俺は普通の生活に終止符を打った。
新学期が始まり、クラス替えでぎゃあぎゃあと騒いでいたクラスメイトたちも段々とグループが固まりだし落ち着きを見せていた。ただ俺は変わらず変わり者であり何もしていないが、何もしていない故に決まった友人はできなかった。そうして過ぎていく日々の中で平凡に高校生活を送っている俺に衝撃的な環境変化が訪れる。俺は車にひき逃げされた。はずだった。精密に言えば人気のない橋の上で偶然通りがかった車と軽く衝突した俺はそのまま手すりの向こうへ飛ばされた。だが幸いその橋は低く、俺はけがひとつせず・・・しいて言うならば制服がぐしょぐしょになったこと。そして初めて携帯電話の防水機能が働いたということぐらいか。鞄は・・・橋の裏から突き出ている鉄の棒に引っかかっていた。車の運転手と思われる人の声がしたが真っ暗で何も見えないようだった。少し緊張した様子で誰かが「逃げよう」と確かに言った。頭上から再びエンジン音が響く。不安定に走り出したそれはこの後どうなるのだろう。そうして俺はひき逃げされた。はずだった。きっと彼らはこれからこの先ひき逃げしたという罪悪感に駆られながら少しの間、生活するのだろう。そう考えると逆にすっきりしてひき逃げされたことに対してあまり感情はなかった。しばらく腰が抜けていたためその場に座り込んでいた。静かだ。そしてくさい。俺はようやく立ち上がる。だが、視界に不思議なものを観た。遠くで何かが光っている。ぼんやりとだが、青く。少し歩けばたどり着けそうな気がして俺は歩き出した。これがもし壊れたおもちゃだったりとかペンライトが大量に捨てられていただけだったりとか歩きながら考えていたがそのときはそのときだとも割り切った。これがもし何かのキッカケならば、例えばこれから俺は特殊な人間の仲間になるとか例えば異世界があってそこに飛ばされるとか、夢のようだが妄想は膨らんだ。ただこのあとやはりペンライトが大量に捨てられていただけだったなんてことがあったらやはりショックはでかくなると思いその妄想は広げるのをやめた。とかしているうちにそれの場所へたどり着いた。石に埋もれているようだ。俺はもちろん掘り返す。そして青く光る大きな石を発見する。
それはどう表現していいのか・・・まるで俺を包み込むように優しく、だが不安にもさせる、そんな光だった。石は直径25センチメートルくらいの細長いものでずっしりとしていた。表面は碧く中心に行くにつれて蒼白くなっているように見えた。耳を当ててみると小さくだが確かに鼓動のような音が聞こえて俺はぞっとした。二回、ノックをしたらコンコンッと音がした。中は空洞なのか・・・重い理由はなにかが入っているのか・・・これはエイリアンの卵か?はたまた・・・いや、とにかくこの現代の地球に記録されている生き物の中にこんなものは居ないだろう。だからこれはきっと・・・そうだ、隕石だ!いや、でも隕石ってこんなに綺麗なものなのだろうか。この石(仮)の触り心地はまるで・・・そう、究極の泥団子のような・・・落ち着け、とりあえずもって帰ろう。ここは人通りが少ないからっていつまでもこんなとこにびしょぬれで居たら「あの男子高校生どうしたんだろう。脳内まで春になったのかな、まだ寒いのに」なんて思われかねない。まぁ多分こんな夜のこんな真っ暗なとこで人を見つけることは困難だろうが。鉄棒に引っかかった鞄を何とか取り、光る石は上着に包んで俺はまた帰路についたのだった。
本当にこれは何なのだろうか。もし隕石だったらどうしよう。えらいとこに連絡してもつまらないから記念に飾っておこうか。もしエイリアンの卵だったらどうしよう。人間を襲う種族ならきっと生まれながらの戦士だぞ、俺は殺されるかもしれない。そして仲間を呼んで地球がえらいことになるかもしれない。そうなる前に隔離しておかないと・・・でも強化ガラスのケースとか持ってないしどう入手すればよいのやら。恐竜の卵にしてはなんだか光りすぎだしな。いやいや、タイムスリップしてきたとか認めません。光ってるから。俺は普通じゃない生活に終止符を打った。