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ザ・チューニーズ   作者: 野川太郎
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第八章

俺は自分の家のソファに横になり、テレビを見ていた。

 家には俺しかいない。くそでつまらない存在であった両親は死んでしまい、今は俺一人だけだ。しかし、金だけはたんまり貯めていたおかげで生活に苦労はしていない。

 両親がいなくてさびしい・・・・なんてこれっぽっちも思っていない。死んでくれてよかったと心の底から思っている。あのくそ共は能力者で超能力主義者でもあった。当時、能力の無かった俺は人として認めてもらえなかった。失敗作、駄作、欠陥品と散々ののしられた。おかげでこの性格になったわけだ。

 ま、今となってはいい思い出なのかもしれない。彼らは絶対的なものである『死』を手にしてしまったつまらない存在になってしまったのだから。

 人の死ほどつまらないものは無い。倉田のように生と死の狭間の微妙な精神状態こそ人間のあるべき姿だ。その点では両親はもっともつまらない存在となったわけだ。

 死んだら天国にいけるという考えは俺にはない。『天国』とは死を恐れている小市民が現実逃避に思いついた偶像なのだ。死んだらそれでおしまい。それが真実だ。

 ま、俺はそう簡単には死なないけどな。

 テレビのチャンネルを変えていると、超能力関連を放送している番組を見つけたので、それを見ることにした。

 今話題になっているのは超能力者に対する銃による発砲許可の是非である。アメリカでは犯罪者に対する銃の発砲は当たり前であるが、日本ではそうかいかない。しかし、増え続ける超能力犯罪に太刀打ちできない国家権力者たちは銃規制を変えようとしているのだ。もちろん、能力者のみを発砲の対象としているが。それが国会で可決されるかどうか。それが今の日本の最大の話題である。当然、反対運動が各都道府県で起こっているが、デモを起こしているのはほとんどが能力者たちだ。しかも、人に害を犯さない倉田のような能力者も多数存在する。

 ま、世界の傍観者であるこの俺にとってどうでもいいことであるが。

 拳銃ごときでこの俺を殺せるはずがないからだ。

「さあ、どうなるかな。日本の選択を見せてもらおうじゃないか」

 時計を見ると、夜の八時を過ぎていた。

 後一時間で待ち合わせ時間か。もうどうでもいいことだ。斉藤は俺を必要じゃないといったのだ。この俺がじきじきに行く必要はない。

「能力者は歩く武器なんですよ」

 テレビの討論番組で、反超能力主義で有名な女タレントが熱く語っている。

「拳銃は正当化されるべきです。能力者は武器を持っているんですよ。警官も武器を使わないとこの日本は本当に消滅しますよ」

 消滅か。それもおもしろいかもな。

「能力者にもいろいろいます。怪我を治したり、体中が光るだけの者も。そうした人たちも対象になってしまう。私は発砲には反対です」

 今度は天才外科医で有名なお医者様が発言している。

「あなたは今の社会を見ているんですか?警察の方たちがどれだけ亡くなられているか。怪力、念力などの能力者たちによって無抵抗のまま殺されているんですよ。もう、武器を使うしかありませんか」

 白熱した討論だな。ま、そんなことを言ったって答えなどで無いくせにさ。

 討論番組の一番嫌なところだ。答えが出せないことだ。エゴイストたちのでしゃばり場と化してしまう愚かな番組だ。これでは何も解決しない。視聴率さえ取れればそれでいい。それがテレビか。

 俺はリモコンでテレビの電源を切った。

 この世界は腐っている。人間も超能力者も。力のない者。力をコントロールできない者。力に溺れる者。これが人という種の限界なのかもしれない。

 しかし、俺は違う。俺はそんな限界をも超越する存在だ。

 だが、今の俺は退屈でしょうがない。今の趣味といえば人の負の感情を吸収し、力を増すことだけだ。他にやることはないし、自分の家にいたって周辺の世帯たちの負の感情を感じる。それは単に怒りや憎しみ、悲しみや苦しみといったものだけであり、どうしてそのような感情を発しているかという根本的内面を見ることができない。それが今の俺の限界・・・・・そんなことあってたまるか!

 そうだ。俺はこれからも進化し続けなければならない。超越はさらなる超越を促し、それは無限へと続く。そう、この俺握間太郎こそ絶対超越の象徴。そして、無限の神。神は絶対的存在でなければならない。そうとも、人類を超えている俺にはその資格があり、この俺だけの究極の特権なのだ。

 俺は部屋を離れ、靴を履き、鍵もかけずに外に出た。

 俺は英雄ではない。しかし、悪でもない。俺はその概念を超越した存在だ。俺は行かなければならない。強姦魔の所へ。人を救うためではなく、悪を倒すためでもなく、この俺自身がさらなる絶対進化を遂げるために。

