Episode zwe Geburtetagi
俺な休日の次の日。お昼を終えて午後の仕事をしている時にわ桜からラインが入った。内容は、数字の意味がわかったとのことだった。調べてみたが俺にはさっぱりだったのに、桜はもうわかったことが凄いと思った。彼女には仕事が終わったら行くと返事して、俺は残りの仕事を片付ける。
仕事を終え、桜の所へ向かう。いったい、どういう意味だったのか。そんなことを考えながら、歩いていく。館に着き、いつものように中へと入る。
「桜ー。来たぞ」
「It here」
「そっちか。今行くよ」
彼女の声を辿っていく。そこは、いつも桜がいる場所ではなくて書斎の方だった。
「今日はこっちなんだな、桜」
「早かったのね、隼人。ラインの内容は読んだわね?」
「ああ。それで、どういう意味だったんだ?」
「それは、こういうことよ」
桜が一枚の紙を渡してきた。そこには、今までの数字の間に線が引かれていて、日付を示すような感じになっていた。
「1/9」
「8/10」
「12/13」
「これは日付でいいんだよな?」
「Ja.おそらく、これは誰かの誕生日を示すと思う」
「なるほどな。でも、何でわかったんだ?」
「Geheimnis」
笑って指を口に当てる桜。秘密と言ったのだろう、と俺は予想した。何しろ桜は、いくつもの言語を話す。一番多く話すのはドイツ語だと、彼女は言っていた。だが、俺は理解できない。最近になってやっと、桜の身振りなどで何を言っているのかわかるようになってきたくらいだ。頭の良い彼女を持つと大変である。だけど、それ以上に桜は可愛らしい。俺はいつも、そう思っている。
「とりあえず、私はこれからこの誕生日の人を調べてみるわ」
「これまでの歴史上の人物とかも、全てを?」
「ええ、そうよ」
「それって、凄い量だよな。大丈夫なのか?」
「私を誰だと思っている」
「そうだけどさ…… 手伝うか?」
「Nicht notwending」
首を振り、否定の意を示す。彼女がそう言うのならば、仕方ない。助手は探偵に従うのが定め。
「だけど、そうね。これらの星座を調べてくれる? それくらいはできるでしょう?」
「それくらいなら」
「あと、誕生花もお願い」
「わかった」
彼女にそう頼まれ、俺は少し嬉しくなった。頼ってくれる。いつもは見せない、そんな素振りが嬉しかった。
「もうこんな時間か。俺はそろそろ帰るよ」
「ええ。気を付けてね、隼人」
桜が俺を引き寄せ、頬に口付けをする。
「それ、反則だよ桜。帰れなくなるだろう?」
「この前の仕返しよ」
いたずらっぽく笑う彼女の頭を撫で、お返しとばかりに頬にキスをする。
「また明日ね」
「おやすみ。また明日、桜」
手を振り見送る彼女に手を振り返し、来た道を戻る。家に着いたら何から始めようかとか、頭の中で順番を決めながら歩いていく。そういえば、もうすぐ桜の誕生日だ。お祝いのプレゼントも、早いうちに考えなければ。何かと考えることが多い。
夕食を食べ終えてから、桜に言われたことをリスト化し始める。言われたの程度なら、インターネットに頼らずとも本で調べられる。自室から、事柄に関する本を何冊カウントダウン引っ張りだし、目的の内容を探していく。
「よし、こんなものか」
調べ終え、リストをしまう。明日、桜に見せよう。考えながら時計を見ると、気づけば日付が変わっていた。
「明日も早くから店を開けないとだから、そろそろ寝ないといけないな」
今日のことを手早く日記にまとめ、俺は布団に潜り込んだ。
次の日。いつものように桜の所へ向かっていると、桜と同じ高校の生徒を何人か見かけた。彼女もきっと、あの事故が無ければ通っていたのだろうか。ふと、そんな考えが頭に過った。
桜の友人であった子の事故死。そのことについて、彼女は責任を感じているのだと言う。それは、四年経った今でもそうなのだと。どうしてなのかと聞いても、桜は頑なに話そうとはしない。きっと今はまだ、話せないのだと思っている。俺自身、失う辛さはよく知っているから。
少年少女達を目で見送り、館へと続く道に進んでいく。普段のようにノックしてはいろうとするが、今日は扉が閉まっていて中に入れない。
「留守か……」
帰ろうかどうか考えている時に、桜が歩いてくる姿を見つけた。久しぶりに見る制服姿の彼女を眺めていると、気づいたのか駆け寄ってきた。
「来てたのなら、連絡くれればよかったのに……」
「今来たばかりだから、大丈夫。それよりも、学校だったのか?」
「面談だからと、教師に呼ばれてね」
「それで行ってたのか。いないから、どうしたのかと」
「ごめんね。なかなか、帰らせてくれなくて」
申し訳なさそうにそう告げる桜に、大丈夫と言い頭を撫でる。
「それより、外は冷えるからそろそろ入ろう」
「今開けるね」
そう言い、鞄の中から鍵を取り出して扉に差し込む。鍵の開く音がして、重たい扉が開かれる。
「お待たせ。さあ、入って」
あとに続いて俺は中に入り、そのまま台所へと向かう。
「寒かっただろうし、温かいものでも用意するよ」
「ありがとう。それじゃあ、お願いするわ」
冷えた体には、暖かいミルクが良いだろう。冷蔵庫から牛乳を取り出し、鍋に入れて火にかける。お腹も空いてるだろうと思い、サンドイッチを作って焼く。
