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ザ・チューニーズ   作者: 野川太郎
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第一章

人類を超えた人類の物語が今始まろうとしている。

 キーワードはそう、『超能力』だ。

 物理的に不可能なことを可能にしてしまう力。人類の革新。人類の進化。そして、人類の超越。これが、これこそが人類のあるべき姿。

しかし・・・・超能力を使えるすばらしき人類と、そうでない古い人類が存在する。

 人類とはつねに偏り、一定を超越した動物なのだろう。

 そして、この超人たちと凡人が存在する世界に、この偉大なる俺が生まれたのだ。

 俺こそ絶対、俺こそすべて、俺こそ人類を超越した存在。

 しかし・・・・なぜだ。なぜ、この偉大なるこの俺に超能力がないのか?

 この超能力者が評価される超能力社会において、能力がないというのは下等生物とみなされると同じではないか。

 これでは駄目だ。俺は人類を超越した存在のはずだ。俺が下等生物で一生を終えるはずがない。世界は俺を中心に回っているのだから。・・・・・いや、俺が地球の回転を許しているのだ。この俺が。

・・・と、俺は学校の教室の真ん中付近の机に座りながら考えていた。

 この俺流の哲学ってやつを。

 そうそう、自己紹介を忘れていた。この俺の名は握間太郎。世界を超越する高校一年生だ。知人たち小市民たちはこの俺のことを『中二病』という低俗な言葉で呼んでいる。

 中二病とはネット用語でこの俺が簡潔に説明すると、中学二年生児の知能・精神であるということだ。自分は特別な存在だとか、偉大だとか言っている勘違いやろうを意味する。もちろん、この俺のことではない。俺は断じて違う。こんな下等人類といっしょにしないでほしいぜ。

なぜなら、この偉大なる俺は世界に選ばれた男、世界を超える男だからだ。これは妄想ではない。真実なのだ。だから、この俺は中二病ではない。

また、最近では勘違いという意味にプラスして、力におぼれて自分を見失っている人物の事も指す。超能力があるだけで自分は神だとかヒーローだとか言い出し、暴走するやからのことも意味するようになった。よって、彼らもまた『中二病』と定義される。ま、これが新時代。新世界だ。

今、この俺の通っている下野川高校は共学である。しかし、この物語を閲覧している下々の者には『共学』という言葉が男女共学の意味に捉えてしまうのだろう。これだから古き人類は・・・・

 共学とは、超能力者とそうではないただの人間が共に教育を受けることができることを意味する。もちろん、その特殊能力によって条件は限られる。せっかくの特殊能力をコントロールできず、小市民を傷つけてしまう出来損ないの能力者はこの高校には入れない。

 この新時代には超能力者専用の高校、この俺が通う共学校、そして進化を受け入れられない下等人類だけの反能力者高校の三タイプが存在する。

 この俺に超能力があれば・・・・いや、もっと早く覚醒すればこんな中途半端な高校ではなく、超能力主義に染まった進化の象徴とも言える超能力学校に通えたはずだ。この高校いや、これは超能力者を受け入れてはいるが超能力の訓練授業がない。まさに古き伝統。この新世界に乗り遅れたこれなのだ。

 ・・・と、またまた俺流のすばらしき哲学に染まってしまっているこの俺であるが、今この古き高校の俺のクラスは数学の授業の真っ最中だ。

 あー勉強は退屈だ。死にそうなくらい退屈だ。

 この古き高校は進学校と位置づけられているが勉強のレベルは低く、学力の低い生徒に合わせるというカリキュラムかつ偏差値が五十未満という痛い高校なのだ。そんな存在意義も危ういこの高校にこの俺がわざわざ通ってやっている。

 しかし、このタルい授業内容でも一つだけいいことがある。レベルの高い高校の勉強地獄を堪能しなくていいことだ。その一点だけ感謝している。

 けれど、簡単かつ緊張感のないこの学校で生徒たち小市民たちは己のことしか理解できない小動物同然ゆえ、この偉大なる俺は、高校生になって学級崩壊を目の当たりにしなければならなかった。

 俺がおとなしく授業を受けている中、周りは互いのエゴを言い合って騒がしくなっている。この新世界の学校では学級崩壊を超越し、先生たちが完全に生徒を恐れている。過去には『熱血教師』と呼ばれる熱血馬鹿が存在したらしいが、今教師と呼ばれる愚民たちは生徒を導くのではなく、生徒に導かれる立場へとなった。教師がいて生徒がいるのではなく、生徒がいるから教師がいるというコンセプトが自然物として小市民たちに広く浸透してしまったのだ。ましてや、超能力生徒が存在し、少しでも教師が生徒を注意すると、念動力で教師を黒板に吹き飛ばされることや、発火能力の生徒が先生に火をつけたなどの事件が毎日テレビで放送されている。