 斉藤たちがどうなろうとどうだっていい。

 俺は自分のために生きる。他人など所詮は俺のエネルギー要員にしかすぎない。最低と言われようがそれが俺であり、俺の究極のエゴそのものなのだ。

 俺は猛スピードで夜道を走った。俺の家からかなり遠くにある精神病院の森。しかし、今の俺なら乗り物に頼ることはない。

 なぜなら、周りが負の感情でいっぱいだからである。

 何が幸せだ。何が家族だ青春だ。

 人生は負の感情で満ち溢れている。俺が今こうして存在していることこそその証拠だ。人は決して幸せにはなれない。この俺という存在が言うのだから間違いない。

 もし、本当の幸せがあるとするなら、俺のように人類を超えた存在か、そうとうの勘違いのどちらかだ。

 さあ、強姦魔たちよ。待っていろ。この偉大なる俺がお前たちの負の感情を堪能しにいく。そして、さらなる進化を俺は遂げる。負の感情は無限の可能性を秘めている。なら、それは俺も同じだ。

 超えてやる。自分自身を。そして、超えた自分をさらに超え、それをひたすらに続ける。これが俺の道だ。

 俺の真実であり、絶対であり、俺の存在意義だ。

 コンクリート道路をただひたすら走り続けた。

 まだ先に、俺のフィールドである精神病院がある。

 負の感情を吸収していてもスピードには限界があった。質の悪い負の感情や周囲に人が少なくなっていることもあり、スピードは次第に低速し、人間並みのペースになってしまった。

 くそ、こんな時にエネルギー不足になるなんて。

 気がつけば、民家がどこにもなくなっていた。これでは負の感情が吸収できず、力が発揮できない。

 そして、ついに体力も人間並みに戻ってしまい、俺は久しぶりに『疲労』というものを体で感じ取った。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 この俺が疲労している。

 この時、初めて自分の弱点を実感した。

 周囲に人がいなければ、ただの旧人類と同じであると。これはショックを通り越し、絶望に近い状態に俺の精神は壊れていく。

 この俺が・・・・この俺がこんなことで息が上がるとは。

 負の感情が足りない。どこかで補給しなければ。

 旧人類と化した俺はよたよたと歩きながら、負の感情のたまり場である精神病院まで歩き続けた。

 すると、次第に体力が回復していった。

 感じるぞ。負の感情を。精神病院はもうすぐだ。

 やはり、この俺はこうでなくては。

 疲労はなくなり、全身に力がみなぎってきた。人の不幸をエネルギーに変える力。これが俺の才能、力、存在。小市民が知ったら、この俺を軽蔑するだろう。

 人の不幸を生きがいにする俺。最低?いや、最高だ。人の不幸を喜ぶことは罪ではない。そう、罪ではないのだ。

 精神病院に到着した俺は周囲の負の感情を慎重に感じ取った。

 いるぞ、森の中に。悪意に満ちた感情が三つ。・・・・あっちか。

 俺は森の奥深くに入っていく。数多くの木を避けながら、最高スピードで走っていく。 

 負の感情がどんどん高まっていく。濃度が濃くなっているといってもいい。今までに無い歪んだ感情。倉田とはまた違うよさがある。

 これだ。俺はこれを望んでいたんだ。まさに悪意の結晶。純度の高い悪意を。

 いる。強姦魔は間違いなく存在する。もうすぐだ。もうすぐ会える。

 狂った愚民たちに。

 俺は悪意を感じる方向にただひだすら進んでいくと、何人かの人間たちがいるのを肉眼で確認できた。

 すると、負の感情が急に高まり、大地に振動が起こった。俺は走るのを止め、何が起こっているのかを判断しようとした。

 すると、地面から何かが出てくるのを感じた俺はその場を離れようとしたが、すでに遅く、木の根っこのようなものが土から出てきたのであった。そして、その根っこは俺の足に絡みつき始めた。

 能力者か。

 負の感情を吸収し、筋力が強化している俺はその根っこを無理やり引きちぎり、能力者がいると思われる場所に向かった。しかし、『森林』たちが根っこや枝を動かし、俺の行く手を阻もうとしている。まるで、意思を持っているようであった。

「植物の分際でこの俺を止められるわけがねーだろうが」

 植物の枝が伸び、俺の両腕両足に絡んできた。

「邪魔だ。何の役にも立たない葉っぱの分際で」

 全身から黒い煙が出てきた。怒りに満ち溢れたりすると、自然と全身から出てくるのだ。しかし、植物に感情はないのでダークバーニングは通じない。力でねじ伏せるしかない。

 俺は力いっぱい両腕を振り下ろし、枝をもぎ取った。両足も同様に。しかし、邪魔をするのは森林ばかりではない。地面に生えている草花たちも急激に成長し、俺の身長以上に伸び始めた。

 これでは視界が見えない。精神病院近くの街灯くらいしか光が無いため、余計に視界が悪い。夜遅いことも原因の一つだ。

 能力者は植物を自在に操る力を持っている。つまり、この俺はそんなフィールドにやってきてしまったわけだ。

 結構じゃないか。森を一つ破壊したってもお前たちの所にたどり着いてみせる。


 数分して、周囲の大木を切断しまくった結果、あたり一面が大木のゴミと化していた。しかし、根っこが生きているのでそのまま俺の所に絡み続けてきたが、俺はそれを無視してそのまま高くジャンプした。