「いい匂いがする」
匂いに釣られ、桜がキッチンへとやって来た。
「もうすぐ出来るからな」
「わかった」
そして、皿を並べてから大人しく椅子に腰かける。焼き終えたものを皿に移し、ミルクをコップに注ぐ。
「出来たぞ」
「ありかとう、いただきます」
手を合わせ
二人とも食べていく。やはりお腹が空いてたのか、今日の桜はよく食べている。
「美味しいよ、隼人」
「それならよかったよ」
味付けで使ったマヨネーズが、口の端に付いているのに気づかずに食べる彼女。それをティッシュで拭き取ってあげる。
「付いてたよ。ゆっくりでいいのに」
「だって、美味しいから」
その笑顔に、俺は嬉しくなる。喜んでくれるなら、作って良かったと思う。
「そうだ、今日も届いたのか?」
「Ja.まだ内容は確認してないけど」
「食べ終わったら、二人で確認することにしよう」
「Gut」
こくりと頷いて、桜は肯定する。彼女も俺が理解できないと知っているから、難しい言葉は話さないようにしている。だけど、時にはこうして出てしまうこともあるのだという。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
食器を片付け、彼女と共に書斎へと入っていく。まずは、昨日頼まれたものを渡し、それに桜が目を通す。
「ん、ありがとう。それじゃあ、引き続きでこれから届くのもお願いね」
「これくらいなら、任せて」
「わかったわ。さて、本題にいきましょう」
そして、今日も届いた水色の封筒を開ける。
「518」
「これは、五月十八日かな」
「多分そうね。昨日までと合わせて、これで四通目ね。いったい、何がしたいのか」
「さあ、俺にはわからない」
「それを解くのも、探偵の役目だしね」
そして、山のように積まれた本から一冊取り出して、調べ始める。こうなった彼女の邪魔をしようものなら、酷く怒られてしまい最悪の場合は出入り禁止になる。俺は桜をそっとしといて、時間になるまで言われたことの調べものをしていた。
次の日。今日は早めに店を閉め、近所に買い物に来ている。女性物のネックレスを前に、かれこれ一時間程頭を悩ませている。店員も見かねたのか、そんな俺に声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「彼女へのプレゼントを……」
「それでしたら……」
店員はショーケースの中から、いくつか取り出して俺に見せてくれた。その中に、一つ気に入ったのを見つけた。シルバーのチェーンに、薄紫の宝石をあしらった雫の形をしたネックレストップ。シンプルでも可愛らしくて、桜に似合う気がした。
「これ、お願いします」
「かしこまりました。ご用意致します」
選んだものを店員に伝え、プレゼント用に包んでもらい会計を済ませた。そして、プレゼントと作ったケーキを持って、桜の所へ足を運ぶ。
「桜、いるかー?」
いつものように中に入るが、今日は返事が無い。台所にケーキを置いて、彼女を探す。いつも座っている所にはいなくて、書斎の方へと向かう。ドアを開けて中に入ると、桜は椅子に座って寝ていた。机の上には積み上げられた本と、リストアップしていった人物が書かれた資料があった。
「お疲れさま」
そう呟き、彼女を抱えて寝室に運ぶ。ベッドに寝かせ布団をかけて出ようとした時、服の袖を引っ張られた感じがして振り向いた。
「はやと……」
寝言で俺の名を呼ぶ桜。強がっていても、彼女はまだ高校生だ。一人で寂しくて、心細いのだろうと思う。弱々しく握る彼女の手に自分の手を重ね、ベッドに腰かける。
「大丈夫。俺は、いつでもそばにいるからな」
そう声をかけると、安心したのか寝息が聞こえてきた。俺は桜を起こさないように、そっと頭を撫でた。
「ん……」
「起きたか。おはよう、桜」
しばらくしてから、彼女が起きてきた。
「はやとだ……」
ふにゃんと笑い、まだ寝ぼけたように抱きついてくる。そんな様子にくすりと笑い、彼女を抱き寄せる。
「どうした? 今日は、甘えん坊だな」
「にゃー」
「よしよし」
すり寄ってくる彼女を撫で、気が済むまで甘えさせる。
「あれ、隼人? もしかして私、寝てた?」
「お目覚めかい? 探偵さん」
「Guten morgem.続き、やらなきゃ」
「その前に、ちょっといいかな?」
不思議そうな顔をしながらも、彼女は頷く。それを見て、ポケットからプレゼントを取り出す。
「誕生日おめでとう、桜」
「え?」
「今日だろ?」
「そうだけど。その…… ありがとう……」
照れくさそうに笑う桜を抱き寄せ、ネックレスを付けてあげる。
「うん、やっぱりよく似合ってるよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「そうかな」
嬉しそうにしながら、彼女はネックレスを触ってる。
「そんなに気に入ったのか」
「隼人からのプレゼントが嬉しくて」
「それなら良かった。ケーキも作ってきたけど、食べるか?」
「勿論!」
勢いよく布団から出て、台所へと俺を引っ張る。ここまで喜ぶとは思ってなかったが、嬉しい誤算である。何しろ、彼女の喜ぶ顔が見れただけで満足なのに、更にはお釣りまできたのだ。今日は良い日になった。