第2次国門攻防(3)
ランドールが攻め寄せてくる。
大勢の鬨の声、せめぎ合いの声、苦悶な声、痛みに泣き喚く声、私達の行いが許せぬと怒号を飛ばす声。
フランクリン国門には、様々な声が満ち溢れてる。内側にも外側にも…。
誰が正義で、誰が悪かなんて個人の考えで簡単に裏返る。けどこの状況は私達の主人たる双子にとっては、愉快な事なんだろう。眠らずの都にいる者達に執着するナル様とイル様、ここでの事はあくまでそのおまけだ。
だが、私達はここにいる。
戦いの当事者として、歴史の分岐点に立っているといっても過言ではない。
ランドール解放軍も、セレス占領軍も命を燃やしている。
ならば私もその行いに敬意を表し、全身全霊で相手をしなければ失礼になる。
「じゃあ行ってくるねメイ…」
「アンリエッサさん、私には貴方を止められません。けど貴方は私の生きる希望なの、必要な人なの!だから、また私と一緒にいてくれる?」
「勿論よメイ。貴方が私を必要としてくれるなら、私はなんにでもなれるから。だから泣かないで?哀しい顔をされると、いきづらいから…」
眼に大粒の涙を浮かべ、言葉とは裏腹にメイはアンリエッサの軍服をつかんで放さない。ちぐはぐな行動をしている。
その腕をゆっくりと離し、落ち着く迄抱き締めるアンリエッサ。
その仕草は想い人に対するものだ。
「いつも泣き虫さんねメイ。じゃあ一つ約束、泣くのは今日が最後。綺麗な顔が台無しよ?ほら、鼻水もでてる。今生の別れじゃないんだから…」
「でも、…でもアンリエッサ!」
「さ、此処は危ないから避難して。メイも巻き込まれる、私の部下を数人付けるから。急いで!」
なおも言い募るメイを、アンリエッサの部下であるマネキンが半ば強引に避難させ、国門の外へ退避してゆく。
「おやおやアンリエッサ、何時から子守の副業を始めたのかな?私は気になって気になって、戦いに集中できませんよ」
「…返り血だらけがよく言うわ。催促されなくても、私も動くわ。アノニムも戦場に出ているの?」
異様に長い手足を持つヒルデガルドが、音も無く国門の廊下を歩いている。
私達の会話が終わるのを待っていたのか、絶妙な間で横槍を入れる。
「ええ、仕事熱心で。アノニムは動き出した敵の右翼へ突撃しました。私はアンリエッサを、右翼へ出撃しないかの誘いに来た次第でね。どうかな?」
「それは魅力的な提案ねヒルデガルド、マネキン達を率いて向かうわ。それと、中央と左翼は保ちそうなの?」
「健在ですよアンリエッサ、人同士の大戦なんですから。そう簡単に陥落したらつまらない、せっかく主人達がご用意した遊戯場なんだから。楽しまなきゃ」
言いたい事を言った後は、ヒルデガルドはまた戦場へ逆戻りしている。
伸縮自在の手足を使い、兵士達を掻き分けながら、戦いを堪能している風だ。
義務を果たせと釘を刺しにきた。
主人達の忠実な人形を自称する彼にとって、私の存在は鼻につくのだろう。
「私達も遅まきながらいこう!目標は敵右翼、眠らずの都の機械人形共もいる筈だ。死力を尽くせ!」
国門の壁より、ばらばらと地上へ降り注ぐマネキン達。紺色の軍服を纏うランドール解放軍を狙い、セレス占領軍の前へと進撃を始めている。
駆動系を鎧姿で覆ったマネキン達は、解放軍の攻撃をいなしている。
アンリエッサもまた、マネキン達の中に混じり、戦場に散らばる鉄屑や兵器の残骸を吸収しながら歩みを進める。
鉄人形は動く。
主人の為でなく、大事な人の為に。