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ザ・チューニーズ   作者: 野川太郎
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最終章

鹿沼が超通信者であることを秘密にする代わりに、俺は悪人になった。テレパシー放送で俺が数々の悪事を働いていることを町中に流すようにしたのだ。

 すると、町中の小市民たちからの冷たい視線をいつも以上に感じるようになった。もちろん、根拠の無いテレパシー放送なので警察が動くことはない。

 悪を殺すという偽善的思考の国山みたいなタイプをおびき出す一番の要員は『人々から望まれること』

 握間太郎を殺してほしい。法で裁けないなら殺すしかない。そう鹿沼に呼びかけてもらうこと一週間後、鹿沼と同様の超通信が流れた・・・らしい。

 鹿沼に変身したやつが同じことをしたのだろう。

『罪を償い、排除される覚悟があるなら目的地にこい』との通信であった。この通信は町中に流れ、見に来るかどうかで学校中がパニックになっていた。

 この町の小市民たちは、この俺が殺されるのを望んでいることを俺は分かっている。俺は世界の嫌われ者。世界は大きすぎるこの俺という存在を包めない小さな器だ。そして、指示された廃墟に俺は向かった。

 今日は平日であるが、学校を休むことにした。しかし、それは俺だけじゃなかった。

 倉田や平和同好会、その他俺を嫌うやつらなどすべてが廃墟に集まった。

 灰色に染まった廃墟地の広い平地に俺は腕を組みながら立っていた。周囲からは負の感情を帯びている野次馬たちがたむろい、俺の死を願っている。

 すばらしい。不のフィールドは完成されている。俺が負けることはない。

 そして・・・・・やつは来た。

 すると、人一倍の負の感情を宿しながら、国山がテレポーターに化けてテレポートしてきた。

「やっと、君の順番が回ってきたよ。ゴミは排除しないと」

「ふふふ・・・偽善者が」

「何?」

 やつは怒りに満ちている。

「偽善って言ったんだよ。変身やろう。俺がゴミならお前はそれ未満だ。周りにいる野次馬たちも同類だ」

「やっぱり、君は排除しないと。世界のためにもね」

「人を殺して平和にしようという発想しかできない貴様にこの偉大で、寛大で、強大を超越したこの俺は倒せない」

 すると、またあのビジョンが頭を過ぎった。そして、俺の頭に激痛が走った。

 く、こんな時に。

「握間を殺せ」

「死んじまえ」

 野次馬からの罵声がする。人の悪意が。力がみなぎるぞ。そうだ。これが俺の力。

 痛みに耐えながら、俺は変身能力者に立ち向かう。

「ゴミは排除しなきゃね」

「小市民は黙って小市民をしてればいいんだよ。偽善ボーイ」

 やつからの怒りの感情を感じる。

 さあ、かかって来い。これが俺の最後のストーリーだ。

 やつはテレポートして姿を消した。始まったぜ。戦いが!

「そこかぁ。ダークフィールド!」

 俺は体から黒い煙を一斉に発生させ、周囲を暗黒の絶望が包み込む。

 さあ、これを浴びれば終わりだ。

 俺の後ろにテレポートしてきたやつは姿が変わった。目つきの悪い男に変身したやつは強力な電流を両手から流し、俺に攻撃してきた。ダークフィールドを貫通し、電流は俺の体を直撃し、全身から強烈な痛みが走り、飛ばされた。

「うわぁ」

 俺は地面に倒れこんだ。

「やるな」

 再び、電流が飛んできたので、かろうじてそれを避け、凝縮したダークバーニングを放った。すると、やつはホームレス狩りをしていた人間に変身し、バリアーを張り、攻撃を回避した。

 なら、接近戦だ!