 空を飛べば、土に依存している植物など敵ではない。しかし、鳥のように安定飛行はできないため、すぐに落下してしまうが、何回かのジャンプで目的地に行くことができる。

 さすがは俺だ。何十メートル高く飛んでいるのに恐怖すらしない。凡人ならそのまま落下して死亡するが、負の感情を吸収している俺はその程度のことでは死なない。

 その後、うごめく大木に落下しながらもジャンプを繰り返し、負の感情が溜まっている所に落下した。

「何者だ?」

 すると、変声期のような低い子供の声が聞こえた。

「握間(悪魔)降臨」

 辺りを見渡すと、森の中に大きなコンテナがあり、その近くに何人かの男女が大木の根っこや伸びた枝に巻きつけられ、身動きが取れなくなっている。

「握間君」

 斉藤の声だ。

「この少年が強姦魔よ」

・・・・何?このガキが。中学生くらいにしか見えないが。まさか・・・・こんなやつが強姦魔だというのか。世も腐ったものだ。

 待て、覆面を被っていると聞いが・・・・

「てめぇか。俺のフィールドを荒らしてくれたのは」

「荒らしていない。伐採していただけだ」

「おい、こいつ。あの握間ってやつじゃねーのか。超通信で言ってた」

 よーく見ると、中学生くらいの旧人類が3人、平和同好会メンバーと知らない男女がいる。

「関係ねーよ。俺たちはレイパーズだぜ。女を犯すために生きてるんだからさ」

 彼らは最低なのではない。低俗なのだ。愚民を下回る存在だ。

 しかし、非常の濃度の濃い悪意を感じる。三人からの負の感情。中学生がレイプ犯。腐っている。しかし、俺にさらなる進化を与えてくれそうだ。力がみなぎっている。新たな力を手に入れそうなほどに。

「覆面はどうした?」

「そんなもん必要ねーんだよ。警察は能力者相手の犯罪に手出しできねーからな」

 日本の警察もなめられたものだ。ま、どうだっていいことだけれど。

 俺は周辺の異常さや日本の狂いように笑ってしまった。

「何笑ってんだよ」

 俺の体に植物が再びまとわり付いてきた。

「・・・・ふふふふ」

「何笑ってやがる」

 力がみなぎってきている。やつらの狂った悪意が俺を更なる進化へと導いている。俺は進化する。自分自身を超越しているのだ。

 こんなにうれしいことはない。ああ俺はなんて幸せなんだ。新たな力が俺を導いてくれる。力は俺で俺は力。一心同体であり、俺の究極のアイデンティティだ。

「握間ってやつは任せたぜ。俺は女をいただくからさ。ちゃんと照らして撮っておけよ」

「ああ」

 植物を操るやつと、全身を光らせ、ビデオカメラを持っているやつ。女を襲おうとしているやつの能力は分からないが負の感情の塊のようなやつだ。

「握間君。早く助けてよ」

 斉藤がこの俺に助けを求めている。

 斉藤のことなどどうでもいい。今はこの純度の高い負の感情を吸収したい。

 植物が俺の首に根っこを巻きつけてきたが、ちっとも苦しくは無かった。今の俺は限りなく強大で偉大で最強な存在。その程度の物理攻撃で傷つくことは無い。

 植物は次第に俺の体全身を覆いつくそうとしている。俺は負の感情の吸収に力を注ぎたかったので何の抵抗もしなかった。

「握間君」

 斉藤が叫び続けている。

 このままでは斉藤や見知らぬ女が襲われる。非常にどうでもいいことだ。

 もう少しで新たな力が手に入る。暗黒面が俺にそう訴えかけているようだった。いや、訴えている。超越しろと。

 植物は俺を繭のように覆いつくし、俺の視界がさえぎられてしまった。

 しかし・・・・しかし、感じる。人の悪意を。今までは感じるだけであったが今の俺は負の感情の塊のようなものを手に取るような感覚に陥っている。こんな感覚は初めてだ。人の悪意は俺に無限の力を与えてくれる。これが俺の力。俺の暗黒の力。そして、俺の絶対超越の力。感じるぞ。俺は手に入れることができるんだ。人の負の感情を。吸収ではなく・・・・『掴む』ことができる。

 俺は全身に力をこめ、この俺に堂々と絡み付いている木の根っこや枝を一瞬で引きちぎった。それを見た周りにいる小市民たちはこの偉大なる俺の光景に驚嘆している。

「おい、やべぇんじゃねーの?」

 レイプ馬鹿三人組が怯えている。

「俺のフィールドだぁ」

 植物を操る能力者が叫んでいる。

「君たち愚民のおかげで俺は更なる進化を遂げることができた」

 俺は笑顔で言った。

「ふざけるなぁ」

 俺は右手を少年たちに向け、ダークバーニングを放った。すると、まるでジェット噴射のような威力を感じた。ダークバーニングの威力が上がっていてかつ、濃度が濃くなったかのようにどす黒い。