 そう、教師と呼ばれる小市民たちは生徒という小市民たちを完全に恐れているのだ。

 ある生徒はヘッドホンで大音量の歌を聞き、ある生徒は堂々と十八禁雑誌を真昼間に読み、またある生徒は携帯電話でメールをやり取りしている。別の学校じゃあ、飛行能力を有した少年少女が飛行デートを授業中にやっている。

 これが新時代の学校なのだ。調子に乗った小市民生徒たちが学校を完全に支配しているのである。

 あるテレビ番組で、人類は進化したどっかの大学教授が偉そうに答えていたが、力があるだけでろくな使い方もできない哀れな小市民たちのどこが『進化』なのか? 内面的にはちっとも進化できていない哀れな小市民ばかりではないか。

 日本の学校にあるのは『学級崩壊』と『いじめ』と『出来損ないの進化系』と『進化できなかった古き人類』である。

 だから、俺は人類を超越しなければならない。この四種類の要素を超越した存在にならなければならないのだ。

 しかし、確実といってもいい。俺の内なる力がその能力を覚醒しようとしている。感じるんだ。少しずつではあるが俺は進化を果たそうとしている。そうだ。俺は人類を超越する存在となる。

 と、ここまでは良いがやはり今の俺は劣等生物に変わりない。この俺自身の進化は始まっているはずなのに表に表れない。

 俺のクラスである一年二組にも超能力者は存在する。その一人に影村俊二が上げられる。彼の能力は有名で念動力。物体を念じるだけで動かせる能力をよく自慢している。坊主頭で長身。友達も多く、授業中にもかかわらず、自身のシャープペンシルを念じて空中に浮かばせている。そして、シャープペンシルの先端を、黒板に数式を書いている先生に向けている。

 あの小市民がこれから何をしようとしているのか俺には手に取るように分かる。

 影村はそのシャープペンシルを空中浮遊させながら教師めがけて飛ばしたのである。その先端は教師の後頭部に突き刺さり、教師は激しい痛みにもだえ始める。それを見た生徒たちが一同に笑い出す。

「どうしたんですか?先生。そんなに痛がって」

 影村ごとき小市民が調子に乗っている。

 教師はかなり痛がっており、腰を崩してしまっている。

 この俺には分かる。あの教師は痛みと同時に恐怖しているのだ。震えているのだ。生徒ごとき小市民たちの残酷さに。

「せんせーい。早く授業してくださーい」

 教師の恐怖と絶望をまったく気にかけない女子生徒のリーダー的存在である桜井瞳が笑顔で言った。

 すると、先生が苦しみを堪えながら立ち上がり、落としたチョークを拾い出し、再び黒板に数式を書き始めたが、影村がそれで終わるわけが無く、今度は形の違った二本のシャープペンシルを両手で念じて先端部分を教師の後頭部に狙いを定め、空中発射した。その日本の先端部分は教師の首に当たったが、念動力の力が強かったために、さっきより刺さり方が増し、教師はさっきより激しい痛みに苦しむことになる。

 俺は人の不幸を見ると、全身が興奮し、喜びを感じる。別にサディスト的な意味ではない。よくいる変態たちの性的興奮などではない。究極の『感動』である。

 俺は狂っている?違うな。人類を超越した存在なのだ。ただ、同時に影村たちのやっている行いに対し、激しい憎悪を感じる。人の不幸を喜びながら人を不幸にしているやからを憎んでいる。俺のこの感情。やはり、俺は人類を超越した人類、世界に選ばれた人間なのだ。

「せんせいーい、いいかげんにしてくださーい」

 桜井が周りにいる友人たちといっしょになって笑っている。

 感じるぞ。クラスの悪意が。これが学校。これが日本。そして、これが新世界だ。

 クラス中が大爆笑の渦になり、教師の不幸をクラスの小市民たちが感動している。

 やつらの感動の中には悪意という人間の究極的な部分を感じる。まるで、人の心の闇が俺の体に流れてくるような。そんな感じが・・・・これが俺の力か・・・しかし、確証がない。まだだ。こんなもんじゃない。この偉大なる俺の力は。

