デッドオアアライブ
どうも、女子寮の風呂の守護者やってます桶神九十九です。
今、私は人生のハライソで魂の洗濯中です。ご用件はメッセージの後に……
さて、まず此処が何処なのかを説明する必要があるな。俺は温泉の女子風呂に祭られている最中だ。学期毎に行われる全学年合同参加による課外学習という名目の実戦訓練場にある温泉なんだがな。
これは学校全員が参加するから必然的に俺も連れて行かれる。当然だろう、女子生徒の風呂の平穏を司る存在なのだから。一人寂しく寮の風呂場でカッポーンしてろなんて言うなよ、あと物語りの都合上とかじゃあない、俺こそが女子生徒達を痴漢の目から守っているのだ。俺を覗きからの魔除け的な存在として連れて行くのもこの学校の伝統なんだ。
まあ、去年の第一回目は本当に湯気と謎の光以外は使えなくてな、活躍と言うほどのことが出来なかった。その後は悔しさの余りに特訓に励んださ。
何だかって?
此処が露天風呂だからさ。
湯気の量も増えるんだがな、やはり野外というのは男共を奮い立たせるようだ、先生方や上級生の協力が無ければ去年の一学期の時は実力で突破されていた可能性すら考えられる。そうしたら女神の肢体を小童共如きに見られていた可能性すらある。
ある意味実戦訓練で一番己の無力を知り、その不甲斐無さを嘆き努力したのは俺だと思う。血と汗の流れない体だが真剣に取り組んださ。ハライソを侵略しようなどという不届きな小童共を退治するべくな!
まあ、実際に奴等を懲らしめる程に力を付けたのは3学期からなんだがな……
ククク、今回はロリもいる、云わば戦友だ。生死を問わずは此処でも適用されるぜ。見ようと望むのであればそれだけの代償が必要ってのは当然だろ?
フゥッハッハッハ!
しかし、温泉と言うのは良いもんだな、こう開放感が違うよ。裸に変わりは無いだろうって?
チッチッチ、甘いな、氷砂糖に蜂蜜を掛けるよりも甘いぞ。先ず空間的な開放感は言わずもがな、そしてその開放感がもたらす女神たちの心、さらに人工的な魔法の光ではなく自然の月明かりに照らし出される陰影、そして肌が浮かび上がる暗闇と静けさ。これを風呂場と一緒にするなど、アメちゃんのようなもの。
それを同じとは、全く審美眼を疑われるぞ。白濁したお湯の中で一息ついている姿はまさにハライソの天女達だ。そして日毎にその肌は艶やかさを普段以上に増して行く、云わば一日たりともその肌の成長は見逃せない。
全力で湯気と謎の光が活躍するのも至極当然。恐らくはこの湯気と清涼な空気が俺の魔力を更に高めているんだろう。いつもよりも俺のボディも艶やかさが違う。クックク今ならば100万の敵さえ倒せるだろうよ。
そんなアホな事を考えていたからだろうか。事態は急変を迎えることになった。
緊急事態だろう……
突然騒がしくなっていく宿。こういう時に動かない存在として認知されているのは辛いと思っていたのだが、敵がやってきたのはこのハライソの裏手からだった。
魔法の実戦訓練で訪れるこの宿の裏手には広大な森と山脈が控えている。この温泉はその雄大な景色を眺めながら疲れを癒す場所。にも関わらず奴等は土足で上がりこもうとしている。
フッ。舐められたものよ。
俺を誰だと思っていやがる。この女神たちの集う温泉であり憩いの場を守護する桶神九十九だぞ。高がオーガ如きを進入させると思ったか?
否、断じて否である。不逞の輩をこの聖域に踏み込ませるなど言語道断。貴様ら、五体満足で帰れるなどとは思うなよ?
先ずは小手調べだ、食らえ、『ヘルミスト!』
説明しよう、『ヘルミスト』とは通常男子生徒の勇者には使用されない凶悪な魔法の一つである。超高温の蒸気を発生させるだけというシンプルさではあるが、その温度は2000℃を越える。俺の怒りが沸点を越えると更に激化し『プラズマミスト』となる。広範囲殲滅の危険な魔法である為に出番は先ず無い。
「「「ギョォォ」」」
他愛も無い……
そう思っていたのだが、メイジタイプもいるようだ、全身に熱を遮断する幕を張ったのか殲滅には至らなかった。生意気な……
「ちょっとこれはどういうことよ!?」
オマ……タイミングの悪いロリだなあ、このタイミングで来るかよ。あーあれだ、間欠泉?