 俺は加速をかけて、右ストレートを食らわせようとすると、今度は金髪女に変身し、俺の攻撃を高速移動で回避した。

「所詮は小市民の真似事しかできない偽善者が!」

 俺はダークキネシスで右左に高速移動している負の感情の塊であるやつの動きを止めた。

「やっと捕まえた」

「じゃあ、今度は先生にでもなろうかな?」

 やつは姿を変えた。それは驚くべき人物にへと。

 俺のくそ学校の数学教師になったのである。

「なぜ?その姿に」

 すると、俺の全身に発火現象が起こり、俺は紅蓮の炎に燃え上がった。

「そうか?あの教師が発火能力者だったのか」

 炎は俺の服を燃やしているが、俺自身にたいしたダメージは与えていなかった。

 しかし、やつは俺の周りを一瞬で発火させ、平地が炎に包まれた。

 これがあの教師の力。炎を手から放射するのではなく、物体に発火させる能力。それなのにあのくそ生徒たちのために教師をしている。なんて愚かな存在だ。

 俺はダークバーニングを全身から発動させ、炎を消し去った。

「ゴミなのに強いね。やっぱり時間がかかりそうだ」

 やつは笑みを浮かべている。まるで充実しているかのようだ。負の感情が歪んでいる。倉田が死の感情なら、やつは『歪み』だ。だからこそ、この俺に力があるわけだが。ゆえにこの俺の充実している。

 すると、やつはまた別の能力者に変身し、俺を念力で廃墟の壁に激突させた。壁は砕け、俺はそこに倒れこむ。

「残念だが人類を超えた俺は倒せないよ」

 事実、痛みを感じなかった。

 しかし、あの念力は影村以上の力だ。ま、たいしたことはない。

 俺はダークバーニングをやつに吹きつけると、やつは念力で黒き炎を捻じ曲げ、回避した。しかし、捻じ曲がったダークバーニングが野次馬たちの何人かに命中してしまった。

「あっちゃー、命中しちまったぜ。ま、こういうこともあるか」 

 自己肯定自己肯定。

「何してやがる」

「早く負けろ」

 俺に対する罵声が増し、俺の力も増大していく。

 そうか。こういう手があった。周囲を故意に負の感情に満たし、強化する方法が。しかし、、俺が負けそうになったときだけ使おう。

「世界平和のために犠牲はつき物だ」

 やつは笑顔でそういった。

 やはり、偽善者だ。悪人以上に嫌いな存在。やはり、生かしておいてはいけない。新世界に送る必要がある。

「確かに、あんなくそみたいな人間、生きてても死んでてもどうだっていいさ。しかしだ。平和のための犠牲という考えは中東にいる間抜けなテロリストと同じ考えじゃないか?」

 またまた正論を言ってしまった。自分の優秀さには困ってしまう。

「何だと」

 お、やつから怒りを感じる。

「完璧な平和を僕は望んでいる。そのためにゴミは排除しなければいけない。例え、犠牲を払ってもね」

「そこが、お前の限界であり、傲慢なとこだ。そもそも、世界平和を考えているのはあくまでお前のエゴだろ。人という劣等種族は機械じゃない。一定の動きしかできない機械とは違う。完全平和なんて機械じゃない人間にはできないんだよ」

「できないことを可能にしようとしている。この僕は」

「ふふふふ・・・・はははは」

 俺は大声で笑った。

「何がおかしいんだ?」

「完全平和を本当に作りたいんなら、悪を倒すんじゃなくて悪が生まれない社会を創ろうとは思わないのか?」

「それは・・・・」

「それをひたすら害虫駆除を無限に繰り返すだけの単純で低レベルな考え。俺は認めない」

「僕が正義だ!」

「そこだよ。俺が人間で一番嫌いな考えは。完全平和がもし実現しているなら『正義』という考え自体生まれないんだよ。正義という考えがあるということはだ。つまり、悪が必ず存在する証明みたいなもんだ。だから、嫌いなんだよ。『正義』って言葉が。それを口にするやつもな」

