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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
掲げし旗
148/160

人形と人形

ミラー少佐は危うい状況なところを、友軍であるランドールの部隊に保護された。ジェイコブ大尉の亡骸を抱えながら、血を流し過ぎた影響でその場で気を失っていたようだ…。


「ー少佐⁉︎ー少佐!」


担架で運ばれている自分の名前を呼ぶ声が遠い。直ぐそばからの声が…。

朧気に見える景色は霞み、声を出そうにも喉からは何も紡げない。予想以上に疲弊していた自分に驚く。


皆は無事だろうか?

国門を巡る戦いはどうなったのか?

色々と考えを巡らせた少佐だが、抗えきれない睡魔に襲われ、ゆっくりと意識を手放していく。少し頑張り過ぎた…。



戦いは佳境を迎えつつある。

脆弱な部分を的確に突くランドールと、包囲網の分断を狙うセレス。

お互いに精鋭を放ち、研ぎ澄まされた矛での刺し合いが続く。突破口を探すのに躍起で、全域で激しさが増すばかり。


ランドールの右翼線突端部では、機械人形同士の戦いが展開しており、一進一退の様相をみせていた。

アノニムはまん丸な体型で、ツェーレの黒いククリを受け止め、ロペスからの砲撃を簡単に受け流している。


あのコミカルな背格好の機械人形、予想以上に動きがいい…。奴の基本戦法はカウンターだ、彼方からは仕掛けずに、こちらの出方を窺う。一見臆病な戦術だが、カウンターに絶対の自信があるのなら、それは必勝の型ともいえた。

ククリでは対抗出来ないと判断し、振動ナイフを構えて姿勢を低くする。

銀色に鈍く光るナイフは、獲物を求めて甲高い音を発し続けている。


ロペスもツェーレの動きに合わせる様に、砲弾を砲筒へと装填し、敵であるアノニムとの距離を保っている。

微妙な均衡状態となりつつあるこの場所で、アノニムからは先に動かず、静止した状態でこちらを観察している。


【ツェーレ、煙幕を使うか?】


【いいえロペス、あまり効果があるとは思えないわ。奴の身体の駆動系か、センサー類がいいのか、こちらの動きに初見で対応してきている。中距離で援護しつつ、私が近接戦で引導を渡すわ…】


【そうか、了解した。では砲弾は通常弾頭のまま使用する。だが敵は、ツェーレの速度にも馴染みつつある様に感じる。破壊が厳しいなら、撤退も視野に入れて行動してくれ。これは相棒の頼みだ】


【ん、了解!じゃあやりますか!】


【そうだな】


同時に動く2体の機械人形達。

短文通信でアノニムを倒す段取りを決めてから、動き出す。

ノープランで臨機応変が、基本戦法なので、ここまで綿密な話は久方ぶりだ。


「陽動からの本命…、これ見よがしのククリに、影に潜ませた別のナイフ。相方と協力しての同時攻撃、…か。一見粗暴に見えるが巧みな連携、感服する」


「お褒めの言葉どーも、そろそろくたばってくれると嬉しいけどね」


「まったく、だ…」


砲筒の砲弾も切れた今、ロペスもコンバットナイフを抜き放ち、セレスの機械人形たるアノニムに切っ先を向ける。

そして、仕掛けるタイミングをツェーレに合わせ、別方向からナイフを振りかぶってゆくロペス。


カウンター狙いというのなら、我武者羅に仕掛けるしかない。

肉迫する2体の機械人形に、アノニムは冷静に対処する。ロペスは左腕、ツェーレは右脚をアノニムによってもがれるも、ツェーレ達の瞳に諦めはない。

ロペスのコンバットナイフがアノニムの頭部を破壊し、ツェーレは真一文字に振動ナイフを振る。


断面が綺麗に切れたアノニムは、自分の状態を確認し、自らが敗北した事を悟ると、自分の核を自ら握り潰した。

遅かれ早かれ双子の主人達に処分されるなら、最期くらい自分の好きに散りたい。散りざまくらい権利はある。


「肉を切って骨を断つだったかな?イル様、ナル様…、後は頼みます…。不出来な自分をお赦し、下さい…」


ガシャンと前のめりに倒れたアノニムは、それから二度と起き上がらなかった。自決する機械人形なんて稀有な存在だと、ツェーレ達は思う。

戦いに生き、戦いに散る…。武人として華々しく散った彼は、自分の存在証明を戦場に求めたのが間違えだ。


人に必要とされなくなった機械人形は、淘汰される存在に成り果てる。


「ロペス生きてる?」


「なんとかなツェーレ、また技師のミンティスにどやされながら修繕されるのは億劫だがな…。ツェーレは?」


「まぁ辛うじてかな」


「軽口を叩く位には元気か」


残った腕の拳を突き出すロペスに、ツェーレもはにかみながら応じる。

どこか温かみがある様に錯覚する。


機械人形に体温など無いのに…。

まぁいいかと結論づけた。

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