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第十一夜 情報交換

 〈絶影〉の本部、総司令室へ僕らが全員収まると、桂さんはほっとしたような表情を見せた。

「良かった、全員無事のようだね」

「ええ、援軍感謝します。桂さん」

 僕と蕾が頭を下げると、彼はいやいやと手を振って言う。

「逆に間に合ってよかった。こんなに異常な事態だとは思ってもいなかったからね」

「異常な事態……?」

「ああ……と」

 そこで桂さんは僕の服の裾を掴んで少し落ち着かなさそうにしている媛奈に目をつけ、顎髭を扱いていたが一つ頷いて視線を向ける。

「そう言えば、この〈絶影〉の人間達に出会うのは初めてだったね。媛奈さん。紹介していこうか」

「大体は聞きましたが……」

「ふむ? そうか、では……」

 桂さんは視線を〈絶影〉のメンバーに向けると、顎に手をやってそして一つ頷く。

「報告を聞こう。まずは、美夜」

「はい、殿下」

 美夜先輩は真摯な顔で一礼すると、その場で報告をすらすらと述べる。

「今回、野和媛奈さんの護衛に当たっていた木戸霧人、蕾両名の援護に駆けつけ、五名の〈影〉と交戦致しました。結果、二名を撃退しましたが、三名に不覚を取られ、負傷。一時退いて媛奈さんを護衛していた霧人、途中で合流した蕾と合力して敵と当たりましたが、結果、捕らえるには至りませんでした」

「撃退には成功したようだな。ふむ、それで霧人くん」

 桂さんの視線がこちらに向いたので、反射的に背筋を正して返事をする。

「はいっ」

「媛奈さんが友人と共に遊びに行った事は確認した。別にそれを責める訳ではないが、状況の確認をしておきたい。施設内で何があった? 敵と当たったときの感想は?」

「施設内で起きたこと、ですか」

 僕はちらりと蕾と媛奈に視線をやる。媛奈はわずかに申し訳なさそうに俯き、蕾は右腕を背中に押し隠すようにして僕を見返した。

 僕は一つ頷くと、思い出せる限りを発言していく。

「とりあえず、尾行が多かったです。ナンパが大半でしたが、その中に〈影〉が混じっていたと推定されます。その聞き出した情報から蕾をアナウンスで呼び出し、媛奈から引きはがし、停電に陥らせてから襲撃してきました。媛奈の友人がトイレに行っていた関係でトイレでの交戦になりましたが……」

「それで、結果的に撃退したと」

「はい、相手は〈紅影〉第一部隊長の紅薔薇と名乗っていました」

「……〈紅影〉と、確かに名乗ったのだね?」

 わずかに桂さんは目を見開いて言う。僕がこくりと頷くと、桂さんは顔にわずかな影を落として頷き返して続きを促した。

「彼は恐らく〈影絶ち〉の力を持っています。武器は鎌でした。ですが、その鎌は巨大化することも可能だった様子で……」

「天井をぶち抜いて逃げられた、と……。どうも変だな」

 桂さんは顎に手を当てて唸る。そして視線を今度は大森さんに向けた。

「現場は? 処理班は?」

「回収業者がどうにかすると請け負ってくれました」

 大森さんはハンカチでまだ噴き出ている汗を拭いながら言う。少し松江さんが呆れたようにハンドタオルを取りだして彼に握らせる。

 そんな中、竹千代が小さな声を上げた。

「疑問」

「ん、どうぞ」

 少し桂さんは驚いた様子で言う。当たり前だ、竹千代は滅多に発言しないのだから。

 竹千代は無表情で淡々と言葉を連ねる。

「紅薔薇……とかいうもの……一人で、逃げた。他の、仲間は?」

「……大森さん?」

「〈分身〉は見つけていませんでした。逃げられたか、もしくは……」

「回収されたか、ですね」

 松江さんはせっせと大森さんの汗を拭いながら言う。桂さんは少ししかめっ面をして頭を振った。

「これは難解そうだ……いずれにせよ、みんな、お疲れ様だった。解散する前に、こっちの報告を聞いて貰いたい。こっちは乙姫さんに関してのだ。彼女もまた、〈紅影〉に襲われている」

「お、お母さんっ……!?」

「大丈夫だ。問題はない。護衛が命を賭して護ってくれた」

 桂さんが面を和らげて言う。それにほっと安堵の息をつく媛奈。だが、媛奈以外の全員がその言葉の裏の意味を悟って、大森さんに至っては苦々しい表情を浮かべていた。

 つまりは、護衛は死んでしまったのだ。

 だが、媛奈を心配させないためか桂さんは資料を捲りながら言う。

「その護衛が言う事にはだな、〈紅〉という旗印を掲げた〈影〉達が強襲してきたらしい。劉がここまで乙姫さんを連れてきてくれてその知らせを運んできてくれた……資料を回してくれ」

 桂さんが資料を突き出して言うと、大森さんが頷いて手を右に突き出した。蛍光灯から投げかけられる光が、その手の影を床に落とす。そこから突然、ぬるりと一人の黒ずくめの男が出て来た。