 俺は一瞬だけ平和同好会のメンバーを見た。

「お前は許さない。ゴミ以下だ」

「ゴミはお前とあそこにいる野次馬の方じゃないのか?」

 俺は野次馬たちに向かって叫んだ。

「このゴミ未満ども。見せてやるよ。人類を超越した力をな。その濁った目で焼き付けるがいい。俺の人知を超えた力をな!」

 俺は国山に顔を向けなおし言ってやった。

「俺にとってお前は踏み台でしかない。俺が更なる進化を遂げるためのな。さあ、続けよう。俺の進化のためのレクイエムを」

 俺は全身から黒き炎を放ち、力を見せ付けた。

「なら、僕も本気を出そう。正義のために」

「俺は自分のためだけに貴様を・・・新世界を超越した生き地獄に送る。お前にはその価値がある」

 つまりはその程度の価値しかないということだ。

「超加速」

 やつはまた別人に変身すると、坊主頭の長身に変身した。そして、ものすごい加速で俺の胸を殴りつけられ、吹っ飛んでしまった。

 速い、速すぎる。俺の反応速度がやつに対応できなかった。スピード、力が俺を勝っている。すると、今度は俺の顔に右ストレートを食らってしまった。

 これが超加速。瞬時の加速でスピードと力を増している。しかも、高速移動以上のスピードで見えない上、この偉大な俺がダメージを受けている。この、この俺が・・・・

 やつの超加速は直線的な攻撃と移動方向であり、通常の高速移動のようにカーブすることはできず、瞬間の加速のみで、すぐに止まってしまうが、それでも今の俺にはやつを倒せなかった。

 全身を殴られ、相当なダメージを追った俺はその場に倒れこんだ。

「これが正義の力だ」

「まだだ、ダークフィールド!」

 辺り一面を覆ってやる。

 しかし、能力を発動する前にやつのとび蹴りが飛んできた。痛みとは別な衝撃が体を走った。

 俺はまた、吹き飛ばされ、地面を引きずるように倒れこんだ。

 しかし、痛みとともにあることが起きた。

 俺は見てしまった。やつの心の闇の根源を。

 人が殺されるビジョン。鮮明に見ることができたのだ。やつの負の感情を通してやつの核となる深層心理、深い心の闇、やつの闇の『記憶』を。

 やつは悪を憎んでいる。あのビジョンのすべてを理解した。やつは両親を殺され、親友も殺された。この世の悪を心の底から憎んでいる。

「くたばったぜ!」

「死ね、握間」

 野次馬たちから一斉に俺が倒された歪んだ喜びを感じる。俺は正の感情を理解できない。しかし、やつらの喜びを感じるということはそれが同時に悪意ということだ。

 人の不幸を願う悪意。これが人間の本性。人間の真実。

 力がみなぎってくる。そうだ。俺は不の帝王。ダークサイドを越えた存在。

「まったく、強いやつは面倒だ」

 体力が回復していき、力が増してきた。

 また、進化を果たしてしまったとは。この俺はなんて偉大なのだろう。

「まさか・・・あれだけ攻撃されて・・・」

 やつはあせっていた。やつの内面がはっきり分かる。やつの負の感情は倉田をも越えている。やつが考えていることが理解できる。思考を読み取れる。

俺は笑顔でやつの思考を読み取った。

そうか。超加速は体力を消耗する。だから、あせっているのか。

「両親が死に、親友が死に、殺した悪人を憎むあまり、人殺しに走った哀れな小市民が」

「お前、なぜ、それを・・・・」

「もう、決着はついた。俺は更なる進化を遂げた」

「うるさい!」

 やつは超加速で俺に攻撃してきたが、今の俺にはそのスピードがスローモーションのように遅く感じた。やつの右ストレートを右手で受け止めた。

「何?」

「もう、終わりだ」

 俺はダークバーニングをやつの身体に点火させた。すると、やつの身体が黒く染まり、やつの絶望が増幅された。

 しかし、やつはそれをかろうじて耐え、テレポーターに変身し、その場を離れ、俺の数メートル前に転送されていった。

「これがゴミの力か。危ないとこだった」

「ゴミ未満が何を言う?」

 野次馬たちの負の感情を吸収し続けているため、体の痛みがあっても疲労はないが、やつにはある。やつの内面をすべて見通しているこの俺にはもう勝てない。

「なら、君を排除するには刺し違える必要がある。この身に変えても」

「お前、中二病だろ?」

「言ったはずだよ。世界平和に犠牲はつき物だ。例え、自分が犠牲になっても。僕は君を排除する」

 俺にはやつの内面を知り尽くしている。やつはやる気だ。あの姿になろうとしている。しかし、あの偉大なる姿になった瞬間、やつの完全敗北が決定する。さあ、変身しろ。変身だ。トランスフォームするんだ。この、この俺にな。

「変身・・・」

 そして、やつはこの偉大を超越した俺になった。

「お前には俺の力を使いこなすことはできない。もう終わりだ。ああ、なんて罪な男なんだ俺は・・・・強すぎるという罪を・・・・そんな自分が・・・・好きで好きでしょうがない」