無理があるな、クソ、致し方が無いが、こいつが居るんなら爆発でドッカーンと吹っ飛ばせよ。
「なんで裏手から更に……」
おい、なんて言った、此処だけじゃないのか。まさかの多方面からの侵略だと言うのか。
「おい、ロリッ子、もう少し詳しく話せ」
「誰がロリッ子よ、それよりもアンタ誰よ」
「そんな事はどうでもいいから説明しろや、緊急事態なんだろうがよ」
仕方が無いから姿を現してやった……
なんていうか、下は褌一丁で浴衣を着流してるからな、その上に桶と手ぬぐいを片手に持っててシュールだがそこは流せよ。
ガシッと詰め寄ったついでに肩を抑えて有無など言わせんぞ。
「え、何よ全く……ま、まあいいわ、正面からオークやゴブリンを引き連れたオーガが迫っているの、私は一応警戒にこっちに来たのよ」
「チッ、単一種族じゃないとか、頭の良い主級かもしくはロード級がいるってことか、キングとかじゃねえ事を祈るしかないな」
「まさか、キングなんて……」
洒落にならんだろうな……
だが聖域でなら俺はキングだろうがロードだろうが負けねーぞ。
「まあ推測だ、こっちは任せろよ、お前は表に行ってろ」
それが効率的だろう……
俺が十二分に力を発揮するにもな。
こうやって防御してるだけじゃ埒が明かない。
「なっ、誰に向かって」
「うっせぇよ、この状況見ても俺が抑えきれないとでも言うのか、それとも表はお前抜きで防げんのかよ。考えろ、何が重要で何を選ぶかだ」
「わ、判ったわ」
よし、良い子だロリっ子。後で褒めてやろう。まあ、根拠とか一切合財無視した勢いの説得に過ぎんがな!
「それとな、もしも“やばく”なったらこっちに全員を避難させてこい、温泉伝説を教えてやるよ」
「ちょ、ちょっと」
「急げって!」
「わ、判ったわよ、全部片付いたら問い詰めてやるんだから!」
ロリっ子は素直に従った……言う事を聞いてはいるけども、ありゃ後が怖いな。走っていったけど……振り向いて壁に激突したのも俺のせいにされそうだわ、睨んでるもんな。
アハ、アハハハハ、まあ仕方が無いよな。くそぉ原因は絶対に殺す、間違いなく表は陽動……ならばこっちに敵の親玉いるんだろうがよ。
ジィィとスパークが飛び散る……フ、フフフ、等々水の分子崩壊までいったかな……
まあ、防御もこれなら関係ないんだが、ッたく聖域を汚したくないってのに。
ハン、生意気にも俺の水蒸気の結界を抜けてくる奴ってか、コイツがボスか。
「グガガ、ナントモ予想外ダナ」
「おい独活の大木、誰に断って聖域へ足を踏み込もうとしてやがる」
「ククク、聖域、此処ガ聖域キカ、ナニヲ馬鹿ナコトッ」
「ハッ、オーガの親玉風情が、此処から先はハライソだ、オーガ如きじゃあ覗き見る事も叶わない女神の場所だ……どうしても通りたいって言うなら、俺を倒さなきゃ無理ってもんだぜ?」
「クカカ、武器モ持たないで粋ガルナヨ人間」
「喋るのも不自由な豚鬼如きが……テメエなんざこの桶一つも必要ねえよ」
秘技、『石鹸コロリン』、からの、『界面活性潤滑剤!』
「ナッ」
説明しよう、『界面活性潤滑剤』とは風呂のお掃除するのに使われる洗剤の成分を利用し、それを大量にぶちまけて転んだ相手が立ち上がる事も許さず、永遠と転がり悶え苦しむ現象を引き起こす。魔法での特殊効果により摩擦係数は零となっている。
「ハッ、豚は這いずり回るもんだろ?」
「グハッ、貴様、グヌ、何者ダ」
ックックック立ち上がれまい、並みの洗剤以上にツルッツルだからな。貴様のその場所は既に摩擦係数が零なのだよ。その場に居る限り一生立てぬわ!
「手前如きに名乗る名前は持ち合わせてねえんだよ、あの世に行って出直してこいや、喰らえよ『或留壱八収束光』」
再び説明しよう、『或留壱八収束光』とは謎の規制(18禁)を担当する光線を収束し、対象の視界を規制するに留まらず、強制的に規制対象物体を排除切断する威力を誇る攻撃である。切断対象は有害なもののみ、その切れ味は斬られた事さえ感じさせない。故に光景も読者に安心を齎すことが出来る。
え?
立ち上がれない敵に向かって必殺技とかお約束じゃないか、誰が態々弱い攻撃をして敵に情けなんて掛けるんですか、切断できる大技あったら使うに決まってるじゃないですかヤダナー。
「タ、タカガ光デェェ」
「高が謎の光されどその規制の力侮りがたし。貴様はもう死んでいる、汚れは洗剤と一緒に吹き飛ばしてやるよ!」
「ナッ、俺ノ俺ノ体ガァァ」
既に上半身と下半身が別々に切り裂かれているとも気が付かずに動くからそうなるんだよ……
汚物はジェット水流で流すに限るな!
プラズマ分解で全て綺麗サッパリだぜ、森の肥やしにでもなってろよ。
しかしだな……こっちは片付けたけどさ……
俺はそれよりもこの後の事の方が心配だ。
勢いです。それだけです。
物語の中の主人公が心配する出来事よりも……
この内容で書き進めてる私が心配です。