【5】
西谷さんは、いなくなった運転手たちの共通点をいろいろと見つけていた。
他県、少なくとも、枕森から車で2時間以上離れた場所の出身であること、未婚で、最高齢が30代半ばまでのわりと若い者、など。
西谷さんと俺は、バス会社に、失踪者と枕森の関係についてなど、思っている事を内々に話した。はっきりした裏付けがなかったとしても、会社としては、やはりこれ以上の失踪者を出すわけにはいかない。西谷さんの人徳もあったのだろう、完全に乗り気、という雰囲気ではなかったが、一応、協力してくれることになった。
該当する者は、なるべく6番路線、枕森前経由を担当させないようにした。
が、いつまでもずっと、6番路線を担当させないというわけにもいかない。
何が違うのか、この条件に当てはまっていても、全く何も変わらずに乗務を続ける者もいる。きっと、他にも何か、見つけきれていない何かがあるのだろう。
枕森前を走るようになった後は、気を付けて見ていると、明らかにおかしくなる者がでる。そうなったら、6番路線の担当から外す。それで、1月もするとだいたい元の状態に戻り、40歳くらいになれば、6番路線を担当しても何も起こらなくなる。
西谷さんは、定年後も嘱託として働き、その間、そうやって他県出身の運転手たちを守り続け、時は流れ、10数年後、退職した。
できればもう、忘れて欲しいと思った。
西谷さんの奥さんは、明るく社交的な人だった。退職後、西谷さんの自宅を訪れたとき、
「これからは、二人で旅行をしたりしようと思っているの」
と、うれしそうに笑っていた。
俺は、後の事を心配する西谷さんに、
「枕森の件は、自分が責任を持って対処していきますから」
と、秘かに告げた。
それから、何人か、おかしくなり掛けたヤツを6番路線からはずし、その甲斐あってか、白咲さんを最後に、失踪する者はいなくなっていた。
営業所に、深沢という新人が入った。
その頃になると、だいたいわかるようになっていた。こいつは「誘われる」と。
案の定、6番路線を担当するようになって日が過ぎると、様子が変わってきた。それとなく話を振るが、
「なんでもありません」
と、口を閉ざす。これも、今までと同じ。
彼らには、何が起こっているのだろう。なぜ、隠す?
とにかく、配車係や営業所長と話し、それまで通り、深沢を6番路線から外した。
深沢は、それまでのヤツラと同じように、その日の担当路線を告げられると、複雑そうな表情を浮かべ、黙々と乗務をこなしていた。
数日は、何事もなく過ぎた。
このまま、数年間、深沢を6番路線から外し続ければ、何事もなく終わる。
ところが。
「しばらく6番路線の担当になっていないんですが、何か訳があるんですか?」
深沢の問いに、配車係は言葉が詰まったように目を見開き、ちらりと俺を見た。
思えば、もっともな疑問だ。ただ、これまでのヤツラは、なぜか、こんな風に真っ向から問い質したりはしなかった。聞くとしても、雑談の中で冗談めいてちらりと話題にしようとするくらい。それなら、誤魔化しが効く。けれど。
騒ぎにはできない。黙らせるしかない。
深沢は、真面目で大人しいタイプ。強く言えば引き下がるだろう。
「なに? 配車に文句とか、ずい分偉くなったじゃねえか」
「別に、文句があるわけじゃありません」
「じゃ、なんだ? 6番になにかご執心か?」
深沢の目が、揺れた。どこか同情的に俺を見て、すっと逸らし、そのまま、配車係へ向き直った。
「特に理由がないのなら、6番路線も担当させてください」
何を。
様子を見るに、絶対に何かが、深沢の身に起こっているはずだ。これまでのヤツラは、その「おかしなこと」が、枕森になんらかの関係がある、と、気付いていたようだった。深沢は、鈍くもなければ、そいつらと比べてもかなり頭がいい部類に入る。気付かないはずはない。
今までのヤツラが6番路線を担当しなくなっても、何も言いださなかったのは、不審に思いながらもほっとしていたからだろう、と読んでいた。こんな風に、あからさまに抵抗されるなんて。
これ以上、だめだと突っぱねるには正当な理由がいる。拒否し続ければ騒ぎになってしまう。他の職員にも疑念を持たれる。
「考慮しよう」
絞り出すような配車係の言葉に、深沢は頭を下げ、営業所を出て行った。