 やつは、ついに俺になった。しかし、やつには使いこなせない。人類を超越した俺の力に耐えられる人間は俺をおいて他にはいない。残念だが、これが現実なんだよ。

「何だ?この感覚は」

 やつは負の感情を全身に吸収している。それは人の暗黒面を知ってしまう力。凡人がそれを知ってしまったらどうなる? 答えは簡単だ。精神を病む。俺の父親のようにな。

「何だ、何なんだこれはぁ? そうか、これがお前の真の力。コピー能力だと思っていたが違った。これが、お前の悪の源」

「違うな。進化の象徴だ」

 やつは精神的に追い詰められ、変身を解除した。そして、その場に倒れこんだ。

「真に進化できなかった哀れな存在が」

 俺はやつに近づき、やつの胸倉をつかみ、持ち上げた。やつの本当の姿は不細工で背が低く、良い所が一つもないつまらない姿であった。

「さあ、見るがいい。小市民たちよ。お前たちが応援していた正義という名の偽善者を新世界に送ってやる」

 俺はやつの体を黒き炎で燃やし尽くした。

「お前の精神を完全に崩壊させる。生き地獄を死ぬまで味わうがいい。ははははは!」

 そのすばらしい光景を周りの野次馬たちが恐怖しながらただ眺めていた。

 俺は最大限に力を発動させ、こいつの心を破壊し続けた。こいつの内面が見える。今まで多くの小市民を殺し続けたビジョンが見える。倉田など凌駕する負の歴史。

 そして、国山の心が完全に崩壊したのを確認し、俺は胸倉を離すと、国山が落下しそのまま倒れこんだ。

 絶望の先にあるのは『死』であるが、俺は死に興味など無い。こいつには絶望と死の境である『生き地獄』を死ぬまで堪能してもらう。そうしなければ、こいつはまた人を殺す。負の感情要員を殺すことは、すなわちこの俺を敵にまわすことだ。

「さあ、そこの野次馬たち。こうなりたくなければこの場を去れ。虫けら未満共」

 しかし、恐怖心に満ちたこの空間でまともに動けるものは誰一人いなかった。

「おい、斉藤。あのテレポーターを呼べ。こいつを警察でも精神病院でもいいから連れてけ」

「・・・あ、うん」

 斉藤は携帯を取り出し、連絡している。

「さてと、俺は帰るとするか」

 この俺は何事もなかったかのようにその場を後にした。


 そして、数日が経った。

 な、なぜだ。なぜこの俺が・・・・この俺が期末テストの追試験を受けているんだ。

強姦魔を捕まえ、変身能力者を精神病院送りにした後、この俺は独断で質の悪い不良、暴走族、高速移動スリを心の暴力で倒していった。しかし、あまりに心の暴力が楽しかったのでテストの存在をすっかり忘れていた。そのため、ほとんどのテストで赤点をとるという失態を犯してしまった。

ああ、もっともっと暴れて負の感情を吸収したい。何でこの俺がこんなことをしているんだ。

しかも、鹿沼が超通信で町中に俺のことを流しやがった。おかげで愚民共のいい笑いものになってしまった。

 俺の力は内面を覗けるが、負の感情が異常なまでに強いものに限定される。しかも、周りにいるやつらの内面など、辛い面倒くさいなどのつまらないのもばかりだ。これではテストの役には立たない。

「はい、終了です」

 数学の再テストが終了した。小市民生徒は続々と教室を離れていく。

 俺は先生に近寄り一言だけ言って教室を後にした。

「火の扱いには気をつけるように」

 何とかテストを終えたこの俺に待っていたのは、あの平和同好会の二人組であった。

 まず、変わったことと言えば、倉田が正式に入部してしまったことである。

斉藤と倉田はヒーリングガールズと呼ばれるようになり、怪我したスポーツ選手や事故で身体の一部を失った小市民たち、もしくはガンやエイズなどの難病なんかを二人で治しているらしい。

