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◆07◆

 その後着々と勉強を積み重ねゆき、(ようや)く受験の日がやってきた。それ以上はどう頑張ってもやはり健太達のようにA判定にはならなかったが、それでも俺にしてはよくやったと思う。

 そして約半年かけて準備をしてきた集大成を出しきった!

 ――わけでもなかった。人生はなかなか自分の望む通りには動いてくれない。

 実は面接の時にあがってしまって野球部だというのに声は裏返り、何だか言葉遣いもおかしかった気がするし、それに大切な学科試験では目が点になるような問題も結構出題された。半年で少しは膨らんだであろう脳みそを捻って答えは書いたけれど、どうにも自信は持てそうになかった。

 しかし終わってからどう足掻いても後の祭りだ。取り敢えず受験は終わったのだ。

 これで一安心、肩の荷も下りたわ……やはりそうなるものでもない。まだ一つだけ残っていた。

 合格か否か、ということ。



 合格発表の時程、緊張するものはないと思う。俺は昔から結果を見るのが大嫌いで、やるだけやったら後は放り投げてしまう性格だった。

 あれは何月だったのだろうか、はっきりとは覚えていないのだが、多分一月か二月だったはずだ。

 あの日、昨夜ニュースのお天気お姉さんが言っていた「明日は晴れマークです。とても良い天気になるでしょう」はハズレだった。どこが「お洗濯日和」なんだ。こんなに突風が吹き荒れているというのに。確かに、これだけの風力なら洗濯物も乾くだろうが。

 九時過ぎに玄関の扉を開けると、向こうの空はくすんで見えた。本当に晴れなのか、これは。というより寧ろ一雨降りそうだ。そんな色だった。

 今閉めた扉をもう一度引き、台風が来たらすぐに折れてしまいそうなビニール傘を手に取った。俺は傘をすぐになくしてしまうので、五百円以下の安物しか買ってもらえないのだ。

 足下に視線を落とし、溜息が零れた。発表の日だというのに……。どうせなら晴天の下で知りたかった。元々高くはなかったテンションは落ちてゆくばかりだった。



 家から少し歩いた場所にバス停がある。丁度着いたらバスが停車している時だったので、乗り込んだ。乗っているとすぐ通りすがりに健太の家が見えた。ピンク色をした屋根の下では健太の母さんが洗濯物を干していた。おいおい、雨降りそうですよ、そう窓から叫んであげたくなる。健太はもうとっくに家を出てるだろうな。



「おい、お前明日何時に家出る?」

 昨夜だった。八時過ぎに電話のベルが鳴り、出てみると健太だった。

「八時半くらいに出たらいいんじゃねえ?」

 そう健太は言う。合格発表を一緒に見に行こうと誘う内容だった。

「俺は……明日、朝用事があるから時間通りに行けないんだ」

「用事?」

「ああ、ちょっとな。だから一緒に行けないから悪いんだけど稜輔でも誘ってくれよ」

「ふ〜ん……。分かった」

 嘘だ。本当は用事なんて何一つありはしない。

 俺は健太とは行きたくなかった。稜輔もそうだ。確実に合格しているような奴とは行く気になれなかった。

 模試では合格圏内には入っていた。でもそれは模試の中での話なのだ。いくら模試で良い結果を得られても、本番終了後に自信が持てないのでは何の意味もない。



 白門前に到着する頃にはもう九時半を過ぎていた。発表の紙が貼り出されるのは九時と予定されていたから、もうさすがに健太や稜輔は残っていないだろう。知り合いと顔を合わせたくなかった。もし俺が落ちたら何て声を掛ければいいか分からないだろうし、同情だってされたくない。 

 看板に書かれてある案内通りに進むと、度々人とすれ違った。普通は時間通りに来るだろうから、俺のような考えの人が他にもいたんだなと思う。彼らの中には、堪えきれなくなった涙を流す人もいたようだった。どう見ても嬉し涙には見えない。そしてまた、俺よりか頭が悪そうにも見えなかった。

 俺、本当にやばいのかもな。落ちてたらどうしよう……。目的地に着くまでの間、そんなことばかりが頭を過ぎった。受験前に持っていたあの自信は一体どこへ行ったのだろうか。

 そこに近づくにつれて、期待なんていう素敵な気持ちは益々薄れていった。掲示板の前に着いてもなかなか顔を上げることができなかった。だって周りには浮かれている顔の人間なんていなかった。でも、見なければならなかった。

 もういいや、とコートのポケットに入れたくしゃくしゃの受験票を片手に数字ばかりの掲示板とそれを照らし合わせた。


   一一九八番


 その数字は何の変哲もなく、数多くの受験番号のなかにひっそりと紛れていた。

「え……」

 俺は何度も何度も受験票と掲示板を行ったり来たりした。

 嘘じゃないよな? 夢じゃないよな?

 誰にとっても諦めかけていたものが叶うことほど、こんなにも嬉しいものはない。



「健太、健太! 俺、受かってた!」

 気が付けば合格前祝いにと買ってもらった携帯を取り出し、健太へ喜びの報告をしていた。



 今考えるとあの時、俺は合格のことだけで頭が一杯で、何が目的でそんなに頑張っていたのか、忘れていたような気さえする。

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