに過ぎないんだ。
どんなエラーが出るかは、神のみぞ知るところだろう。いや、創造主のみぞ知ると訂正するべきだね…。
【衛星砲充電続行、チャージ80パーセントでの発射を承認。最終ロック解除、衛星砲内の圧力よし、炉心融解なし。続けて制動操作、トリガーを個体名レベッカに同期。発射カウントダウン…】
【警告!警告!個体名レベッカに重大なエラーを検知。警告!警告!個体名レベッカに重大なエラーを検知!当作業の中断を強く推奨!推奨!推奨!】
『3』
煩いな、細かい奴は嫌われるのよ?
私はトアに啖呵切ったんだから、無茶を通して道理も通すの。私の凄さを再認識させてやるんだから…。
『2』
なんだか身体が熱いな…。
衛星砲を一人で制御したから、当然といえば当然か。けど怖いとか怯えはない、なんだかすっきりした気分。
『1』
頭が酷くクリアだわ…。なんで?
そこでレベッカの意識は途切れた。
自身が操縦する黒い流線形の戦闘機からは、もうもうと煙が上がり、小規模な爆発を繰り返しながら地上へと墜落する。
衛星砲から極大の光が降り注ぐ、光の奔流はその照射された場所に、逃れようのない破壊を生み出していく。
鎧姿のマネキン達は融解し、パーツは光に触れた瞬間から炭となってゆく。
アンリエッサもまた、自分の操る鉄巨人のパーツが焦げてゆく、ボロボロとその身を擦り減らしている。光から逃れようと手を掲げても、その腕ごと光は貫通してゆき、遂には身体を構成していた鉄の瓦礫は残らず削げ落ち、アンリエッサの身体も頭と胴体を残して溶けた。
国門の前にどす黒い大穴を開け、その中心に力無くアンリエッサが横たわる。
敵の弩級兵器か何かだろうと推測し、アンリエッサは静かに目を瞑る。
自分を破壊する敵の機械人形が迫る中、せめて彼女の、メイの幸福を祈ろう。
ガチャリと拳銃の音がする。
止めを刺すべく、自分の頭に狙いを定めているのだろうと…。
終わりは唐突にやってくるのねと、どこか自嘲的に笑うアンリエッサ。
だが敵の、ランドールの機械人形からは意外な一言が投げかけられる。
【勝負ありねアンリエッサ。けどそのメイって子は、貴方にとってどんな存在?興味本位だけど教えてよ?】
【…絶好の好機を逃す気かしら?慈悲なんていらない、私を壊したいならさっさと壊せ!憐れみなんていらない!】
【…教えて、大事な人なの?】
【……】
【そうね、私を必要としてくれる大事なパートナー。あの子の家族は私だけ、天涯孤独になるのは避けたいわね】
【そう、なら貴方はその子の為にも生きなさい。但しもうヒト殺しも、私達の邪魔をしないのが条件よ?どう?】
【……私はこんな身体だ】
【腕のいい機械人形技師がいるの!それで問題は解決よ、どうかな?貴方は五体満足で、あの子の元へ返すわ。もしも罪の意識があって自分を許せないのなら、その意識が薄れるまで私達の国の復興事業に付き合って!】
【変な機械人形ね、…本当、変。けど嬉しいよ、ありがとう恩にきる。約束は必ず果たすと誓うわ…。生き残りのマネキン達にも、寛大な対応を求めるわ。あの子達は私の家族であり、同胞でもあり私の部下だから…】
アンリエッサの鉄巨人が崩れ落ち、残っていたマネキン達も、アンリエッサが助命されたと聞き、自らの意思で武装を解除してゆく。国門攻防の趨勢は決し、セレス側が抗う力はなくなった。
それからフランクリン国門内部に侵入したランドール解放軍が、国門を奪還するまで、さほど時間はかからなかった。