表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠らずの都の住人  作者: 同田貫
掲げし旗
135/160

点と点を繋ぐ

ライナレス線会議室。

丸い円卓状のデスクに、主立った士官達が集まり、今後の解放軍としての行動方針を示していく。

ニミッツ中将は車椅子を副官たる参謀に押されながら、中央へ陣取る。


「ランドール本国に蔓延るセレスより、国を取り戻す。遺憾ながらライナレス線は放棄、以後は本国奪還に注力する!」


「放棄ですか…?今までの功績が無に帰すのは、歯痒いですが…。しかしニミッツ中将、本国を奪還しようにも、我々には帰還する手段がありませんよ?我々はここで戦い続ける以外ないのでは?」


ニミッツ中将の提案に、ニミッツ子飼いの部下であるコーウェン少将が疑念の声を上げ、難しい顔をする。

そこへ返答するのが意外にも参謀であり、こほんと軽く咳払いする。


「コーウェン少将、貴官の懸念は当然だ。だがその問題は既に払拭され、空輸でも海上輸送でもない、まったく別の移動手段が確立しているのだ。トア少尉、説明を頼めるかな?」


「参謀殿、そんな馬鹿な話はありませんよ。我々解放軍全体で、いったい何人の軍人がいると思いで?」


コーウェン少将が尚も疑念を消さず、他の高官達も追随している。

そんな雰囲気の中、トアは会議室の中央へ歩み出る。横にいるティルに、行ってくるねと耳打ちして、どこまでもマイペースな様子であった。


ジェイコブ大尉の報告書に、トア少尉のギフトの詳細が明記していた際に、最初は半信半疑であったニミッツ中将と参謀であったが、実際に体験して考えが変わった。最早これしかないと…。


「ご紹介にありました、ティル遊撃隊所属のトア少尉です以後お見知りおきを皆さん。えー、私のギフトは端的に言いますと、空間と空間を繋ぐ能力です。以前チェルシー公女殿下を救出した際に、ランドール首都リュティスへの『道』は繋いであります。後は解放軍である、皆さん方を送り出すだけです」


淡々と説明を続けるトア少尉。

その説明を聞いている士官達は、どうにも落ち着かない様子で、トアの能力より、その存在に注目していた。


「あれが、亡霊本人か?」


「ベロニカ撤退戦時に、頭角を現した新たなギフト持ちだとか…」


「まだ歳若い女性だな、自分は歴戦の強者と勝手に考え違いしていたが…。ティル中尉も人が悪い、あんな隠し玉を自分の隊に秘匿するなんて」


「いや、自分はそんなつもりは全く!生き残る事に必死でして、なぁ髭面の准尉?君からも何か言ってくれ」


急に話を振られ、右往左往なティル。

アドリブが苦手なティルは、長年の戦友たる髭面の准尉に期待するが、髭面の准尉もしどろもどろしている。


「ちょっと、話が脱線していない皆?トア少尉が説明しているのだからきちんと聴きなさい?あんた達の態度は、あんまり関心しないなぁ。わかった?」


そこへ助け船を出すミラー少佐、弟分たるティルの窮状を見兼ねた少佐が、手心を加えた形だが、ジェイコブ大尉が楽しそうに眺めている。


「おやおやミラー少佐も甘い様で、公私混同はするなと、どなたが口酸っぱく言っていたのですが、あれは幻だったのでしょうかミラー少佐?」


「ーーっ!今は見逃しなさい大尉!緊急の、看過できない事態だったの!」


最初の真剣な様子から、会合は和やかな雰囲気となり、各自が寛いだ様子の中で、トアの保管庫の能力が披露される。


「では、そこのあなたとあなた!実際に私の能力を体験してみて下さい。論より証拠、ベロニカ地方とここを一時的に繋げます。『開門』せよ!」


会議室の壁際に、色味の違う樫の木の扉が現れ、扉には判別できない不可思議な文字が羅列している。

指名を受けた士官達が、おっかなびっくりに扉を開けると、その景色の違いに数秒間思考を停止し、動きを止める。


「これは……」


会議室の壁の向こうには、ベロニカ地方の景色が広がり、数キロ先にはセレスの軍勢も確認できたからだ。

細かい理屈は抜きにして、これは起死回生のギフトだと、動かぬ証拠となり会議室に行列が出来た瞬間だった。



「まったくトアの奴、ティル君の前で張り切って!本当に猫被るのが上手ね、ロペスもそう思うよね?」


「女性は誰だって猫被る性質なんじゃないか?ツェーレ、最初は君だって素の姿を出すまで時間がかかったよ」


「くぅ〜ロペスちゃんに座布団一枚!気心知れた、信頼した相手にしか心を開かないなんて、ロマンチックね!」


「…どうもレベッカさん」


「なんか納得いかないんだけど…」


むくれ顔のツェーレにしたり顔のロペス、そのすぐ側でツェーレのほっぺを突つくレベッカ、その後ティルと髭面の准尉を交えた雑談が暫く続いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