点と点を繋ぐ
ライナレス線会議室。
丸い円卓状のデスクに、主立った士官達が集まり、今後の解放軍としての行動方針を示していく。
ニミッツ中将は車椅子を副官たる参謀に押されながら、中央へ陣取る。
「ランドール本国に蔓延るセレスより、国を取り戻す。遺憾ながらライナレス線は放棄、以後は本国奪還に注力する!」
「放棄ですか…?今までの功績が無に帰すのは、歯痒いですが…。しかしニミッツ中将、本国を奪還しようにも、我々には帰還する手段がありませんよ?我々はここで戦い続ける以外ないのでは?」
ニミッツ中将の提案に、ニミッツ子飼いの部下であるコーウェン少将が疑念の声を上げ、難しい顔をする。
そこへ返答するのが意外にも参謀であり、こほんと軽く咳払いする。
「コーウェン少将、貴官の懸念は当然だ。だがその問題は既に払拭され、空輸でも海上輸送でもない、まったく別の移動手段が確立しているのだ。トア少尉、説明を頼めるかな?」
「参謀殿、そんな馬鹿な話はありませんよ。我々解放軍全体で、いったい何人の軍人がいると思いで?」
コーウェン少将が尚も疑念を消さず、他の高官達も追随している。
そんな雰囲気の中、トアは会議室の中央へ歩み出る。横にいるティルに、行ってくるねと耳打ちして、どこまでもマイペースな様子であった。
ジェイコブ大尉の報告書に、トア少尉のギフトの詳細が明記していた際に、最初は半信半疑であったニミッツ中将と参謀であったが、実際に体験して考えが変わった。最早これしかないと…。
「ご紹介にありました、ティル遊撃隊所属のトア少尉です以後お見知りおきを皆さん。えー、私のギフトは端的に言いますと、空間と空間を繋ぐ能力です。以前チェルシー公女殿下を救出した際に、ランドール首都リュティスへの『道』は繋いであります。後は解放軍である、皆さん方を送り出すだけです」
淡々と説明を続けるトア少尉。
その説明を聞いている士官達は、どうにも落ち着かない様子で、トアの能力より、その存在に注目していた。
「あれが、亡霊本人か?」
「ベロニカ撤退戦時に、頭角を現した新たなギフト持ちだとか…」
「まだ歳若い女性だな、自分は歴戦の強者と勝手に考え違いしていたが…。ティル中尉も人が悪い、あんな隠し玉を自分の隊に秘匿するなんて」
「いや、自分はそんなつもりは全く!生き残る事に必死でして、なぁ髭面の准尉?君からも何か言ってくれ」
急に話を振られ、右往左往なティル。
アドリブが苦手なティルは、長年の戦友たる髭面の准尉に期待するが、髭面の准尉もしどろもどろしている。
「ちょっと、話が脱線していない皆?トア少尉が説明しているのだからきちんと聴きなさい?あんた達の態度は、あんまり関心しないなぁ。わかった?」
そこへ助け船を出すミラー少佐、弟分たるティルの窮状を見兼ねた少佐が、手心を加えた形だが、ジェイコブ大尉が楽しそうに眺めている。
「おやおやミラー少佐も甘い様で、公私混同はするなと、どなたが口酸っぱく言っていたのですが、あれは幻だったのでしょうかミラー少佐?」
「ーーっ!今は見逃しなさい大尉!緊急の、看過できない事態だったの!」
最初の真剣な様子から、会合は和やかな雰囲気となり、各自が寛いだ様子の中で、トアの保管庫の能力が披露される。
「では、そこのあなたとあなた!実際に私の能力を体験してみて下さい。論より証拠、ベロニカ地方とここを一時的に繋げます。『開門』せよ!」
会議室の壁際に、色味の違う樫の木の扉が現れ、扉には判別できない不可思議な文字が羅列している。
指名を受けた士官達が、おっかなびっくりに扉を開けると、その景色の違いに数秒間思考を停止し、動きを止める。
「これは……」
会議室の壁の向こうには、ベロニカ地方の景色が広がり、数キロ先にはセレスの軍勢も確認できたからだ。
細かい理屈は抜きにして、これは起死回生のギフトだと、動かぬ証拠となり会議室に行列が出来た瞬間だった。
「まったくトアの奴、ティル君の前で張り切って!本当に猫被るのが上手ね、ロペスもそう思うよね?」
「女性は誰だって猫被る性質なんじゃないか?ツェーレ、最初は君だって素の姿を出すまで時間がかかったよ」
「くぅ〜ロペスちゃんに座布団一枚!気心知れた、信頼した相手にしか心を開かないなんて、ロマンチックね!」
「…どうもレベッカさん」
「なんか納得いかないんだけど…」
むくれ顔のツェーレにしたり顔のロペス、そのすぐ側でツェーレのほっぺを突つくレベッカ、その後ティルと髭面の准尉を交えた雑談が暫く続いた。