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ザ・チューニーズ   作者: 野川太郎
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第二章

放課後になり、逃亡に失敗した俺は体育館裏に強制的に集合していた。

 しかも、俺と数人の非能力者たちが一列に並ばされてしまった。

「この役立たずの人間たちの中から犯人を探しまーす。見つけ次第クラスの和を乱した罪で『粛清』を受けてもらいまーす」

「さんせーい」

 クラスの能力者たちが一斉に歓声を上げた。

 しかし、クラスの半分以上が能力者だったなんて俺知らなかった。ま、どうせ役に立たない能力者ばかりだろう。

「さてと、まずは・・・・握間、お前だ」

・・・・・お、俺?

 すると、影村が念動力でこの偉大なる俺を吹き飛ばし、壁にへばりつけた。

「何で俺なんだよ?」

「おめぇ、能力ねぇだろ」

「そうだそうだ」

「この中二病」

 今、この俺を中二病と呼んだな。

 この偉大なる俺の中の何かがうごめいていた。

「何が偉大なる力だよ。ばーか。お前は社会の役立たず。ホームレス以下だよ。中二病」

 この俺がホームレス以下。中二病?

「違う。俺はお前ら小市民を超越した存在だ」

 俺は高々と宣言した。

「超越?意味わかんねーし」

 影村たち能力者は悪意に満ちながら笑みを浮かべている。

 俺は超越しているんだ。お前たちを。世界を。そして宇宙を・・・・

「じゃあ、見せてくれよ。お前の能力よを」

 影村の念動力は強力で体がまったく動かない。

 くそ、この偉大なる俺が何もできないだと。そんなことが許されるのか?

「能力なんて無いくせに。この中二病」

「中二病、中二病」

 大半の生徒たちが合唱し始めた。

 感じるぞ。貴様ら愚民どもの悪意が。これが小市民のすることなのか。

「この・・・・愚民がぁ」

 俺は大声で叫び出した。すると、全身に何かが流れるような感覚に襲われた。

 何だ。この感覚は?何かを吸収している?俺の体が。何か邪悪なものを吸収している。そして、それが俺の力になっている。

「愚民はお前のほうだよ。中二病」

 影村は悪意に満ちた笑みを浮かべている。

「・・・・・・・・」

 俺の体に力がみなぎっている。身体能力が向上していることが分かる。影村の念力を超える力を手にしようとしている。そうだ。これが俺の力。人類を超越した力。この偉大なる俺が今覚醒したのだ。

「影村。見せてやる。俺の偉大なる力を」

 俺は自身に満ちあふれていた。

「ばーか、妄想は精神病院で言ってろよ」

 周りの皆が笑い出した。

 この偉大なる俺は理解した。俺が吸収しているのはこいつらの悪意に満ちた感情だ。負の感情を吸収しているのだ。そして、それを力にしている。

 俺は念力で抑えられている身体を少しずつ動かし始めた。

「馬鹿な。俺の念力が負けている?」

 影村は明らかに動揺していた。

 確かに影村の念力は強い。しかし、所詮ただの力。力はそれ以上の力に負ける。この強大なパワーを持った俺を押さえつけることなどできるわけがない。

「小市民の能力など、この偉大なる俺に通用するものか」

 影村は両手を使って必死に念動力を発動し続けているが体力の消耗が激しいのか口呼吸になっている。

 分かるぞ。影村。貴様の心が。俺に負けている恐怖を感じる。恐怖、絶望。負の感情はすべて俺のエネルギーになる。さあ、もっと恐怖しろ。絶望しろ。

 なんて幸せなんだ俺は。これが俺の能力。まさに暗黒の力ではないか。

 影村の周りにいた生徒たちは徐々に離れていき、この偉大なる俺に恐怖していた。

「この俺がお前なんかに負けるわけがねぇ」

 影村は自分に言い聞かせるかのように言っていたが説得力などまったくの皆無であった。

当然である。この俺を相手にしているのであるから・・・・・・このタイミングで覚醒して助かったぁ・・・・

 俺は影村の前まで歩いていき、首をつかみ、持ち上げた。周りにいる人間の負の感情が俺に力を与えているため、今の俺は怪力を超越した筋力を有している。

「く・・・苦しい」

 俺は右手で軽く影村の身体を持ち上げている。とても軽い。これが俺の力か。

「さあ、粛清を受けてもらおうかな。影村君」

 俺は笑顔で言った。すると、影村は最後の力を振り絞って念力で俺の頭に何かをぶつけてきた。しかし、何の痛みも感じない。

「何だ?」

 俺は影村の首を離してやった。すると、やつは落下し、その場に崩れ落ちた。

「これは・・・・ガラスの破片か」

 三角定規のようにとんがっているガラスを影村が念力を使って俺に突き刺そうとしたのはすぐに分かった。しかし、俺に痛みはない。つまり、今のこの偉大なる俺は攻撃力だけではなく、防御力も強化されているということだ。実にすばらしい。最高じゃないか。さすがはこの俺である。