 黒き炎は植物を操る少年に命中し、少年の全身に黒い炎が燃え上がっている。

「やめろぉ」

 少年は絶望だけではなく、恐怖や悲しみなどあらゆる負の感情に苦しめられている。非常にすばらしいことだ。俺のダークバーニングが進化したのだ。

「やべぇ、逃げろ」

 発光している少年は能力を解除してカメラを持ちながら逃げようとしていた。

 俺は、今度はそいつに右手をかざした。すると、右手が何かを掴んでいる感覚に襲われた。俺は右手のこぶしを握り締めると、発光少年の動きが急に止まった。

「体がうごかねぇ」

 そうか、これが念動力の感覚なのか。サイコキネシス・・・いや、負の感情の塊である人間を自在に操作する。『ダークキネシス』と命名しよう。

 俺は右手を引くと、発光少年の体も引きずられるようにこちらに向かって動いてきた。

 物理的威力が増し、精神崩壊力を増したダークバーニング。そして、不の塊である人を自在にコントロールできるダークキネシス。俺はまた進化を果たしたのだ。

 女を犯そうとしていたやつは空を飛び、その場を去っていった。飛行能力者だ。

 まあ、いい。今は自分の能力を弄びたい気分でいっぱいだ。ほおって置くさ。

「てめぇ、念動力か?」

「そうだ。発光少年」

「ふざけやがって」

「物理的にやられたいか、あそこでくたばっているやつみたいに精神崩壊したいかどうする?」

 俺はダークキネシスで発光少年の動きを止めながら言った。

「・・・・・・」

 感じるぞ。少年の恐怖が。その恐怖が俺に更なる力を与えてくれる。俺を幸せにしてくれる。これが進化だ。

「警察に行きましょう」

 斉藤が植物に絡まれ、身動きが取れない状態で叫んだ。

「そうだな。犯罪者は豚箱行きか」

 目撃者もいることだし、こいつらの犯罪は立証できるか。それに植物やろうは精神破壊で能力を使うことはできないだろう。こいつだってただ発光するだけか。

「分かったよ。斉藤。今回はお前の言うとおりにするさ」

 平和同好会の三人は俺が賛成するとは思っていなかったのか、きょとんとしている。

「しかしだ。発光少年。どうしてこんな所で強姦ごっこをしようと思ったんだ」

 念動力で少年を抑えたまま聞いてみた。

「近くにあるコンテナでよくカップルが交わってるって聞いたんだよ。この森は人気もないし、あそこにいる二人は町では有名なカップルだからな。ターゲットには最高だったんだよ。能力者でもないからな」

 交わるって・・・・想像するだけで気色悪いな。吐き気がしてきた。

「今までの強姦事件もお前たちか?」

「ああ、そうさ。すごいだろう。地元の新聞の一覧にも載ったんだからな。警察は能力者と聞いただけで犯人探しはしなかったからな。これがレイパーズの力さ」

「それも今日でおしまいだな。性欲の塊君。さあ、警察に行こうか。君の能力じゃさすがの警察だって怖がったりはしないさ」

「くそぉ」

 俺に対する憎しみが増している。実に結構なことだ。すべて、俺のエネルギーになるのだから。

「握間君。その前に私たちを助けてくれないかな?」

 木の根っこに絡まれている斉藤たちの存在をすっかり忘れていた。

 そうだったな。

 俺はダークキネシスで発光少年を木に激突させ、気絶させた後、斉藤から順に木の根っこをもぎ取っていった。

「あなたが来るとは思わなかった」

 斉藤が今日のことを少し気にしているようであった。俺はまったく気にしてはいないが。

「暇だからな。それより、この二人を警察に連れて行くぞ」

「そうね」

 この俺は気絶している二人を抱えて、皆で警察署へと向かった。


 超通信者が町中に俺たちのことを広めたため、次の日には学校中で話題になり、俺に対する見方が変わったようだった。

 倉田の話では、超通信者は、この俺のことを、強姦魔たちを捕まえた英雄として称えていたらしい。ある時はけなし、またある時は称えたりする。本当に勝手な能力者だ。

 しかし、最後の一人は飛行能力で逃亡中だ。しかし、犯人の非行少年の身元はわれており、見つかるのも時間の問題のようだった。しかし、特殊能力を使った犯罪は能力を持たない小市民たちをさらに恐怖させる結果にもつながっている。

 テレビで強姦魔が捕まったニュースが流れ、捕まったのが能力を持った中学一年生であったことが話題となり、被害を受けた女性たちのことは一切触れていなかった。

 俺は人類を超えた存在なので、見知らぬ人間に体を奪われた女性の心理状態はまったく理解できないが、斉藤が報道内容に文句をつけていたことからすると、そうとう辛いことであることが分かる。

 ただ、一つだけ言えることがある。俺は英雄ではないということだ。

 学校の人間たちは俺に対して賛否が分かれていた。英雄というものと悪人と考えるもの。しかし、俺はそのどちらでもない。

 悪人を倒すのが正義であったとしても悪はまた出てくる。そして、正義が悪を倒す。正義と悪は切っても切れない縁なのだ。

 では、なぜこの俺が正義と悪について考えているかというと平和同好会の斉藤から言われた一言であった。

「今週の土曜日にピースネットワークっていう会合があるから参加してね」

「何だ。それは?」

「私たちのように高校の生徒たちで結成された正義の味方たちの集まりが月に一度あってね。握間君に参加してほしいのよ」

正義の味方の会合・・・・・なんてくだらないんだ。よし、即答だ。

「断る」

 決まった!

