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【11】

 西谷さんと、居酒屋へ行った。

 梶宮は、営業所に退職を告げた日、西谷さんの家を訪れたのだそうだ。

 西谷さんは、関わりのないフリで、当たり障りのない話をした、といった。

 その後の事を聞かれ、アパートはまだそのままだが、ちゃんと田舎の実家に帰って、そっちで生活を始めたらしい、と告げた。


「なんで、あいつらなんでしょうね」


「うん?」


「恨みだの祟りだのというのなら、直系のヤツラを狙えばいいでしょうに」


「梶宮君に会って、思ったんだが。いなくなった彼らは、どこか似ているね。

 私も、考えていたんだが」


 周囲で、誰が聞いているかわからないので、丸豪の名を出さずに話すのは、暗黙の了解のようになっていた。

 西谷さんは、俺のコップにビールを足してくれながら、口を開いた。


「聞かれたら、まずいから、じゃないかと思うんだ」


「まずい? 聞かれたら、って、誰に」


「名越君も、今、名を伏せただろう?

 ここは、丸豪の土地だ。どこにでも、関係者はいる。

 一見、全くつながっていないように見えても、妹の嫁ぎ先だの、息子の嫁に来たヤツの同級生が、なにか、関連している会社で働いている、だの」


 頷くと、西谷さんは、声を潜めてさらに続けた。


「昔、遊郭がまだあった頃、逃げようとした遊女は、常連の、仲良くなった男に縋ったんじゃないかと思う。が、その男は、どこかで丸豪と繋がっている。遊女と手を取りあって逃げたとして、残された家族も、もうこの地では生きていけない。

 天秤にかけて、遊女が逃げようとしている、と、密告する者の方が多かっただろう」


 そうか。

 他所から来た、ということは、その者の家族も、生活基盤も、この地以外にある、という事だ。ここで仕事をしていたとして、地元に帰れば知り合いくらいはいるだろう。最悪、食いはぐれなくても済む。

 それに、親兄弟まで巻き込むことはない。地元に根深い繋がりがある男に、家族を見捨ててくれ、というのより、一緒に逃げてくれる可能性が、多少なりとも高くなる。

 枕森に沈められた遊女は、余所から来た男に縋り、逃げたがっている。


「バスに、乗って?」


 ふと脳裏に過った言葉を口にすると、西谷さんは、ゆっくりと頷いた。

 恨みや、祟りではなく。

 怯えているのだ。

 自分が、逃げようとしている事、むしろ、存在している事実すら、知られることを。それほどまでに浸み込んだ、丸豪への恐怖。


「いなくなった運転手たちは、言えないんじゃなく、自分の意志で、話したがらないんじゃないのかと思う。

 自身に何が起ころうとも、言いたがらない男を選んでいるのかもしれない、と」


 彼女たちに対する、わずかな同情心。そこに、付け込まれてしまう。

 それでも、突き放せないほどに、みんな、優しいヤツラだった。


「運転手たちは、どこへ行ってしまったんでしょう」


「わからない。ただ、もう、この世にはいないんじゃないかって気がしているよ。

 いつか、会えたらいいんだが」


 それには同意だった。

 考えても、わからない。ここまで関わったせめてもの対価として、いつか、真相を聞けたらいいが。

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