 俺はガラスの破片を持ち、倒れている影村に見せ付けた。

「こんな物でこの偉大なる俺を倒せるとでも思ったのかい?影村君」

 俺は苦しんでいる影村を軽く蹴飛ばした。すると、三メートル近く飛び、影村は仰向けになりながらそのまま倒れてしまった。

「さてと、次は誰を粛清しようか」

 俺は影村とぐるになっていた他の生徒たちをにらんだ。

 感じる。生徒という名の小市民たちが恐怖と絶望に満ちている。それが俺の力になっているとも知らず。哀れなやつらよ。

 俺はふと地面に紙が落ちていることに気がつき、それを拾い上げた。すると、衝撃の真実がそこには書かれていた。

 影村以外に超能力を持っている生徒がほとんどいなかったのである。つまり、このクラスのほとんどがただの人間。つまり旧人類というわけだ。しかし、発火能力を持った生徒がいないのは確かだ。

まあ、今更誰がどんな能力を持っていようとこの俺には関係ないけどさ。

「おい、小市民たちよ。痛い目に遭いたいならここにいていいけどどうする?」

 俺は皆を笑顔で脅した。

 すると、小市民たちは殺人鬼から逃げるかのように一目散に逃げていった。

「小市民は所詮小市民か」

 すると、悲しみや怒りなどの感情が急になくなったために体から力が抜けていくことが分かった。

 くそ、周りに小市民がいないと力が発揮できないのか。これは弱点。俺の弱み。そんなことあってたまるか。俺は最強の能力者だ。世界を超越する存在だ。こんな弱点、克服してみせる。

 しかし、負の感情が周囲に残っているのを感じる。しかも、かなり強い。

 すると、俺の体から黒い煙のようなものが出てきた。

「これは・・・・何だ」

 一度は力が抜けてしまったが、誰かの異常なほどの負の感情を感じる。それが俺に力を与えている。

「君、すごいね」

 すると、後ろから女の暗い声が聞こえた。俺がそこを振り向くと、ロングヘアーで目の大きな暗い少女が地面に座っていた。

「お前は・・・・・誰だ?」

 たぶんクラスメイトだと思うが何せ小市民には興味ないこの俺は実はクラスの半分以上の名前を覚えていない。覚える気がまったくないのだ。

 しかし、この女、非常に暗い。人生に絶望しているを通り越して死のにおいを感じる。

 実にすばらしい。人の不幸は蜜の味。人の不幸は俺の喜び。人の不幸は俺の生きがい。人の不幸は俺の力。

 すると、その女子生徒は立ち上がり、皆と同じようにどこかに行ってしまった。そのため、俺の力は強制解除されたかのように発動できなくなり、体から出ていた黒い煙も消え去った。

「あの女、不の塊のようなやつだな。結構結構」

 俺はあの小市民を何かに利用できるのではないかと考えてしまった。

 この俺の力は人間の負の感情を吸収しなければ発動できない。と、いうことは一定範囲に負の感情を持った小市民がいなければ俺は役立たず同然ということか。

・・・・そんな、なんという限定的な力だ。この偉大なる俺は小市民がいなければ力を発動できない。なんということだ。この・・・・この俺が。

 これは屈辱以外の何物でもない。

 俺の負の感情だけでは駄目なのか。俺の暗黒面では駄目なのか。

・・・・・そうか。それ以上に負の感情をこの体は欲しているということか。そうだ。究極の存在は欲張りでなければならない。なら、感情吸収範囲を広げるしかない。しかし、どうすればいい?この学校では俺の究極の潜在能力を開花させるだけの授業は存在しない。

 しかし・・・・俺は人類を超越した存在だ。どうとでもなるはずだ。この俺だけの力で。そう、これがこの偉大なそして、この偉大という言葉すらを超越する俺ならば。

 俺は気を失っている影村の背中を踏みながらその場を離れた。

 次の日、この俺が教室のドアを足で開けると、小市民たちが一斉に俺の方を凝視し、恐怖に震えていた。

 当然だ。究極を超越しているこの俺に勝てる者など存在しないのだから。

 俺は自信に満ち溢れながら自分の席に座った。

 クラスの小市民たちの恐怖を吸収している俺の身体能力は良好であり、何十人が襲い掛かってきても余裕で勝てるだけのスペックを持ち合わせている。

 さあ、小市民たちを。この偉大を超越した俺にひれ伏すがいい。

 しかし、昨日この俺に完全敗北した影村の姿がいない。確かにこの俺の圧倒的戦闘能力でやつを叩きのめしたが、学校に来れないほどの怪我をさせてはいない。まあ、あんな愚民どうなってもいいけど。生きていようが死んでいようが廃人でいようがどうでもいいことだ。実に些細なことだ。