「どうしてよ?」

「面倒だからに決まってるだろーが。それに俺は正義の味方じゃない。英雄ごっこならお前たちだけでやれよ」

「私だって好きであなたを誘ってるわけじゃないのよ。ピースネットワークの仲間が一度握間君に会ってみたいって言うから・・・」

「そうか、俺がいかにすばらしい存在か知りたいというわけか」

 これこそ、究極の自画自賛であり、上位者である俺のみに許された特権なのだ。

「いや・・・そういう・・・わけではないけど・・・・」

「じゃあ、何が知りたいんだ」

「君が善人か悪人かってことよ」

「何ぃ?」

 人間は善か悪かで物事を進めたがる。その程度の価値観の集団か。それでは世界平和は無理だな。善悪を超越した考えができなければ。

「じゃあ、行こうじゃないか」

「・・・え!」

「判断してもらおうじゃないか。そのピースネットワークっていう愚かな集団に」


 次の日の放課後、俺は集合場所である平和同好会の部室に倉田まで来ているとは思わなかった。

「お前も呼ばれたのか?倉田」

「う・・うん」

 ま、ホームレスを救っている女神だからな。英雄という名のちっぽけな価値観に当てはまってしまったのだろう。実に哀れなことだ。俺の能力が教えてくれている。倉田は恐怖している。対人関係が苦手な倉田には今日の会合は緊張するのだろう。

 俺がドアを開けると、いつもの役立たず三人組がパイプ椅子に座っていた。

「あ、来た来た」

 斉藤は笑顔で俺たちを迎えた。

「まあ、座ってよ」

 もちろん、パイプ椅子は四つしかないので俺は座れなかった。

「後少しで案内人が来るからそれまで待ってましょ」

 斉藤の話によると、瞬間移動の能力を持った能力者が俺たちをある場所に連れて行くらしい。場所は斉藤たちも知らないらしい。

 何だか秘密結社みたいだな。怖い怖い。

 数分後、斉藤が誘導し、部室の外に出た。すると、辺りが光で満ち溢れ、一人の背の低い少年が現れた。

「久しぶりだね。斉藤さんたち」

「お久しぶり」

 斉藤、川島、鹿沼の三人は同時に挨拶を交わした。

「・・・・お前、あの時のテレポーターか?」

 書店でこの偉大なる俺を殺そうと浅はかなことを考えていたやつだった。

「何のことだい?」

 背の低い少年は笑みを浮かべながら俺に言った。

「書店でこの俺を殺そうとしていただろうが!」

 しかし、この少年からはあの時に感じた殺意や憎しみといった負の感情を感じない。と、いうより別人の感情を感じる。これは一体どういうことだ。

「やっぱり、この町に来てたんだね。あいつが」

「あいつってまさか・・・・国山君のこと?」

 斉藤が言った。

「誰だ?国山って?」

「変身能力者で元ピースネットワークの一員だった人のことです。きっと、僕に化けて握間さんを襲ったのでしょう」

「俺の名前を知っているのか?」

「ハイ、斉藤さんたちから聞いていたもので」

「ふ、偉大な存在は辛いぜ」

 俺は頭を手で抱えながら調子に乗っていった。

「こちらの方が倉田さんでしたっけ。ホームレスの人たちを助けているという生徒は」

「・・・・倉田です」

 倉田は暗い表情かつ低い声で挨拶した。

「秋山君。早く行きましょう」

 この少年は秋山という名か・・・実にどうでもいいな。

「では、皆さん。僕に捕まってください」

 テレポーターの身体に触れた状態で、皆で仲良く瞬間移動か。

 そして、秋山が力を発動させ、俺たちは瞬間移動した。

すると、見知らぬホールへとたどり着いていた。床は体育館のようで、周りに机とパイプ椅子が会議室にように囲っている。そして、一番驚いたのは見知らぬ高校の制服を着た男女が大勢いたということだった。

