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【1】

 順を追って、話そうと思う。

 俺は学生時代、荒れていた。地元のヤンキー、というヤツだ。

 ケンカをし、万引きをし、警察の世話にもなった。

 高校を卒業して自動車整備工場に就職したが、数年後につまらない事で先輩と揉めて退社。運転と車くらいしか興味がなく、トラックの運転手になろうとしていたところ、父親に強くバスの運転手を勧められた。

 親父は腰が悪く、重い荷物を運ぶトラック運転手では、年を取ってから働くのがきつくなる、といい、


「バスの運転手? なんか、地味じゃね?」


 と渋る俺に痺れを切らし、必死に伝手を頼って、丸豪グループの傘下、丸豪バスへの就職を決めてきた。

 丸豪、といえば、地元では大企業で、近隣市町村のほぼ全ての企業が、なんらか関連を持っていると言ってもいい。丸豪から支払われた給与は、バスや電車などの利用代金として、丸豪関連スーパーでの日用品の代金として、丸豪の経営するゲームセンターやカラオケ、スポーツクラブなどの遊興費として、再び丸豪へ還元されていく。

 俺の住んでいる地区は、そんな風に、丸豪を経由して循環する経済の流れができている場所だった。


 散々親に苦労を掛けてきた俺は、下端とはいえ、丸豪の名を冠した企業へ就職することでテンションあがりまくりの親戚の手前もあり、親父の意見に反抗することもできず、バスの運転手になった。

 その頃の俺は、年上の男、先生や警察に怒られまくってきたせいで、その年代のやつらが苦手で、どうしても反抗的になってしまっていた。職場に女がいて欲しいというわけではないが、男ばかりのバス会社には、抵抗があった。

 そこで、西谷さんと出会った。

 親父とほぼ同じ年で、営業所内ではちょっと偉い立場で、反抗的な俺の事を、変な目で見ることもなく、優しく接してくれた。はじめは警戒していた俺も、西谷さんとは普通に話せるようになっていった。


 もう一人、白咲しろさきさん、という人も紹介せねばならない。

 俺より少しだけ年上で、少しだけ先に入社した人で、西谷さんと仲が良く、少しだけ、天然なところがあった。俺たちは、何度か西谷さんに飲みにつれて行ってもらったりして、仲良くなった。いじられキャラの白咲さんは、俺が強く構っても、「ひどいなあ」なんて、にこにこと受け流していた。

 事の始まりは、この、白咲さんが突然いなくなった事。

 いなくなる少し前、確かに変だった。

 話しかけてもうわの空で、清潔感のある、さっぱりした人だったのに、身なりに構わず、くたびれてみえた。

 西谷さんも俺も、かなり心配していろいろ聞き出そうとしていたが、曖昧に、なんでもない、というばかりだった。

 そして、いなくなった。

 俺と西谷さんは、白咲さんの行方を方々探したが、何もわからなかった。

住んでいたアパートにも行った。白咲さんは、車で3時間ほどの他県出身の人だったが、その故郷にも行った。けれど、何も。

 ある時を境に、西谷さんは、白咲さんの事を一切話さなくなった。俺が話を振っても、忘れろと言わんばかりに口を閉ざす。

 そんな西谷さんの態度に苛立っていた。

 仲間じゃねえのかよ、と。いなくなったら、はい、オシマイ、ってか。

 俺は、意地になって白咲さんを探し続けた。

 その頃、営業所に古くからいる人たちの間で、よく、「枕森」という単語が使われていた。

 枕森。6番路線が、枕森前のバス停を経由する。白咲さんも担当していた。

 妙に、気になった。あの場所に、あの路線に、何かあるのだろうか。なんとなく、白咲さんとの事に関係がある気がして、ある非番の日、行ってみた。

 バス通りから国道へ抜ける横道へ入り、注意しなければ見落としてしまうような案内を頼りに、細い路地を進んだ。俺が地元出身で、地理に明るかったから見つけ出せたと言っていい。それくらい、ひっそりとしていた。

辿りついた先には、大きな木があった。

 以前は神社があったそうだが、今は、社は取り壊され、巨木と石碑のみが残されていた。

 石碑には、昔、ここに沼があり、口減らしのための子供などが沈められた、その御霊を鎮める、などと記されていた。

 木陰のせいか、昼なお暗く、薄気味の悪い場所だった。一応手を合わせ、その場を後にした。


 と、いう話を、西谷さんにしたところ、盛大に驚かれた。

 驚かれて、その日の夜、食事に付き合わされ、そこで、衝撃的な話を聞いた。

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