【3】
丸豪は、元は街道の旅籠だった。
そこから、観光産業で発展し、鉄道会社を設立し、確固たる地位を築いた。
地元に生まれ育った者なら、子供の頃から知っている歴史。
そこには、隠された歴史がある、と、西谷さんは言った。
「旅籠だった時代、丸豪の本当の資金源は、遊郭とは名ばかりの売春宿だったんだ。しかも、遊女たちを一切人扱いせず、虐待したりするような、かなり劣悪な」
正直、その時の俺はその事実がピンとこなかった。
昔なら、戦争もあったし飢饉もあった。居た堪れない事件というのは、どの時代にもあって、ひどい歴史なら、珍しくないのではないか、という感じだった。
だいたい、その事実と、白咲さんたちの失踪と、何の関係があるというのだろう。
俺の不審そうな表情に気付いてか、西谷さんは、重い口を開いた。
「虐待や折檻で死なせたたり、病気になってしまった遊女を、彼らは沼に沈めてしまっていたんだ」
「枕森、の?」
「枕森には、鎮魂のための社が建てられていた。
そんなに大きくはないが、きちんと神社の形式をとっていた。
けれど、都市開発のために取り壊してしまったんだ。
あの周辺一帯を更地にしての大工事だった。
それが、最初の失踪者がでた、少し前」
ぞくり、と、背筋が冷たくなった。いや、けれど、そんな。
「待ってくださいよ、幽霊のせいだとでもいうんですか?」
「なぜ、あんな大きな木が、不自然に残されていると思う?」
嘲笑を含んだ俺の言葉に、西谷さんは毅然と言い返した。
なぜ? 枕森周辺の地図を頭に浮かべた。
枕森は、バス通りと比較的交通量の多い通りに挟まれている。他の区画は、大きなビルが建てられているのに、あの区画だけ、枕森を避けるように、道路沿いに小さな商店が並ぶ形になっている。
確かに、不自然だ。あの場所に木なんかなければ、もっと大きなビルが建てられているはずだし、元々残す予定だったのなら、どうせ更地にして決める段階で、あんな区画のど真ん中ではなく、道路沿いにうまく配置できるように、道路を通せばよかったのではないか。
「当初の計画では、社のあった場所も更地にされるはずだった。
当然、木も切られる予定だったんだ。
道路がある程度整備され、いざ木を切ろう、となったが、できなかった」
「できなかった?」
俺の発した声は、わずかにかすれた。