視線
暗闇の世界に体全体がドップリ浸かったようだ。
上を見上げれば街灯の光が眩しいくらいに輝いている。
街灯の陰に入っただけなのに、世界がまるで違うように感じる。
「この感覚はなんだろう」
浩二は首を傾げた。
突然、刺すような視線を感じた。
その視線の主に恐る恐る目をやると…。
いた。
あの唸り声の正体が分かった。
闇に目が慣れたのか、その正体が眼前に姿を現した。
猫だ。
ただの猫。
「地獄の正体はお前か?」
今まで分からなかったのは、その猫がクロネコで闇に同化していたからだろう。
「人騒がせな猫だ」
浩二はその猫を見下ろした。
猫は寒さのせいか極端に体を丸め、しかも大げさなぐらい体を震わしていた。
そして、鋭い視線は浩二をとらえて離さない。
「しばらく、邪魔するよ」浩二は猫に告げ、シャッターに体を預けた。
浩二は、上目づかいで出入り口を眺めた。相変わらず眩しいぐらいの光を感じる。
光がまるで踊ってるようだ。
猫に視線を移せば相変わらず浩二をにらみ続けている。
震えは前よりひどくなっているように見える。
「そんなに寒いか?」
浩二は、苦笑しながらクロ猫に尋ねた。
ふと、浩二の脳裏にある記憶が蘇った。
自動車事故。猫…。