「先生、俺たちまじめに授業を受けようとしてるんですけど」

 影村がわざとらしく言う。

「そうだそうだ」

 周りの生徒が紙くずや消しゴムのかすを数学教師に投げつけ始めた。

「やめろ、お前たち」

 数学教師は覚えながらひ弱な声で言った。しかし、小市民な生徒たちがそれを理解できるはずがなく、教師いじめはさらに加速した。

「よっしゃ、皆で紙飛行機飛ばそうぜ」

 影村が大声でそういうと大半の生徒たちがノートを破り、それぞれ違った紙飛行機を折り始めた。

 まったく、小市民どもが。この偉大なる俺をこれ以上失望させないでくれ。

 しかし、哀れなる小市民たちは何かに取り付かれたように折り続け、紙飛行機を折り終えた。そして、大半の小市民たちが紙飛行機を右手に持ち、構えた。

「一斉発射だ」

 影村が大声でクラス中に命令した。生徒たちは笑顔と悪意に満ちた顔で紙飛行機を飛ばした。先生はさっきのシャープペンシルで痛がっていて気がついていない。

 しかし、その悪意の結晶である紙飛行機に火が引火したのである。すべての紙飛行機が。そして、燃え尽きた紙飛行機はわずかな灰となり、クラス内に舞い上がっている。

 発火能力を持っている誰かが悪意に満ちた紙飛行機を燃やしたのだ。おかげで、先生にたどり着いた紙飛行機はほとんどなかった。

「誰だよ!発火したやつ」

 影村が怒りに震えながら叫んでいる。

 いいぞ、もっと怒れ。それが俺の喜びとなる。・・・・・まさか、これが俺の能力か?発火能力が俺の力・・・・しかし、何か違う気がする。そんなありきたりな能力のはずがない。俺はもっと特別な能力を有しているはずだ。

「隠してないで白状しなさい」

 桜井もいっしょになって叫んでいる。

 しかし、誰も何も言わない。

 この不快な沈黙の中で数学教授は恐怖し、教室を出て行ってしまった。

 学級崩壊の次は授業放棄か。小市民が。

「おい、影村。このクラスに発火能力者はいねーぜ」

 影村の後ろの席で影村の友人でもある池上春夫が言った。長髪で前髪が目より下に来ている。

「じゃあ、誰がやったって言うんだよ」

 影村の興奮は収まらない。

「そっか!」

 桜井がひらめいたような言い方で言った。

「能力者のリストを職員室から持ってきて調べればいいのよ」

「あ、なるほど。さっすが桜井」

 影村は友人たちを引き連れ、教室を出て行く。

 ・・・・・まずい、非常にまずい。

 普段、能力者であるかのように振舞っていたからリストで能力がないことがばれたら、能力者たちの報復を受けてしまう。

 早く覚醒しろ。この尋常を超越した俺にはそれができるはずだ。

・・・・・・・・・・・・別に、何も起きない。

 くそ、ちきしょう、馬鹿やろう。

 少なくとも、さっきの発火能力は俺じゃない。一度に複数の物体を発火させる能力は優れている。発火能力者の大半は皮膚から炎を吹き出すパターンが多く、火炎放射器のように両手から噴出す人間から、人差し指からライターレベルの火しか出せない者までたくさんだ。一連の紙飛行機発火事件は明らかにレベルの高い能力であり、ましてや動いている物体を一度に発火させるとなるとかなりの能力者だ。

 まあ、この究極を超越した俺にはかなわないだろうが。

 ・・・・だから、早く覚醒しろ。俺。これではまぬけも良いところだ。俺はもっと上位者のはずだ。

 それから、数分して影村たちは戻ってきた。職員室で念動力などの力で先生たちを脅し、リストを手に入れたことは明らかで、左手に束の白い用紙を持っている。

「じゃあ、犯人探しといこうぜ」

 影村が各生徒のプロフィールを確認していく。

 ・・・・しまった。俺はあ行で始まるから最初に載ってるんだっけ。

「えーと、最初は・・・・こいつはいいや、次」

 あ、あれ。俺が軽くスルーされた。あ行で始まる名前は俺しかいないはずだから間違いなく最初のプロフィール用紙に載っていたはずだ。

 ・・・そうか、この俺が能力者を越えた能力者であると知っていてあえてスルーしたってことか。分かってるな、影村。

 それからしばらく影村はプロフィールをめくりまくり、ある結論に達した。

「発火能力のやついねーし」

 それを聞いた小市民たちは一斉に不満の声を上げた。

「じゃあ、誰だよ」

「あ、いいこと思い出した」

 桜井が悪意に満ちた笑顔で言った。

「テレビで能力があるのに隠して生活してるって聞いたことある」

「何が言いたいんだ?桜井」

「だから、プロフィールに未能力って書かれてる生徒が実は発火能力を持ってましたってオチがあるかもってことよ」

「なるほど」

 影村や他の生徒たちは納得している。

「じゃあ、放課後、能力のねぇ役立たずは体育館裏に絶対集合な」

 ・・・・俺、いかねぇ


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