 それを見てびくりと肩を跳ねさせる媛奈。それを見て少し桂さんは苦笑した。

「そう言えば、大森さんと媛奈さんは初対面じゃなかったんだね」

「え……?」

「ほら、エレベータの」

 僕がそう言っている間にその出て来た〈影分身〉は桂さんから資料を受け取って配り始めている。ああ、と媛奈は僕の陰に隠れながら頷いた。その目はちらりと怯えが走った気がした。

「大丈夫だよ、媛奈。この人達は力の使い方を心得ている。この前のだって、桂さんの命令でそういうことをした訳であるし」

「わ、分かっているけど……きゃっ!?」

 そのとき、横合いからぬっと〈影分身〉が顔を突き出してきて媛奈は大いに飛び上がった。僕の腕に抱きついてきてたゆんとそのマシュマロのような感触が伝わってくる。

「霧兄ぃ、顔真っ赤」

「霧人くんって初なのねぇ」

 蕾の指摘と松江さんの茶化すような声に僕はそっぽを向くと、〈影分身〉は僕に資料を差し出しながらサムズアップして見せた。

「やかましいわ」

 憂さ晴らしと言わんばかりにその頭を叩いてやると、〈影分身〉はぺこぺこと僕に頭を下げた後、媛奈に向き合った。

「う……」

 びく、と媛奈は怯えたように僕に隠れ、ますます強く僕の腕に抱きついてくる。

 だが、〈影分身〉は人差し指を突き出して三度振ると、指を弾いてその手の中から薔薇の花をマジックのように取りだして見せた。

「え……あ……?」

 思わず戸惑う媛奈に、僕は苦笑しながら〈影分身〉の手から薔薇を抜き取って言う。触れてみて分かるが、どうやらよく出来た造花らしい。

「お詫びの印なんかだと考えれば良いから……ほら」

 僕は彼女の亜麻色の髪にそっと挿すと、彼女は紅い瞳を見開いてそれに触れる。うん、と一つ僕は頷くと笑いかけて言った。

「よく似合っているよ。綺麗だ」

「き、綺麗……そ、そう……?」

 少しわたわたとして媛奈は僕から離れて髪の毛を撫でつけている。大森さんが遠くからぐっとサムズアップして見せてくるので、僕もこっそりサムズアップを返して見せた。

 それから渡されたレジメを見ると、そこには粗い画像が添付されて解説の文章が幾つか並んだ文章であった。

 どうやら、〈紅影〉は〈影〉が手を結んだ団体で、野和家を虎視眈々と狙っているらしい。能力は確認されただけで〈影絶ち〉や〈影滑り〉など……。

 それを一読して、思わず怪訝な顔で蕾の方を見た。彼女も少し不審そうな表情で僕に視線を向けていた。考えている事は互いに分かる。

「もしかして、媛奈の能力って凄まじい……?」

「じゃなきゃ、手を結ぶ理由がない……」

「え、どゆこと……?」

 媛奈が少し近づいてきて僕のレジメを覗き込んでくる。わずかに頬が赤らんでいて少し可愛らしい。

 僕は補足として媛奈にも分かるように説明する。

「連中、〈影〉達は実力をつけるには二つの手段があるんだ。一つは純粋に力を鍛えること……そしてもう一つが、他の〈影〉を喰う事」

「……他の〈影〉を、喰う?」

 媛奈は戸惑ったような声を上げる。蕾が一つ頷いてさらに補足する。

「そのまま。相手の操る影の能力を真っ向から打ち勝つと、その影を吸収する事が出来る。そして、喰われた方は……〈影戻しの儀〉を受けないと数日中に死んでしまう」

 媛奈がその説明にぞっとしたような表情を浮かべる。僕はその頭を撫でながらちらりと桂さんの方へ視線を向ける。桂さんは少し難しそうな顔をしていたが、僕の視線に気付くと微笑みかけてきた。

「心配しなくて良い。ここにいる〈絶影〉の部隊は優秀な人間ばかりだ。乙姫さんと媛奈さん、二人ともしっかり護衛しよう。神無月が終わるまでの辛抱だ」

「まぁ、今日から秋休みですし……いざとなれば、〈絶影〉に籠城って手もありますからね」

 僕が頬を掻きながら言うと、うむ、と桂さんは賛同するように頷く。媛奈は少し顔は強ばっていたが、わずかに安心したような微笑みを浮かべていた。

 だが、同時に桂さんの言葉には少々の嘘が混じっているのを感じていた。

 確かに、〈絶影〉には優秀な人材が存在する。大森さんや松江さん、美夜先輩達が良い例だ。しかし、竹千代や僕、蕾はまだ発展途上の面もある。さらに……乙姫さんの護衛で散っていった戦士達。僕はレジメに書き込まれた文字に視線を落としながら嘆息する。

 劉さんを始めとしたその人達はここのエースだったのだ。それが容易く破れてしまう。これは……正直、見通しは暗いかも知れない。

「……霧人……?」

 僕の顔を覗き込んで、媛奈が心配そうな声を上げる。

 少し考え込みすぎたか。

 僕は顔を上げて笑みを見せると、その頭を乱暴に撫でた。

「何にせよ、僕が(タマ)張って護るよ。絶対に」

「……うん、信じている」

 媛奈は少し安心した顔で僕にそっと身体を寄りかからせる。


 絶対の信頼、か。

 必ず、守り抜かなくては、な……。

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