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眠らずの都の住人  作者: 同田貫
窮鼠猫を噛む
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憎しみの連鎖

同僚のハロルド中尉が戦死した。

いつも横にいるのが当たり前な、しぶとさだけが取り柄だと思っていた戦友。


ギフト持ちであっても、兵士である以上名誉の戦死は覚悟の上だ。2階級特進は光栄な事なんだろうが、まだ彼が居なくなった実感が湧かない。

最期を看取る事も、誰にやられたかすら不明なまま、助手達の報告だけがクロエにもたらされた。


「そう、彼は天に召されたのね。人である以上、死を超越した者など存在しない。やがて私達が辿り着く、終点へと彼は旅立ったのね。悲しいわね…、見知った彼がもう居ないなんて」


「先生、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ、後退しますか?」


数人の助手達が不安気にクロエを覗くが、本人はそれを手で制する。

医者にとって、まして自分にとって死なんてモノはありふれている事象だ。

誰も彼もが死ぬ現実。

そこに線引きも例外もない。


だから仇討ちをしなきゃ、死に損ないの瀕死の患者、ランドール遠征軍に裁きの鉄槌を、私の毒をくれてやる。


「大丈夫よ、ありがとう。軍服を羽織っている以上、それが死装束になるリスクは織り込み済みよ。私達は、私達ができる最善を尽くしましょう。それにまだ実験をしなきゃ、まだ足りない、まだまだ足りない…。より飛躍的に、誰もが到達せぬ領域へ。私達はいくのよ」


「えぇ先生、ご一緒します。私達は何処までも先生と共にあります」


「ご指示を先生!」


「被験体はランドール遠征軍!新薬の臨床試験を実施する。効果と持続時間の精査する、実働部隊は私と、検死役は後から続けなさい。では、かかれっ!」


「「はっ!!」」


セレスの誇るギフト持ちのクロエ。

毒蜘蛛が自ら率いる部隊が、戦場へと介入する。親蜘蛛に教育された子蜘蛛達も、後へと続いていく。

今回は大規模な毒ガス使用は、敵の拠点制圧時に限定使用される手筈だ。

閉鎖空間の方が、より効率的に敵を殺傷できる。それまでの間は毒を注入した弾丸と、噴霧式のガスを併用する。


ランドールの籠る塹壕線に、噴霧式のガスボンベを背負った助手が近付き、それを付近のセレスの部隊が援護する。

毒入り弾は、ランドールの兵士が傷付くだけで体内へと浸入し、臓器や組織を腐敗させ破壊する。

即効性の高い毒が、屈強な兵士達を沈黙させていき、仕上げに噴霧式の毒ガスボンベで、塹壕線に繋がる通路に隈なく毒を撒き散らしている。


「あぁあぁ、目が開かない。目が…」


「助けて、助けて神様!」


「セレスの野郎!よくもっ、よくも」


世界の終わりはこんな景色だろうなと思いつつ、クロエの助手達が毒を撒く。

そして検死役達が、ランドールの死骸を検死し、効果を記録してゆく。

憎しみが憎しみを呼び、また新たな悲劇を喚び起す。これは戦争の縮図だ。


世界から戦争が無くならないのは、単純に戦争行為そのものが魅力的たがらだ。

勝てば国土を削り取り、講和条約では多額の賠償金を請求できる。

屈服させた国からは、人や資源を欲しいままにし、それを糧により繁栄する。

敗北すれば全てを失くすが、勝利すれば耐え難い屈辱を相手側に与えられる。


「人はどうしようもなく度し難いわ。有史以来の戦争の歴史も、抑止力として期待された私達ギフト持ちが平然と戦争に投入されるのも、全ては探究心からだとは思わない?思うわよね?」


既に事切れたランドール兵士の一人に講義するクロエ、問い掛けには無言で、落ち窪んだ目だけがクロエを眺める。


「誰もが歓び勇んで死に突き進む異常な世界。そんな世界を、薄氷の上で歩く勇気は貴方にはあるかしら?」


彼女の前に、ガスボンベを背負った助手が投げ飛ばされる。ガスボンベは滅茶苦茶に握り潰され、助手の身体はあちこちが断裂し、あらぬ方向に向いている。

その元凶がこちらへ近付く。


「お久しぶりね、ミラー少佐。私に逢えて嬉しい?それとも哀しい?」


「狂人クロエ、お前の謳う世界になんか私がさせない!生きている限り世界が不幸になる、ならば私が引導を渡す!これは絶対応報だ狂人め!」


「あら、それは素敵ね少佐。私と貴方の殺しあい、何度経験しても胸が踊るわ!だから死ぬ迄踊り狂いましょう、死の舞踏を、怨嗟のワルツを!観客を死人で一杯にしたいわね、ねぇ?」

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