「さあ、行くわよ」

「面倒くせぇ」

 能力者はいないが、非常に荒れていると評判の普通高校にこの偉大なる俺がじきじきに参上するはめになったのだ。

「私の友達の大親友がその高校の生徒で拉致されてるから助けてほしいって言われたんだからやる気だしなさいよ」

 この偉大なる俺に命令口調。いいご身分だな。

「鹿沼君と川島君は先に行ってるから急ぐわよ」

 倉田と斉藤は自転車で、この俺は足で不良学校に向かった。

 その高校の場所をこの俺は知らなかったので二人のスピードに合わせるしかなかった。それが非常にもどかしかった。

 そして、ようやくたどり着いた。・・・と言いたかったが近くにある公園で着き、鹿沼と川島の二人がいた。

「川島の話だと二階の窓からかすかに人影が見えるらしいって言うんで俺がテレパシーで調べたら本当だった。テレパシーで話したら、倉庫室らしい」

「話は分かった。二人はそのまま待機してろ。顔を知ってる斉藤と怪我を治す倉田はこの偉大なる俺についてこい。十分以内に終わらせるぞ」

 あーあ、面倒くさい。人助けに興味は無い。しかも、最近はこれといった負の感情と出会うことも無いので進化できない。やはり、あれをするしかないようだな。

「行くぞ。やろうども」

「私たち、女なんですけど」

 俺たち三人は小屋名高校の正門前に足を踏み入れた。

 まるで、ヤンキー系の学園ドラマに出てくるような感じの悪い男女および大量の落書きが壁中に塗りたくられていた。

 非常に不愉快だ。だから、ヤンキーは嫌いだ。滅びてしまえ。

「おい、見ねぇ顔だな、あ?」

 ふ、早速絡まれたか。この俺もつくづく運のない男だ。

「友人を助けに着たんです」

 斉藤が丁寧に答えた。

 まったく、こんなやつ相手にする価値などないだろうに。

 倉田は雰囲気に飲み込まれて怖がってるしさ。

「何言ってんだ?」

「おい、その制服、下野川だな、ここを通りたかったら通行料よこせ」

 あーあ、ヤンキーの典型的行動だ。小動物の方がまだマシだな。

「嫌だと言ったら」

 俺が笑みを浮かべながら答えた。

「この学校のルールに従ってもらう」

 すると、周りに不良の男女たちがぞろぞろと集まってきた。

「通行料を払うつもりはない。つまり、断るってことだ。お分かりかい。お前、足りなそうだから丁寧に言ってやったぞ」

 つい、本音が出てしまった。

「てめぇ、ぶっ殺す!」

 周りの不良たちは持参の武器を手に持ち俺たちに攻撃を仕掛けてきた。

「お前たちと触れ合う気はさらさらない」

 ダークキネシスを発動させ、全員の身体を吹き飛ばした。

「さあ、行くぞ」

 俺たちは校舎の中に入っていった。上履きなどないので土足で入っていく。すると、斉藤と倉田は近くに転がっているスリッパに履き替えている。

「まったく、まじめだねぇ」

「握間君が不真面目なのよ」

 確かに!