 正義の味方ごっこをしている哀れな小市民たちの会合か。見ものだな。

「斉藤さんじゃない」

知らない女子高生がこちらに近づいてきた。

「内村さん」

 斉藤はうれしそうに内村という女子高生の所に近づいていった。

 ピースネットワークのお友達か。結構なことだ。

「皆さん、集まったようですね」

 すると、白い学生服を着たオールバックの男子生徒が笑顔で言った。

「伊藤さんだわ」

 斉藤が言った。

「あの小市民は誰だい?」

 俺がやさしく聞いた。

「小市民なんてひどい言い方。あの人がこのピースネットワークの創設者でリーダーの伊藤さんよ」

「へぇ・・・」

 どうでもいい質問をしてしまった。この俺としたことが。

「君たちが新しいメンバーだね」

 この伊藤という男。人がよさそうであるが、自分の考えが絶対ってタイプの男だ。リーダーとしての資質はあるが、こういう男にあこがれる人間と苦手な人間がいる。言い方にも自信に満ち溢れている。

「メンバーになったつもりはないよ」

 俺は自信に満ちた声で言った。

「それを判断するために俺がいるんだよ」

 偉そうな言い方だ。こういうやつは好きになれない。若干ではあるがやつから憎しみを感じる。所詮は小市民か。

「そちらは倉田さんだね。よろしく」

「・・・あ、はい」

 伊藤は倉田に近づき、無理に握手を交わした。

「後、握間君もだ」

 俺は握手をするのは嫌いであったが、伊藤が何かをたくらんでいる感じがしたのであえてそれに乗ってみることにし、握手を交わした。すると、伊藤が不可解な顔をした。

「どうした?」

 この俺が聞いてみると、

「・・・・いや、別に」

 と返された。

 一体何を考えているこいつは。信用できないな。

 その後、俺たち?平和同好会は自分たちの席に座り、会合が始まろうとしていた。そして、時間になり、リーダーの伊藤が立ち上がった。

「それでは、月に一度のピースネットワークの会合を開きます。では、下野川高校から今月の成果報告をお願いします」

 どうも、会議というのは性に合わない。社会人は嫌だ。

「では、代表して私が報告させていただきます」

 斉藤が立ち上がり、今月の平和維持活動の成果を発表した。と、言ってもホームレス虐待や強姦魔を撃退したことをあたかも自分が全部行ったかのように斉藤は話している。

 この偉大なる俺がいなければ、こいつらは今頃ひどい目に遭っていただろうに。気に入らない。実に不愉快だ。まあ、しかし、俺は英雄ではないので自慢してヒーロー気取りをするつもりもない。

「その犯罪者たちは皆能力者だったんですよね。どのように対処したんですか?」

 他校の生徒が斉藤に質問してきた。

「皆さんも知ってのとおり、私や鹿沼君は能力を持っていません。川島君は能力者ではありますが、攻撃向きではないですが、今日新しい仲間として呼んだ握間太郎君に助けられました」

 すると、全員の目がこの俺に向けられた。大変結構なことで。

「彼は怪力、鋼鉄の身体、高速移動、黒い炎など多彩な能力の持ち主で私たちは何度も助けられました」

「複数の能力の持ち主」

 それを聞いたメンバーは俺に対して恐怖している。複数の能力を持っている能力者はほとんどいないと言われており、希少価値がある。しかし、それだけの理由で恐怖心を抱くのはおかしい。何かがある。このピースネットワークには。

「後、ここにいる倉田さんも能力はないもののホームレスたちを守ってくれていました」

「能力がない?それはおかしいですよ。斉藤さん」

 伊藤が急に言ってきた。

「それに、彼女は正義の味方じゃない。ここにいてはいけない女性です」

 伊藤はきっぱりと言った。

 倉田は下を向いて何も言わない。

「どういう意味ですか?伊藤君」

「皆も知ってのとおり、俺の能力は触れたものや生き物のあらゆる情報を知る力です。先ほど彼女と握手した際、彼女の内面をすべて見ることができました。はっきり言います。彼女は悪です」

 倉田から悲しみが伝わってくる。死を感じさせるほどの悲しみ。この俺ならちっとも気にしないのにな。女とはそういう生き物なのか。感情的な生き物?ま、男も変わらないはずだが。

「彼女はヒーリング能力を持っている。病気は治せないが人の傷の再生させることができる」

「そうなの?倉田さん」

 斉藤が倉田に詰め寄る。

 あーあ、まずいまずい。この展開。

「それだけならまだいい。前にメールで下野川高校と超能力学校でトラブルがあったってメールで言っていたよね。その中で条約の管理者が学校を売った形になったらしいけど、その管理者が彼女なんだよ」

