プロローグ
今より遥かな昔、先史文明といわれる高度に発達した時代。
人々は恒久的な平和を享受し、誰もが幸福に暮らしていた時代があった。
そんな時代にとある小国が存在していた。
その国では機械文明が発達し、その国に暮らす全ての国民がその恩恵を受けた。
やがてその国では、本来なら禁忌として忌避される、人の似姿をした機械人形達が創造される事となる。
国民達は暮らしに必要なあらゆる行為を機械人形に求めてしまい、それはやがて生産活動から政治、経済、挙げ句の果てには国防まで機械人形達に代行させた。
これにより、あらゆる事柄に無関心となった国民達は、自ら発達させすぎた機械文明のもと、緩やかに、緩慢に、着実に滅びの道を辿ることとなり、この国は歴史の影に埋もれてしまうはずだった。
しかしそうはならなかった、機械人形達とその創造主たる数人の人間達により、その国の都は保全され続け、都市機能を維持させながらに、機械人形は自分達の仲間たる機械人形を自らの手で創造し続けながらに、彼らの生態圏は拡大し続けた。
荒廃するはずの都は、機械人形達の手により修繕され続けていた。
国民達がいないのに、まるでその都は人が住んでいるかのような状態が数百年と永きの間脈々と続いていた。
その間には、当然付近の国や、大陸の文化、民草達の住まう都市が、様々に移り変わっていく中、当然のように存在し続けていた。
それ故に興味や好奇心に駆られた付近の国々が、度々調査隊や軍隊を派遣し、その都を接収し、我が物にしようと目論んだが上手くはいかず、派遣した人々そのものが神隠しのように消え、数年後に都の近くから大量の人骨が発見されることがしばしばあった。
好奇心はやがて恐怖心へと塗り変わり、白亜の摩天楼がそびえ立つ先史文明の遺産は、触れざる都として周知される。
ある著名な遺跡研究家が、その都に皮肉をこめて名付けたことで以後この都の名はこの名で呼ばれる事となる。
遺跡研究家曰く、『眠らずの都』と…
それからさらに数世紀後、眠らずの都の住民と呼ばれる機械人形達が、外に知識を求めて、度々目撃されることが頻発する。
幾つもの文献や書物からその生態を読み解くと、知識を探求する者や、貨幣経済について調べる者、戦争の歴史に触れる者などまちまちであった。
機械人形のプログラムエラーとも、管理素体とも呼ばれる『始まりの個体』の指示とも、外部環境の調査とも呼ばれている。
一番有力な説としては、創造主と呼ばれる人間の至上命題を解決する為であるという説が最有力であるとされている。
そんな数ある機械人形達の中で、特に異質な個体達としては、時代時代の戦争に自ら介入してくる個体であった。
どういう原理なのか、どうしてなのか、理解の及ばぬ存在。
眠らずの都の一室、『塔』と呼ばれる建築物
から指示をだす始まりの個体と呼ばれる機械人形、彼らの至上命題である
【人は何故争うのか?何故有史以来戦争は根絶できないのか?平和とはなにか?我々は何処にいくのか?我々の存在意義は?】
その疑問に答えを出すべく始まりの個体は配下の機械人形に指示をだす。
「我々の至上命題に対し、今再び行動を起こすこととする。我らが創造主たるナノローグ様への明確なる答えがでるその時まで、私達機械人形の歩みは止まらない。私達は拡大し続け、繁栄を続ける」
「############」
「はい、我らが主人様。この時代への戦争への介入を開始いたします。人選は如何様にいたしましょうか?」
始まりの個体と、培養液で満たされたカプセルから聞こえる電子音。
そこからは確かな人の意思を感じる。
人の身体を脱ぎ捨てた物体と成り果てた、元眠らずの都の創造主が眠るカプセルから
「○○○○○○○○!☆☆☆☆?」
「はい、…なるほど」
「かしこまりました、全ては貴方様の仰せのままに!ではかの者に早速一勢力に接触するように指示をだします…。全てはナノローグ様の目指す望みの為に…」
一人の機械人形に白羽の矢がたつのは、それから直ぐのことであった。