「二階だったな」

 すぐ近くにあった階段を見つけたので上っていった。

 しかし、汚れが目立っており、掃除をしていなことがよく分かる。

 何でこうヤンキーはすべてにおいて汚いのか。愚民とはこいつらのことだな。

 二階に上がると、廊下に座っている生徒たちがこちらを見ている。

 腐った目だ。あれは劣等種族を下回る外道だな。

「さて、倉庫室はどこかな?」

 この俺がじきじきに探すと、一番向こうの別の階段の横にあることが分かった。しかし、ヤンキー女たちがそこにたむろっていた。

「そこの倉庫室に入りたいんだけど?」

 この俺が少しわざとらしく言った。

「はあ?あんた誰?」

「俺は俺だ!」

「ばかじゃねーの?」

「君たちには負けるよぉ」

「けんか売ってのか? てめぇ」

「握間君、止めなさいよ」

 斉藤にしかられた。

「分かった。早く終わらせるか」

 再び、ダークキネシスを発動させ、数人の女たちを壁にへばりつけた。

「超能力か。反則だ。きたねーし」

「人類を超越した俺の特権だ」

 俺は閉じ込められているであろう倉庫室のドアを開けようとしたが、鍵かかかっていたので怪力で無理やりこじ開けた。

 中に入ると、縄で縛られている茶髪の女子生徒が顔にあざを作った状態で倒れていた。

「大丈夫?」

 斉藤と倉田がすぐに彼女に近寄って縄をほどき、倉田が超能力を使って傷を癒している。

「あんたたちは?」

 名も知らない女子生徒に聞かれたので斉藤が言った。

「正義の味方よ」

「おい、俺は違うからな!」

 俺はあわてて言った。

「さあ、ここから出るわよ」

「鹿沼に報告しないと」

 斉藤は鹿沼の秘密のキーワードを思い浮かべ、鹿沼に報告した。

「とっとと帰るぞ!」

 俺たちが倉庫を出ると、ダークキネシスにかかっていない不良たちがぞくぞくと出てきた。

「下野川の分際で」

「ふ、無能力者が。旧人類は家に帰れ!」

 彼らの敵意を感じる。実に愚かですばらしいことだ。これで、俺は能力を心置きなく使ええるんだからな。

「てめぇら、ここから生かしてはかえさねぇ!」

 大量の不良がこちらに向かって殴りかかってきたので斉藤たち女性陣は恐怖していた。

「愚かな下等生物め! 己の存在意義の無さを思い知るがいい」

 俺は彼らに触れたくなかったのでダークキネシスを発動させ、愚民たちを吹き飛ばした。

 吹き飛ばして吹き飛ばして吹き飛ばす。

 これが案外楽しい。

 俺たち四人はそのまま廊下を歩き、校舎を出た。すると、正門前に多数の不良がいたが、この偉大を超越した俺に恐れをなして、何もできなかった。

 俺はなんてすばらしいんだ。偉大すぎて困ってしまう。

「さあ、道を開けてもらおうか。この俺が通るために!」

 不良たちは恐怖心を抱きながら、道を開けた。

実に賢い選択だ。

 そして、俺たちは学校を出て、鹿沼たちと合流した。

「何で私なんかを助けたんだ」

 この茶髪の女子生徒はどこか悪ぶっている感じがする。まあ、どうでもいいが。

「あなたの友達に頼まれたの。それに私たちは善意でやっていることなの。だって、私たちは正義の味方だもん」

「だから、この俺は違うぞ」

 しかし、誰も聞いてはいなかった。

 この俺が馬鹿にされている。この・・・・中二病共が!

「でも、どうして監禁なんてされていたの?」

 斉藤が茶髪の女子生徒に質問した。

「私は・・・学校で浮いてっから」

 ふてくされた言い方であった。こいつもまた、負の感情の塊だ。しかし、その程度の『負』ではもう進化できない。この俺は。

「それが理由?」

「態度が気に入らないんだってさ。知るかってんだ」

 ふむ。確かに。俺も偉大すぎて学校で浮いているからな。気持ちは分からんでもない。というのは嘘である。俺は浮いていることなどちっとも気にしていない。この俺が特別だという何よりの証拠なのだ。

「そんなことで閉じ込められるの?」

「私の学校ってそういうとこよ。だから、今日は感謝してるけど、明日になればまた同じことされる。その繰り返しよ」

 実にすばらしい現実だ。

「解決しなくちゃ」

 斉藤が力強く言った。

「無理よ。あんたたちが毎日学校に来れるなら別だけど」

「恐怖心だ!」

 この俺がすばらしきアドバイスを言った。

「え?」

「鹿沼、あのくず学校すべての生徒および教師に伝えろ。もし、この女に何かあったら、共学の握間がお前たちを粛清すると」

「何?」

 鹿沼が動揺している。これだから小市民は。

「そうすれば、やつらは二度とお前に手を出さないぜ。どうだ。偉大な発想だと思わないか?」

 すると、全員がまるでいかがわしい物を見るかのような目でこの俺を見ている。

「何だ? その目は」

「まあ、いいんじゃないの」

 川島が答えた。

「分かったよ。じゃ、超通信を始めるから静かにしていてくれよ」

 そして、数分して鹿沼は通信を終えた。

「これで、解決すればいいけどな」

 鹿沼は納得していないようだった。

 俺は決して人助けをしたわけではない。また、こんな茶番につき合わされるのが嫌だったのである。それだけだ。俺は『正義の味方』ではないのだから。

「じゃ、俺は帰るぞ。やることがあるんでね」

 そして、俺は能力を使わずに徒歩でその場を去った。

 今日は曇りで今にも雷が落ちてきそうな闇に包まれた天気だった。

 実に気分がいい。俺は快晴が嫌いだ。こういう暗黒面を漂わせる天気こそ、真の意味で俺にとっての『快晴』なのだ。


 さらに月日は流れ、一学期のくそ退屈で無駄以外の何物でもない終業式を終えたこの俺は屋上にいた。

学校に行く前に俗世間のニュースを見ていたら、超能力関連の報道がなされていた。

 内容は『超能力者に対する銃の発砲』である。この日本では、アメリカのような銃の発砲は基本許されていない。しかし、能力者犯罪が後を絶たないこの新世界で『銃』は旧人類の残された武器であり、限られた対処法なのであろう。