 倉田は涙を流している。人の内面を勝手に覗くこの男。最低だな。俺も似たような能力だが知られたくないことまで知られてしまう。これがやつの能力か。

「倉田さん!あなた」

 斉藤が激怒している。強い怒りを感じるぞ。

「・・・ごめんなさい」

 倉田は泣きながら謝罪している。

「彼女には退席してもらおうか」

 倉田がどうなろうと正直構わないが、どうも伊藤ってやつは気に入らない。この会合にもだ。俺の中にある何かがやつは敵だと言っている。

「倉田を退席させる前にこの俺が聞きたいことがある」

「何だい?握間君」

「俺の情報を手に入れられたかい、伊藤さんよ」

「・・・・」

 伊藤は何も言わない。

「だろうな。これが複数ある俺の能力の一つ。精神干渉遮断能力。テレパシー系統な能力は俺には通じないんだよ」

 俺は笑みを浮かべながら言った。

「それと、変身能力者について教えてくれないかな。小市民の皆さん?」

 すると、周囲から一斉に負の感情が湧き上がってきた。

「どうして、それを聞きたがる?」

 伊藤が言ってきた。

「なにぶん殺されそうになってね。その変身能力者の国山ってやつに。ま、この偉大を超越した俺を殺せるやつはこの世界には存在しないが」

「彼は君と同じだよ。握間君」

 伊藤が言った。

「見た相手に変身できるだけではなく、変身した能力者の能力まで使うことができる。それが彼だ」

 なるほどね。

「彼は元ピースネットワークの一員だったんだよ。けれど、犯罪者や犯罪者になりうる可能性のあるものは抹殺すべきだと言い始めた。神にでもなったかのような言動をするようになってね。そして、彼は・・・・・人殺しになった」

 周囲の雰囲気が暗くなった。こういう雰囲気は・・・・大好きだ。

「なら、目的は決まった」

「目的とは?」

「今、この俺がすることは二つ。一つはその変身能力者を倒すこと。もう一つは地元にいるであろう超通信者の正体を暴くことだ」


 その後、俺は暇なのでここに残ったが、倉田だけはテレポーターによって学校に帰らされた。ずいぶん冷たい集団だと俺は思った。

 会合は一時間以上続いた。

 他校の生徒たちの英雄話を永遠と聞かされたが、中には嘘をついている者もいた。

 まあ、所詮は高校生の集まりだ。この程度なのだろう。

 英雄話が終了すると、後は高校生同士の雑談へと変わっていった。皆席から立ち上がり、友人たちと話している。斉藤は内山という女性と。川島と鹿沼もいっしょに別の他校生と会話が盛り上がっている。

 仲良し正義の集団か。

 すると、伊藤がこちらに近づいてきた。

「君と出会えてよかったよ。良かったら教えてほしいんだけどな。君の能力が後どれくらいあるか?」

「断る!」

 俺ははっきりと答えた。

「何でだよ」

 感じるぞ。伊藤の本性を。憎しみを。

「俺はお前が嫌いだ。人の個人情報を勝手に知るようなやつに興味はない」

「それはせい・・」

「正義のためなら何でもしていいのか?それじゃあ、あの国山っていう変身犯罪者と同類だな。まあ、良いけど。でも、一つだけ教えてやるよ。俺はこれからもっと進化する。それが俺の能力だ」

「コピー能力か何かか?」

「そんな陳腐でつまらない能力じゃない」

 さてと、倉田が自殺するのを止めなきゃな。

「俺はこれで帰るよ。やることがあるんでね」

 俺はテレポーターの元に向かった。

「さあ、俺を帰らせろ」

「ああ」

 テレポーターは俺に対する怒りで満ち溢れている。それはこの周囲全体の反応ともいえるが。どうやら、この俺は嫌われたようだな。結構なことだ。

 テレポーターは俺を学校の部室前に転送させると、すぐにその場から消えた。

 倉田はどこかな?

 学校に漂っている負の感情を調べたが、倉田がいないことがすぐに分かった。

 だったら、ホームレス公園だな。

 この俺は学校を抜け出し、急いでホームレス公園に向かった。

 能力を利用して、すぐにホームレス公園に到着することができた。

 感じる。死へと近づいている究極の負の感情が。倉田の感情をびんびん感じるぞ。俺に力を与えてくれるすばらしい感情。

 すると、別の負の感情がこの俺に向かってきていた。

「あんた。倉田ちゃんを泣かせたね」

 あの時のホームレスババアか。これだから年よりは嫌いだ。

「そんな小市民なこと、この俺がすると思っているのか?」

 決まったぜ!

「ああ、思ってるね。あんたは女を泣かす男だ」

 このホームレスババア。頭がそうとう固そうだ。栄養失調で脳が正常に働かないんじゃないのか?

