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ザ・チューニーズ   作者: 野川太郎
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第四章

小市民たちが部活の時間、俺は屋上で一人考えていた。

 発火能力者のことや超通信をしている能力者。そして、今日の夜八時にホームレス公園に来いというどうでもいい誘い。

 人類を超越したとはいえ、正直暇だ。これといった趣味も無いこの俺にとってこの暇をどう使うかが問題だ。超通信は町全体に流れているため、他の学校の生徒にもいずれは顔を知られているだろうから、後々面倒なことに巻き込まれそうだ。

 すると、屋上の方に三人の小市民の感情を感じ取った俺はその方向に顔を向けた。

 ドアが開くと、一人の眼鏡をかけた女子生徒と大柄と小柄の男子の三人がこの俺の所に向かってきた。

 何か面倒くなってきそうだな。

「ね、あなた。噂の握間太郎君でしょ?」

「あ、そうだけど」

 俺はそっけなく言った。

「へぇ、超通信だと悪そうなイメージだったけど、割と地味なんだね」

「どうでもいいさそんなこと。で、用件は?」

「私たち三人は世界を救う会。通称『平和同好会』のメンバーなんだけど知ってる?」

「知らん」

 そんな超くだらない中二病の会がこの学校にあったなんて知らなかった。ま、中二病とはほど遠い俺には関係ないけどね。

「能力に目覚めたあなたを勧誘しに来たんだけど興味ある?」

「この俺は世界平和とかに興味ないから」

 世界を救うとか世界を支配するとかそんな小市民が考えるようなことに俺は何の興味も無い。

「その才能は多くの人を救えるのにどうしてそんなこと言うの?」

 眼鏡をかけたその女子生徒は悲しい顔をしていた。しかし、俺の能力が教えてくれている。彼女の内面は悲しみと憎しみに満ち溢れていることに。俺に対する憎しみとは少し違う気がするが。小市民っていろいろ抱えてるんだな。

「俺はすべてを超越した存在だ。今さら何もすることはないよ」

「無駄ですよ。こんなやつに何を言ったって。だって、精神的におかしいんですから」

 小柄の男子生徒が言った。

 俺はその男子生徒を思いっきりにらみつけると、彼は一瞬ひるんだ。

「いいなぁ、その能力。僕だったら人助けに使うんだけどな」

 少し足り無そうな大柄の男子生徒が低い声で言った。

「それはお前の勝手さ。俺は俺のためにしか能力を使わない。これが俺の考えであり、俺の真実であり、絶対だ。さあ、学習したなら早く部室に帰れ。これ以上小市民と話す必要はない」

 俺は究極的に偉そうに言ってやった。

 これだけ言えばとっとと立ち去るだろう。この俺が言うのだから間違いない。

「じゃあ、せめて部室に来てよ」

 女子生徒が言った。

「俺、今忙しいんだけどな」

 いいえ、暇ですが何か?

「どう見たって暇だよね。あなた。いいじゃない、来てよ」

 彼女の内面から憎しみが消えていたが、悲しみや悔しさのようなものを感じる。この女、何を抱えているんだ。少し気になるな。

「じゃあ、ちょっとだけならいいよ」

「じゃあ、決まりね」

 その女子生徒はうれしそうに言った。

 入部するとは言ってないがな。ま、いいか。

 俺たち四人は屋上から離れ、階段を下りていった。そして、二階にある社会課教室の隣にいある小さな教室に入った。すると、そこにはたくさんの資料やポスターが張ってあった。とりわけ目立ったのはこの町の自称ヒーローの『シャドウガイ』のポスターである。彼の能力は謎であるが、黒い安っぽいコスチュームとマスクで町の悪人を無償で捕まえていると評判の英雄である。どのような能力を持っているのかは謎のままであるが、明らかに特撮系統のファンであることはまちがいないが、町では非常に人気が高く、能力者やただの旧人類の悪人を倒す正義の味方として町のイメージキャラクターになっている。

 もちろん、この偉大な俺はそんなやつに興味はないし、どうでもいい。

 他にも、この県以外のご当地ヒーローたちのポスターが貼られており、この部活か同好会かは知らないがそうとう英雄がお好きのようだ。

 机を見ると、超能力に関する本が散乱しており、この集団が超能力=英雄という考えがよく分かる。非常に小市民な思考だ。

 机に近づくと、一つだけ気になる本を見つけた。

 その名は『超能力者になる本』である。

 この俺がその本を手に取ろうとすると、すかさず眼鏡の女子生徒がその本を奪い取り、隠した。

 俺はその女子生徒の内面を知ろうと、負の感情を感じ取ろうとしたが彼女に話かけられたので止めた。

「ここが私たちの拠点の教室。ま、狭くてほこりくさいけど何かいいでしょ?」

 そんなこといわれてもな・・・・

「ま、いいんじゃない」

 俺は適当に解答した。

「じゃあ、入部してくれる?」

 彼女は笑顔で聞いてきたので俺は即答した。

「断る」

 人の期待を裏切るのは楽しい。実にすばらしい。まさにこれが俺の生きがいだ。

「私たちはあなたのような強い能力者の助けがほしいのよ。聞いた話だとあなたは不良能力者みたいに悪いことには使わないでしょ。影村君の件だって元は彼があなたを念力で虐げようとしたからけんかになっただけであなたは決して悪い人じゃない」