 この俺は机の上に脚を乗せ、堂々として座っていた。周りの小市民はそれを見ながら恐怖している。

 旧人類はすぐ恐れる。弱き生き物だ。

 しばらく、天井を見ながらぼーとしていると、廊下の方から憎しみに満ちた感情が迫ってきていることがすぐに分かった。

「おい、握間ってやつはどこのどいつだ?」

 大柄で坊主頭の高学年の小市民が数人の友人か手下をつれてやってきていた。

「この俺だけど」

 俺は堂々と言った。

「てめー俺の弟をやりやがったな」

「あ、あの小市民のことか。どうでもいいよそんなの」

「調子こいてんじゃねーよ」

 影村の兄貴らしき小市民は大声で怒鳴った。

「あーあ、これだから小市民は。静かにしてくれよ」

「おめぇだけはぜっていゆるさねぇ。顔かせや」

「君ごときの命令に従うこの偉大なる俺ではない。断る」

 俺は本音を言ってやった。

「このくそやろう」

 影村の兄貴は右手を上げ、この俺に向かってチョップしてきた。彼の負の感情のおかげで反射神経が強化されている俺はそれを軽く避けた。すると、後ろにあった他人の机が真っ二つに砕かれた。

 どうやら、影村の兄貴はチョッパーと呼ばれる能力者のようだ。どんな硬いものでもチョップで切ってしまうその能力。はたして、この偉大を超越した俺に通用するかな?

「遅いな。兄弟そろってその程度の能力か。小市民だな。恥を知れ」

 俺は悪意に満ちた言い方で言った。

 その言葉に切れた影村の兄貴は横振りでチョップしてきた。俺は後方にジャンプをし、誰かの机の上に着地し、攻撃をかわした。

「だから言ってるだろ。遅いんだよ。お前ごとき小市民の攻撃など当たらなければいいだけの話だ」

「死ね、このやろう」

 影村の兄貴から強烈な憎しみを感じる。と言うより殺意に近い感情だ。そして、その腐った感情をこの俺が吸収し、力にしている。

圧倒的だな、この俺は。

 チョップが直角に振り下ろしてきたので俺は調子に乗って、白刃取りのようにチョップを両手で止めた。

「だから言ってるだろ小市民。お前は弱いんだよ。小市民は家に帰れ」

 両手で影村の兄貴の腕をプレス機のように圧縮しているので彼はとても痛がっている。

「放しやがれ」

「分かった。放してやるよ」

 俺は両手で影村兄貴の右腕ごと教室の壁に吹き飛ばした。すると、影村兄貴の背中が壁に当たり、右腕と肩の痛みにもだえ苦しんでいる。

 人の苦しんでいる姿って最高だな。幸せを感じる。

 影村兄貴から憎しみの感情がなくなったが、代わりに深い絶望を感じる。

「だから言ったろうが。小市民は死んでも小市民だな」

 俺は緊張感に満ちたクラスの中で一人だけ高笑いをした。

 すると、教室にある机が空中を舞い始めた。

「死ね。握間」

 影村本人が教室のドアに立って念力で教室の机を浮かばせ、この俺に向かって机を飛ばした。俺の顔や胸、腹、足などの机がぶつかり、机が塊のような状況になっていた。

・・・・しかし、身体が強化されている俺にはまったく痛みは感じなかった。

「兄弟そろって小市民だな。影村。粛清が必要かな?」

 俺の身体に纏った机を両手で思い切り振り払った。すると、机があちこちに飛び、生徒たちや壁などに当たり、教室は混沌とした。

 大変結構なことだ。

「お前の念力がこの偉大な俺には通用しないことは昨日で分かってるだろうが。それでも、反抗するとは。哀れな。やはり、粛清が必要だな」

 俺はゆっくりと影村に近づいた。影村は念力で俺を抑えようとしているが力が足りないので俺を止めることができなかった。

「お前を再起不能にしてやるよ。影村」

 しかし、予想もしなかったことが起きた。全身が黒い煙に覆われていったのである。

「何だこれは?」

 俺の体から黒き煙が発生し、教室全体を黒く染めていった。

「どうなっているんだ?」

 誰かの強力な負の感情を吸収しているため、力が最大限、いやそれ以上に高まっていることが分かる。それが今の状態なのだ。しかし、コントロールができない。

「俺の中に眠る暗黒の力が止まらない」

 俺は自分自身にこれほど恐怖したことはない。しかし、それは同時に喜びでもあり、自分自身があらゆるものを超越していくのが分かる。

 俺は俺自身を超える。超越する。

 誰だ。誰が俺に力を与えている。この異常なまでの負の感情。暗黒面。心の闇。

 ドアから一人の女子生徒が入ってきた。あのロングヘアーで大きな目をした暗い少女であった。

 そうか。こいつか。この俺に力を与えている小市民は。絶望、悲しみ、憎しみ。まさしくこの女は不の塊。

 しかし、妙にむなしくなってきた。これほどの力でありながら、こんな小市民たちとけんかをしているだけの生活。何か目的がほしい。そう何か。

 


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