【9】
違う方から、話してみるか。
今日、休みで、何をしていた、どこに行っていた、と、聞いてみようか。
その問いを口にしようとして、ふと、思いついた場所があった。
「枕森に、行ってきたのか」
梶宮は、ぎくりと目を見開いて俺を見た。まさか、ビンゴか?
「そう、か」
「なぜ、わかったんですか。あの神社に、なにがあるんですか」
「神社?」
神社、だと?
神社があったのは、もう数十年も昔の話だ。失踪事件が、起こり始まる前の。
以前訪れた枕森の景色を思い出した。
大きな木と、石碑だけがあった。あの場所を見て、神社だなんて思うわけがない。あの時以降、なにか変った工事があった? いや、ほぼ毎日のように辿るルート、しかも枕森に何かがあれば、気付かないはずはない。
梶宮が不審そうに俺を見ている。
「梶宮、お前、明日は?」
「え、えっと、中番です」
中番か。梶宮が出勤してくる前に、配車係に話を通すことができればいいが。
今の営業所長は、当てにならない。どちらにしても、西谷さんに話しておこう。
まだ、人通りがある時間、帰すのなら早い方がいい。
「今日はもう、帰った方がいい。
さっき歩いてきた道を、戻るんじゃなく、線路沿いの道をさらに先に歩けば駅がある。
一本道だから、すぐにわかるはずだ。そっちの方が早い」
早口で告げると、きょとんとして、けれど、逆らうでもなく、不思議そうに席を立ってアパートを出て行った。
バタン、と、閉められたドアを数秒見て、ケータイを手に取り、窓際に戻って外を見た。
俺の言った通り、梶宮が歩いていく。
西谷さんに、話さなければいけない。この前、深沢がいなくなったばかりなのに。その時だって、ずい分気に病んでいた。
躊躇って、ケータイのディスプレイに西谷さんの名前を表示したまましばらくまって、通話のボタンを押した。
西谷さんに促されるまま、ここまでの事を話した。
「梶宮君は、枕森を神社だ、と言ったんだね?」
「はい」
「他に、何か変わった話は?」
「いえ、うまく聞き出せなくて」
何かが、あるはずだ。
身の回りの変調、そしてそれが、枕森とつながっていると予感させる何か。
非番の日に、わざわざ訪れようとするほどの。
「明日からも、気を付けて様子を見ます」
「そうだな、私の方から、配車係には直接電話しておこう。緊急事態だと」
はい、と、応えようとしたとき、アパートのドアが叩かれた。
軽いノックなんてもんじゃない。叩き壊さんばかりに、思いきり、何度も。
「名越君? どうした?」
電話の向こうにも聞こえていたのだろう、西谷さんの緊迫した声に、また後でかけます、とだけ言って、通話を切り、ドアを開けた。
その向こうには、恐怖に引きつった梶宮の顔があった。
目を見開き、髪はじっとりと汗に濡れ、走ってきたのか、は、は、と、呼吸を荒くして、がくがくと震えて立っていた。
唖然としてしまった。目の前の光景に思考がついていく前に、梶宮は崩れ落ちるようにしゃがみこみ、声をあげて泣き出した。