「俺、そういうの嫌いなんだよ。人助けとか、正義とか悪とか。そういう小市民的価値観。それにさ。この学校には俺以外にも能力者はいるだろ。何で俺なんだよ?」

「皆私事私欲のためにしか使わないからよ。影村君とかマドンナで有名な姫川まさみとか。一様誘ってはみたけどくだらないって言われたからそれっきりよ」

 学園ドラマお約束のマドンナこと姫川まさみは美人で勉強もでき、運動神経抜群。そして、その美貌で学校中のすべての男、もちろん俺以外だが男子を一瞬で虜にしてしまうらしい。問題は彼女が特殊能力の持ち主かどうかが定かではないということだ。能力による男子の洗脳かはたまた単なる美貌による洗脳なのか。この偉大なる俺にはまったく関係ないがそこがはっきりしないらしい。ま、確かなことは姫川に逆らった一部の女子たちが彼女に洗脳された男子からリンチされたという噂があったくらいだ。

 もし、これが本当だとしても、恋愛にまったく興味の無い偉大なる俺には本当に関係ない話だ。

「俺は仲間とか集団行動が大嫌いなんだよ。小市民たちと行動することに興味はないし、面倒くさい。だから、俺は入部しない。じゃ、そういうことで」

 俺はドアの方に体を向けると

「じゃあ、何かあったらそのときに手伝ってよ。暇な時でいいから」

 能力を使わずとも彼女が必死で能力者を求めていることが分かる。だが、この俺にはまったく関係ない。

 ・・・・しかし、暇なんだよな・・・・

「気が向いたらね。まあ、どっちみち今日は無理だけど。用事があっから」

 あの暗い倉田とのホームレス公園のことであるが、正直行くか迷っている。

「きっとだよ」

「ああ」

 俺はドアを開け、部室を去った。

 しかし、三人の負の感情は体が感じ取っていた。女の方は悲しみや悔しさ、小柄の男子生徒からは俺に対する嫌悪、大柄の足りなそうな男子からは・・・特に何も感じないな。何も考えていないのだあろうか。

「ったく、中二病どもが」

 俺はつい本音を口にしてしまったが、彼らには聞こえていなかったみたいだ。

 その後、この俺は帰りに暇をつぶすために『池川書店』に向かった。

 書店に入ってみると、俺と同じように暇そうな高校生や中学生、小学生がたくさんいた。俺はその中で特殊能力関係の本コーナーを探すと右側の列にずらりと並んでいた。

 もし、この偉大なる俺に悩みがあるとすればそれは能力のコントロールだろう。あの黒い煙のようなものを制御できないことは事実であり、負の感情の吸収も体が勝手に行っていて自分ではコントロールできない。吸収範囲も限定されている。これでは俺の未知なる力が発揮されない。内にひめたる可能性という名の力が限定されてしまう。

 この俺は俺自身をも超越しなければならないのだ。いつまでも小市民の負の感情に頼っていては俺の感情が許さない。小市民の力を借りなければ力が発揮されないなんて。俺はもっと進化できるはずだ。進化をも超越した存在になるために。

 特殊能力系統のコーナーには『私はこうして超能力を得ました』『誰でもなれる超能力者』『超能力犯罪の数々』『特殊能力の生活』『超能力は遺伝するか?』『人類はなぜ超能力を持ったのか?』などの題名の本がおいてあった。

 これが今の時代。新時代だ。

 俺はその中で『特殊能力のコントロールについて』という本を手にとって立ち読みを始めた。

 その本の内容はこうであった。

 特殊能力者には二種類存在する。一つは誘発能力。自分の意思で能力を発動することである。もう一つは体質能力。意思とは関係なく随時能力が発動状態になってしまっている場合である。体質能力の場合は基本的に力のコントロールは不可能であるが、体質能力と思われていたが、実はコントロールできなかっただけであって、実は誘発能力者であったケースもある。また、誘発能力者であっても必ずしも能力をコントロールできるわけではない。特殊能力は感情との密接な関係があり、精神不安定であると能力が発動できなかったり、逆に暴走することがある。

 三十分くらい立ち読みをし、俺はその本を元の場所に戻した。

 まずい、もしかしたらこの俺は体質能力の可能性がある。これでは能力のコントロールはできない。

 ・・・・いや、仮にそうだとしても俺なら、この俺ならきっとその常識を覆してみせる。俺ならできる。なぜなら、この俺は世界に選ばれた男。世界を超越する史上最強の能力者なのだから。

 能力のコントロールの話はもういいので俺は他の本を探し始めた。すると、少しだけ気になる本を見つけた。

『能力を失った悲しみ』というタイトルの本である。

 やはり、人の不幸話を読まなければ。人の不幸は蜜の味ってね。

 俺は笑顔でその本を手に取ろうとしたその瞬間、強い負の感情を感じ取った。周りにいる客たちの負の感情を感じ取ってはいたが、そんな感情など話にならないくらいに強い、いや殺意の満ちた感情を感じ取った。

 俺は書店を後にして、外に出ると車から出てきた母親と子供たちくらいで殺意の感情が消えていた。

 今のは一体・・・・間違いなく、この偉大なる俺を狙っていた。俺を殺そうとしているやつがいる。ま、あんな超通信を真に受ければそうなるかもしれない。所詮は小市民。この俺を殺せるやつはこの世に存在しないのだから。

 すると、俺の体からまた例の黒い煙が出てきた。それを見ていたどこかの子供が怯えている。子供の恐怖がさらにその黒い煙の量を増し、俺の全身が黒いオーラーに包まれた。

 なんて心地いいんだ。

 俺はこのとき、絶対にこの煙のコントロールを習得しようと決意した。本などに頼らず自分ひとりの力で。

 だから、倉田の誘いを俺は受けることにする。ホームレスたちの負の感情はきっとすさまじいものがあるに違いないし、この俺の能力を強化できるもしくは練習できるかもしれない。

 俺は笑顔で池川書店の駐車場を離れた。


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