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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
果てなき消耗戦の渦中へ
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機械人形を求めて

ティル中隊の兵士達はそれからの3カ月間は、訓練に明け暮れていた。


朝から夕方まで、軍事教練や座学に費やし、隊舎に戻れば泥のように眠る毎日を過ごしている。

前線での戦況は余談を許さぬ状況で、セレス側の偵察機が、マリーベル線の上空を旋回するのも珍しくない。


ランドール側の要撃機が頻繁に飛び立ち、空の安全を確保している。


マリーベル線の部隊が、代わる代わる前線に向かう中、次に指名を受けるのはティル中隊の面々かもしれない。

習熟訓練と称する、詰め込む教育のように兵士達を鍛えているティル達。


ティルは軍学校時代の教本を元にした座学、髭面の曹長は軍事教練全般、トアは基礎体力トレーニングを受け持ちながら役割分担をしていた。


適正毎に歩兵小隊や狙撃小隊、砲兵隊、通信小隊、工兵小隊、医療小隊へと振り分けが行われ、ティル隊の主だったメンバーはリストを見つめている。


「この狙撃小隊と歩兵小隊を軸に、練度を上げていきたい。遠距離からの攻撃力を持つことは、それだけ有利になる。曹長、彼らの教育状態はどうか?」


「概ね順調ですよ、狙撃小隊の連中400メートル先の的なら楽々狙撃できるようになっています。砲兵小隊も、育てればかなりのものとなりますよ少尉。問題は、いつ我々に召集がかかるかですな。前線の様子はどうですか少尉?」


世間話しでもするかのように、現状を確認してゆくティルと曹長。

しかし前線の状況を語るティルの口振りは、どこまでも重々しかった。


「よくないな曹長、ベロニカ地帯を奪還されてからは、セレス側の勢いが止まらない。巧妙に陣地化が為され、取り戻そうと躍起な我が軍が、セレスの塹壕と機関銃の前に死体を築いてる。こちらの攻勢が鈍化すれば、奴らは前進を始めるはずだ」


「うへぇ、蜂の巣は御免ですな…。トア准尉ならこのクソッタレな状況を挽回できる手立てをお持ちでは?」


悪夢のような現実を聞かされ、渋面の曹長はトアに無茶振りをかます。

当然トアがやんわりと断ると踏んだティルだが、意外にも手立てはあると、悪戯っぽくはにかむトア。


「私に秘策あり、よ。実はこの近くに傭兵時代の旧い友人がいるのよ、私が直接出向いてティルの中隊に合流させるわ。2〜3日程暇を貰えるティル?」


「じゃあ僕も出向こうか?」

「いいや大丈夫よティル、彼らは気難しい上に独特な考えで動いてる節があるの。説得は私一人で行くよ」


「わかった、では任せるよトア」

「えぇ任されたティル、隊を頼むわ」


ティルは思う、トアのゆう旧い友人とは機械人形達であると。同時に危険はないのかと不安気な視線を送るティル。

ティルの視線を受けたトアは、心配ないというように笑顔をむける。


士官用の隊舎を抜け、マリーベル線の基地内を出ると、機械人形の能力をフルに使って跳躍する。

人を遥かに凌駕したその跳躍は、景色を置き去りにするかのように、驚くべき速度であった。



事前に聞いた『始まりの個体』の情報では、大戦が始まる10年前、この地域一帯を根城にする機械人形達がいると。

その機械人形達、厳密には二人組は、至上命題とは別に自らの定めたルールにのっとって生活していた。


人に混じり、人と交わる。


どういう思惑なのかはわからないが、そのルールを遵守する機械人形の二人組、その能力は未知数だが、是非とも戦力に組み入れたい。


そんなことを考えていると、目的地に到着したトア。

マリーベル線より離れた片田舎の村、距離にしてみれば数日はかかる場所に、トアは半日で到着した。


その片田舎の村の名は、モロゾイ村と呼ばれ、これといった観光資源はなく、絹織物の工芸品が有名であるくらい。

先程からひしひしと伝わる機械人形が放つシグナルがより強固となる。


「いるわね、間違いなく。さてさて蛇が出るか鬼がでるか、彼らのルールも面白いけど、私に理解を示すかな?」



独り言を呟きながらに、村で唯一の大衆食堂へと向かうトア。

扉をくぐると威勢のいい接客の声と、香ばしい香りが満ちている。


「いらっしゃい!お一人様?奥のカウンター席にどうぞ、今日のオススメは魚の香草焼きよ!参考までに〜」


導かれるままに席へ座るトア、寂れた村の中でも客足は盛況のようで、ウェイターと厨房は戦場のようだ。

そしてトアもまた、機械人形の二人組の目星をつけた。


先程の威勢のいいウェイター、小柄な女性で青みがかった髪を三つ編みにし、髪を後ろに流している人物。

もう一人は、黙々と厨房で料理を振る舞う大柄な男性で、灰色の髪型を角刈りのように切り揃えた人物。


「ご注文は決まりしたか?」

【始まりの個体の小間使いが、私達に一体何の用かしら?私達は今の暮らしに結構満足しているの、邪魔しないでくれるかしら小間使いさん、忙しいからさ】


「えーと、じゃあこのオススメの魚の香草焼きを一つお願いするわ」

【ナノローグ様の至上命題を解決するのが、私達の存在理由のはずでしょ?あんた達は充分自由時間を満喫したでしょ、なら私に協力しなさい…】


トアの視線に気づいた青みがかった髪の女性は、注文を聞く素振りをしながらに、副音声のようにトアに語りかける機械人形の女性。

トアもまた同じ方法で、機械人形に真意を問うように視線をぶつける。


【協力するのは別に構わない。私はツェーレ、奥にいるのは私の連れのロペスだ。ただし条件がある、私と一対一で勝負しなさい。私が勝ったらこの話はなし、不干渉を貫いてくれ。あんたが勝てば大人しく指示に従おうじゃない。どうかしら?】


【別にいいわよ、結果は同じなんだし。それで勝負の方法はなにかしら?あなたの提案する事でいいわ】


【大した自信ね。ルールは簡単よ私とあなたで今日の深夜、村の郊外の空き家での模擬戦を行うわ。どちらかの身体に一撃入れた方の勝ち、単純でしょ?】



トアとツェーレの模擬戦が決められたことに、流されやすい大柄な男性型の機械人形のロペスは、小さく溜息をつく。


【素直に協力すればいいのに…】


激情型の相棒に困った視線をむけながらに、魚の香草焼きを仕上げ、別のウェイターに配膳を頼むロペスがそこにはいた。

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