ストーカー
大学を卒業した浩二は、東京の会社に就職し、そのまま東京で暮らすことにした。
たまに家に帰れば、父親とはあの事故以来ほとんど口を利くことはなかった。
次第に、家に帰る日が盆暮れのみとなり、そしてそれも遠のくようになった。
幸子と会う回数は月一から週一と増えた。
仕事の話や大学の話題で盛り上がり、たまに映画や演劇鑑賞にも行くが、それも幸子の方が積極的に誘うのがほとんどだった。
浩二は浩二で終始、自分の妹のように接した。
しかし、幸子のほうは浩二を一人の男と思い始めるようになった。
いつの頃からか二人は同棲をし始めた。
ある理由で浩二の方から同棲を申し込んだのだ。理由は幸子にストーカーまがいをする者が纏わり始めたからだった。それも、執拗で次第にエスカレートするようになった。
幸子自身ではもう対応しきれなくなり、浩二に相談したのだった。
「そうか、分かった。サッチンにそんなことする奴が現れたのか」
浩二は幸子の事をサッチンと呼ぶようになった。サッチンという愛称は、元々、小さい頃の幸子の呼び名だった。
浩二にとって幸子は女ではなく、完全に自分の妹に置き換わっていたのだ。
「大丈夫、俺が何とかするから。サッチンはいつも通り勉強に励めばいい」
浩二は、大学で鍛え上げた少林寺拳法を試すいい機会だと思った。
浩二は逆にストーカー男を付け狙うことにした。
幸子から聞かされた男を付け回した。
どうやら、そのストーカーは三十代前後の公務員のようだ。
しかし、どう見ても公務員にはほど遠い身なりをした男だった。
髪は茶髪、手首には赤い数珠のようなバンドを締め、耳たぶには金のイヤリング。しかも首筋に小さくトカゲのタトゥー、どう見ても堅気の人間にはほど遠い男だ。
なぜ、こんな身なりの人間が堂々と役所仕事に入れたのだろうか。
たとえ仕事につけたとしてもそれなりに身なりを整えるはずなのにまるで居直ったような恰好をとるのは、この男のバックに何らかの歪な後ろ盾があるのかもしれない。
浩二は思った。
こんな男に何を言っても聞く耳は持たないだろう。かえって、面白がって見せびらかすように幸子にまとわりつくだけだ。
方法はたった一つ、体で教えるしかない。
あの類の男は、いろんな方面で恨みを買っている事が多い。
男から幸子の関心を取り除くには、自分の身の危険を感じさせ、恐怖を植え付けさせるのが手っ取り早い。
浩二はさっそく、その段取りを考えた。