「別の男に泣かされたんだよ。おばさん」

「そうなのかい?」

「俺が倉田を泣かす理由はどこにもない。恋人でもなければ友達でも敵でも味方でもないんだからな」

 つい、本音を言ってしまった。この俺としたことが。

「じゃあ、何でここにいるんだい?」

 倉田の不幸な姿を見たかったからだ・・・とはさすがのこの俺も言えない。

「知人に頼まれただけだ」

 と嘘をついた。

「ふーん、そうかい」

 このババア、俺をまるっきり信じていない。

「まあ、何でもいいさ。この俺は倉田に用があるから、そこをどけ」

「目上の人に向かって偉そうじゃないかい」

「じゃあ、年上なら偉そうな態度をとっていいのかい?」

 俺は普段疑問に思っていることを口にした。

「何だい?私にけんかを売ってるのかい」

「何でこの人類を超越した存在である俺があんたごとき下級市民にけんかを売るという低俗なことをしなければいけない」

 この俺に失礼だな。このババア。

「聞いてれば腹が立つ小僧が!」

 ばあさんの負の感情には怒りと憎しみに満ちていたが、その奥に深い悲しみを感じる。実に結構なことだが少しだけ気になる。

「まあ、いいさ。倉田がどこにいるかこの俺には分かるからな」

 俺はババアを無視し、倉田の負の感情を感じるブルーシート小屋に向かった。

 中を覗くと、体育座りで泣いていた。

「よ、倉田。元気かい?」

 俺は負の感情のすばらしさに機嫌が良かったのでつい、笑みを浮かべてしまった。

「戻ってきたの?」

「ああ、俺は正義の味方はどうにも性に合わん。それにいろいろ本音を言ったら嫌われた。もうあんな偽善者たちと会うことはないさ」

「君は正義の味方に見えるけどな」

「この俺が・・・俺、そういうの嫌いなんだよ。正義とか悪とか決め付けられるのさ。それにだ。正義が本当に正しいかどうか分からないだろう。正義で人を救える絶対的保障はどこにも無いんだからさ。逆に、人を救う悪だってあるかもしれない」

 さすがはこの俺。柔軟な発想力だ。

「私は悪人よ」

 倉田の負の感情が増している。

「そうか?」

「え?」

「お前はどっちもだよ」

 俺は倉田の横にあぐらをかいた。

「時には人を救って、またあるときは人を見捨てる。それがお前だ。俺から見れば、平和同好会の三人なんてお前が苦しんでいるのを知らなかったんだからな。平和維持活動的にそれは罪だよ。仕事を怠ってたんだからな」

 我ながら正論を言ってしまった。これだから俺は。本当に困ってしまう。自分の優秀さに。

「私ね。ヒーリングより別の能力がほしかったな」

 あっそ。どうでもいいことだ。貴様のことなど。

「空が飛びたかった。子供の頃からずっと。今でも羽ばたいてみたい」

「じゃあ、飛んでみるかい?」

「え!」

 倉田が涙をふき取りながら驚いていた。

「そうか。お前はあの時いなかったもんな。よし、外に出ろ。お前を鳥にしてやる」

 俺は倉田の腕をつかみ、強引にブルーシートから出した。

 倉田を喜ばせたい・・・・とは思っていない。単純に念動力の練習がしたかっただけだ。利用できるものは利用しつく。それがこの偉大なるこの俺のすばらしき考えだ。

 俺たちが外に出ると、あのうるさいババアが近くにいた。

 さあ、俺のダークキネシスをホームレスたちに見せ付ける時がきた。まあ、人間だけしか操れないのがネックだが。

「さあ、始めようか。お前は鳥になる」

 そして、俺はさらなる進化を遂げる。

 俺は倉田に右手を向けて念動力を発動させた。

 感じる。倉田の負の感情をつかんでいるこの感覚。

 倉田の身体は宙に浮き始めた。

「え、私浮いてる」

「俺の新たなる力だ」

 不の塊をつかんでいるような感覚は続いており、倉田の身体をどんどん上昇させていった。

「あんた、倉田ちゃんに何してるんだ」

 うるさいババアだ。

 俺は左手をばあさんに向けて倉田と同じことをすると、体が宙に浮き始めた。

「何すんだい?」

 ばあさんの体は五メートルくらい浮き上がり、怖がっている。能力を使わずとも理解できる。

「倉田?どうだい空を飛んだ感想は」

「幸せ」

 倉田の笑顔を初めて見た。負の感情が次第に消えていくのが分かった。すると、急に右腕に重さを感じ始めた。

「何だ?これは」

 すると、右腕で倉田を支えきれなくなり、倉田が落下した。

「きゃあー」

 まずい、落ちるぞ。

 しかし、今度は倉田の恐怖心を感じ、力が戻ったかのように念動力を再発動させ、地面すれすれで倉田を宙に戻した。

「怖かった・・・」

 そうか、相手に負の感情がなければ俺は対象者に対して念動力が使えない。周囲に負の感情があってもだ。その証拠にばあさんの方は宙に浮いたままだ。

 倉田はさっき幸せの感情に支配された。そのために不の塊ではなくなり、念動力が効かなくなったのだ。

 まさか、この俺の能力に欠陥があるとは・・・・・そうか。これは絶対上位者である俺に対する試練。上位者の宿命なのだ。なるほど。そういうことか。

「いいから私を降ろせ」

 ばあさんが叫んでいる。

「この偉大なる俺に反抗しないと宣言すれば降ろしてやる」

「何馬鹿なこと言ってるんだい?いいからさっさと降ろしな」

「・・・・分かった」

 俺は左手首を下に傾けると、ばあさんは急降下した。そして、地面に激突した。

「いたたた、あんた年寄りに優しくしようとは思わないのかね」

「思わないね。威張り腐ったあんたをなぜやさしく接しなきゃいけない。そういうのを年寄りの傲慢っていうんだよ。だから、老人は嫌いだ」


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