 腐った政治家やトチ狂ったマスコミ、そして小市民たちの間で賛否両論であったが、銃の規制緩和が正式に可決されたのである。

 能力を持った犯罪者は即射殺の対象になったというわけだ。

 まあ、俗世間を超越したこの俺には実にどうでもいいニュースであるが、倉田や斉藤、鹿沼、川島みたいに基本的に害が無い能力者であっても発砲されるというのだからある意味恐ろしい。

 見方を変えれば、政府は能力者の排除を肯定したことになるのだから。能力者が出世するこの時代でこの法案の可決は日本にどのような影響を与えるのか?・・・・・どうでもいいか。そんな小さなこと。偉大を超えている俺には些細未満なことだ。

 しかし、一つだけ面倒なことがあった。これはこの学校での元々の規則でもあったのだが、自身が有している能力を学校側に報告することであった。入学時に行われる手続きではあったのだが、この俺は入学してから進化を果たしたので、報告を怠っていたのである。今回の銃規制緩和法案が可決されたことにより、政府側が能力者をリストアップしたいらしく、このくそ学校がこの俺にどのような能力を有しているか用紙に記入するよう命じられたのである。負の感情を吸収し、あらゆる力に変換できる能力とは書きたくなかったので、『人類を超越した能力』とふざけて書いて提出した。書き直しを覚悟していたが、そのまま何も言われずじまいで終わった。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。明日から夏休みだ。実にすばらしい。この時をずっと、待っていた。そう、ずっと待っていたのだ。

『時は来た』とは、まさにこのことだ。

すると、屋上に倉田がやってきた。

「意外と早い一学期だった」

 倉田が笑みを浮かべながら言った。

 平和同好会に入ってしまった倉田にもうあの時の『死』のにおいのする負の感情を感じなくなってしまった。非常に残念である。これで、倉田という女の存在価値は無くなってしまったのだから。

 それともう一つ、不幸なニュースは斉藤と倉田が人助けをしたことだ。それは別にかまわないのだが、その相手というのが俺が精神疾患にした革新学校の生徒や桜井たちだったのだ。あんな生きてても世界に迷惑しかかけないような愚かな小市民を治療してやったのだ。倉田は革新学校生徒に暴行を受けて大怪我をおった影村を治療した。いじめをしていたやつらを救うなんて・・・・偽善だ。

「充実した一学期だった」

 倉田が笑顔で答えた。

 風が吹きつけ、俺と倉田の髪がなびく

 この俺がどこかノスタルジックな気分になった・・・・・・そんなわけはないが。

これからだ。俺の進化の旅はこれから始まる。

「斉藤さんが君を呼んでる。夏休みの計画を話し合いたいんだって」

「俺はこの町にはいないぜ。夏中ずっとな」

「え?」

「お前は夏の宿題以外何して生活するつもりだい? ホームレスの女神さん」

「平和同好会のメンバーといっしょに病人を探す旅に出かけるつもり。病院とか心を病んで引きこもっている人たちを救ったりとか」

「ふーん、そうかい」

「君にもいっしょについてきてほしかったんだけど・・・・」

 倉田から寂しさを感じる。俺の能力がそう感じ取っているのだ。別にこの俺がいなくたって問題はないだろうに。

「夏はこの町を離れる。今日からな」

 そして、俺は屋上から校庭に飛び降りた。それを見ていた倉田は驚いたであろう。

 何メートルも離れた地面に着地した俺は一瞬だけ校舎を見た。

 やはり、この学校は嫌いだ。

 そして、俺は歩きながら正門の方に向かって歩き出した。

 さあ旅行だ。最高の夏休みの始まりだ。

 俺の進化の旅。人の負の感情を吸収する旅が始まるのだ。

 この・・・この偉大な・・・偉大を超越した・・・この俺の旅。

『ダーク・トラベリング』が!



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